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作成: 1998/08/09 遠藤 啓吾

データ番号   :030022
肺癌の画像診断
目的      :肺癌のX線検査法を中心にした画像診断法の紹介
放射線の種別  :エックス線,ガンマ線
放射線源    :X線管、F-18
応用分野    :医学、診断、非破壊検査

概要      :
 肺癌は、悪性腫瘍の中でも最も難治の疾患であり、罹患率の増加と相まって悪性腫瘍の中で死因の第一位を占める。肺癌診断の最前線は、画像診断である。画像診断法として用いられている、胸部単純X線写真、CT(Computed Tomogaphy)、MRI(Magnetic Resonance Imaging)、超音波、PET(Positron Emission Tomography)について、これらの検査症例を示すとともにその適応と限界について紹介する。

詳細説明    :
 肺癌は、悪性腫瘍の中でも最も難治の疾患であり、罹患率の増加と相まって悪性腫瘍の中で死因の第一位を占めるようになった。近年になって増加し始めた原因として、自動車排ガスによる大気汚染や、舗装道路のまめつによるコールタール粉塵の吸入、さらに喫煙などが考えられている。これらの誘因が減少する傾向がないことから、肺癌は今後ますます増加する予想され 21世紀の医学における最も重要な研究課題の1つとなると思われる。
 一方、癌に関する今世紀最大の研究成果は、癌が遺伝子の異常によって起こってくることが解明されたことであり、肺癌においても、大腸癌ほど明瞭ではないが、幾つかの遺伝子異常の蓄積によって発症し、癌の浸潤・転移能も遺伝子が関与していることが分かってきた。これらの成果は癌の発症前における遺伝子診断の研究へと展開する可能性がある。しかし、現状における肺癌診断の最前線は、画像診断である。
 肺癌の画像診断法には、胸部単純X線写真、CT(Computed Tomogaphy)、MRI(Magnetic Resonance Imaging)、超音波、RI(Radioisotope)等があり、CR(computed radiography)、高分解能CT、ヘリカルCT、高速MRIの登場など、画像診断の進歩にはめざましいものがある。肺癌の撲滅には、より早期の発見・診断・治療が必要であるが、この発見・診断には各種の検査法がある。ここでは、これらの適応と限界について紹介する。
 図1は、肺癌検診時におけるa)胸部CR写真、b)らせんCT像(肺野条件)およびc)精密検査時に得られたらせんCT像を示す。


図1 肺癌の画像診断の例 a)検診時におけるCR写真  b)検診らせんCT像(肺野条件) c)精診thin section CT像(原論文1より引用)

 図1a)胸部CR写真では、特に異常は認められない。しかし、b)らせんCT像(肺野条件)による検診では、結節影(→)が認められる、そこでc)精密検査による精検thin section CTでも腫瘤(→)が認められることから肺癌の疑いが強い。そこで、実際に手術を行った結果、原発性肺腺癌の病理診断を得た。
 
1.胸部単純X線写真
 種々の新しい検査法が出現した今日でも、低被曝・検査の簡便性・費用効率などの点から、依然として第一選択の検査法であり、当分の間は、その位置付けは変わらないものと思われる.
 胸部単純X線写真では、肺野が縦隔・横隔膜・骨などのX線吸収値の大きく異なる構造と重なりあって投影されるため、すべての領域を適切な濃度で描出することは困難であるが、これを克服するためにアナログ画像に変わって、画像処理の可能なデジタル画像が用いられるようになっている(computed radiology-CR)。胸部単純X線写真の欠点は、病変の見落としや誤診が起こりやすいことである。なお、肺癌は、その生物学的特徴を反映して、多彩なX線像を呈することから、写真の読影の見落としを無くするために、肺癌検診の場合について「肺癌集団検診の手引き」肺癌取扱い規程1995(日本肺癌学会)が制定された。
 
2.CT
 CTが臨床に導入されてから約20年が経過したが、この間の技術的進歩には目覚ましいものがある。検査時間の短縮や画質の向上に加えて、高分解能CTやらせんCTなどが開発され、現在では肺癌診療において局在診断・質的診断・病気診断のいずれにおいてもCTが中心的役割を担っている。通常は、単純CTに引き続いて造影CTを行ない、必要に応じて原発巣の高分解能CTなどを追加する。造影CTは病巣の造影態度や肺門・縦隔リンパ節の検出、病巣と血管との関係などを精査するために必須である。
 高分解能CTはスライス厚1〜3mmで撮影し、FOV(field of view;画像表示エリア)を小さく設定すると、得られた画像は、ルーペによる病理像とほぼ対応し、腫瘤の性状・病変と既存肺構造との関係も詳細に評価でき、病変の良悪性の鑑別にも有用とされている。
 らせんCTの特徴としては、短時間に広い撮影範囲の撮影が可能なことが挙げられる。また、スライスごとの呼吸停止位置のずれがないため、小病変の逸脱を防止でき、従来のCTで描出が困難な部位(肺底部など)でも再現性のある検査が可能である。もう一つの特徴は、得られるデータが切れ目なく連続しているため、任意の位置で画像再構成を行うことが可能である。また、多断面変換像(MPR)や3次元立体画像の構築にも適している。
 図2は、肺腺癌が疑われる肺野部の高速らせんCTスキャンデータから、ボクセル法(voxel trancemission)により再構成した 3次元画像を示す。しきい値処理により、不要部分を消去して目的とする臓器や病変部を立体表示することができる。


図2 高速らせんCTによる肺末梢腺癌の3次元CT像の3切断面(原論文2より引用)

 図2に示す3枚の3次元CT像から、腫瘍部と肺末梢血管の3次元的な位置関係が明瞭に判る。
 
3.MRI
 MRIの利点は、X線被曝がないこと、造影剤を用いなくても血管構造の同定ができることなどであるが、欠点としては、空間分解能がCTに比して低いこと、正常肺と肺病変のコントラストが低く、また石灰化の検出もできないこと、呼吸や心拍動などの動きや心・大血管血流に弱いことなどがある。今後改良が期待されるが、現時点ではMRIはCTを補うものとして位置づけられている。
 
4.RI
 原発巣や転移巣の検出、また良悪性の鑑別としてRI検査が行なわれている(201Tl、 99mTc など)。最近では、18F-FDG (2-[F-18]-Fluoro-2-deoxy-d-glucose)を用いたPET (Positrom Emission Tomography)の検討で、原発巣やリンパ節転移の診断において良好な成績が報告されている。
 18F-FDGは肺癌部に集積し、正常肺には取り込みが低いことを利用したPET診断結果を図3に示す。


図3 PETによる18F-FDG画像-前額断層像の3切断面(原論文3より引用)

 図3の各切断面像において、肺癌部(上部→)およびその転移部(下部→)が明瞭に検出されている。

コメント    :
 肺癌検診の普及にもかかわらず、いまだに肺癌の進行例が多く検出され、依然として予後の5年生存率も他臓器原発の癌に比して悪い。今後CTが検診に導入されることになれば、小型肺癌の発見率は向上すると思われる。

原論文1 Data source 1:
高速らせんCTを用いた肺癌一次検診システムの構築−初期臨床経験−
渡 潤、田島 広之、徐 向英、隅崎 達夫、工藤 翔二、吉村 明修、村田 朗、松本 満臣、宮本 忠昭、松本 徹、矢野 侃
日本医科大学放射線医学教室、同大学第4内科学教室、都立医療短期大学、放射線医学総合研究所、荒川がん予防センター
映像情報29(14)、p.833-838、1997

原論文2 Data source 2:
胸部 Case20 肺末梢腺癌
新世代3次元CT診断、編著者 隈崎 達夫、小林 尚志、p.70-71、南江堂、1995

原論文3 Data source 3:
PET
遠藤 啓吾、鈴木 良彦、杉山 純夫
群馬大学医学部、
臨床画像、Vol.12(2)、p.174-180、1996

参考資料1 Reference 1:
肺癌の画像診断と鑑別のポイント
編集:松山 正也、平松 慶博
メディカルレビュー社、 1992.5.

キーワード:肺癌,lung cancer,単純エックス線写真,X-Ray film,CR,computed radiography,エックス線CT,X-ray computed tomography,MRI,magnetic resonance imaging,超音波,ultrasonography,RI,radioisotope,
分類コード:030102,030103,030401

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