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作成: 1998/09/04 遠藤 啓吾

データ番号   :030021
肝臓癌の高速らせんCT診断
目的      :高速らせんCTによる肝細胞癌の画像診断の紹介
放射線の種別  :エックス線
放射線源    :X線管
応用分野    :医学、診断、非破壊検査

概要      :
 小型の肝細胞癌の疑いのある症例の診断を高速らせんCT(Computed Tomography)で行った。造影剤注入法を用いて、肝動脈へのカテーテル挿入を併用した動脈CTや、上腸間膜動脈へのカテーテル挿入による経動脈性門脈造影CTによる過形成病変の診断を行うとともに3次元画像への再構成画像を示し、高速らせんCTの有用性を明らかにした。

詳細説明    :
 小型の肝細胞癌の疑いのある症例のCT(Computed Tomography)検査では、"単純CT"に引き続いて造影剤急速注入による"高速らせんCT"での早期相と晩期相の2相撮影を呼吸停止下で行うことが原則となっている。高速らせんCTは、微小肝臓癌の検出に非常に優れており、1回の息止めで全肝のスキャンが可能となり、従来のCTでは診断が困難であったような小さな病巣を描出できることができる。また、容易に3次元画像への再構成画像を得ることもできる。さらに、肝動脈へのカテーテル挿入を併用した動脈CT(CTA-CT during arterial portography)や、上腸間膜動脈へのカテーテル挿入による経動脈性門脈造影CT(CTAP-CT arteriography with pathologic correlation)など、血管造影カテーテル法と組み合わせる、応用などが発展し臨床に直接寄与する画像が得られようになった。ここでは、早期の肝細胞癌(早期高分化型肝癌、過形成病変)のうち、肝硬変に見られる過形成結節に関して高速らせんCTによる診断例を紹介する。過形成結節は、局限性の病変で悪性化の報告はなく、原則として治療の必要がないため、画像診断で同定できれば患者に福音となる。
 健康診断の腹部超音波検査で肝内腫瘍を指摘されたため、精査をすることになった。検査法として、肝の血管の造影は必要であることから、造影剤の注入を行いCTAP、CTAを実施した。
 
1.Helical dynamic study
 肘静脈から自動注入器を用いて、300mgI/mLのヨード造影剤100mLを急速静注する。造影剤注入後30秒後より第1相(動脈優位相)、70秒後より第2相(門脈優位相)を全肝をヘリカルダイナミックスキャン、造影剤注入後3分後より平衡相を撮影する。
 図1は、各相の診断像を示す。


図1 CT像 a)単純CT、b)dynamic study動脈優位相、c)門脈優位相、d)平衡相(原論文1より引用)

 図1a)単純CT像では、病変の指摘は困難であるが、b)動脈優位相では、肝左葉外側区に径1cmほどの病変(→)が描出されている。しかしc)門脈優位相および゛d)平衡相では不明瞭である。
 
2.CTA
 肝動脈に留置したカテーテルから造影剤を注入、1回の呼吸保持下に全肝をヘリカルダイナミックスキャンして撮影する。
 
3.CTAP
 上腸間膜動脈に留置したカテーテルから、140mgI/mLの濃度の造影剤を自動注入器を用いて注入、1回の呼吸保持下に全肝をヘリカルダイナミックスキャンして撮影する。
図2に、CTA、CTAP撮影の画像を示す。


図2 カテーテル挿入を併用したCT像  a)左肝動脈よりのCTA、b)上腸間膜動脈よりのCTAP(門脈実質相)(原論文1より引用)

 図2a)CTA像では、腫瘍は明瞭に描出(→)されているが、b)CTAP像では、淡い欠損像(→)として認められる。この結果は、この腫瘍は動脈血流に富み、門脈血流の乏しい病変であることを示す。
 らせんCTの特徴として、画像の3次元表示ができるので図3にそれを示す。


図3 SSD(Surface Shaded Display)法3次元画像(原論文1より引用)

 動脈の上に小さな腫瘍が有り、性状、進展度等の質的診断ができるとともに後方の錐骨との立体的位置関係が把握でき、患者への説明や医学教育分野での利用価値がある。
なお、本患者に関しては、古典的肝細胞癌(HCC)も否定できないため手術が行われた。病理標本では悪性所見はなく、結節性過形成であった。

コメント    :
 Helical dynamic study、 CTAP、 CTAを用いることにより、微小な肝細胞癌の検出が可能である。侵襲的な手技である血管造影と組み合わせた診断目的のCTAPとCTAを行えば、必要な場合には、診断と同時に化学動注療法や動脈塞栓術(TAE)などのIVRも容易になる。

原論文1 Data source 1:
症例2 肝限局性結節性過形成(FNH)
小林 成司、平松 京一
慶應義塾大学医学部放射線科学教室
高速らせんCTの実際-臨床応用UPDATE-監修・編集 小塚 隆弘,平松 京一,隈崎 達夫,片田 和廣,宍戸 文男 pp.97-100,メディカル・ジャーナル,1998

参考資料1 Reference 1:
特集 早期肝細胞癌と境界病変-最近の画像診断と治療の進歩-
画像診断,Vol 17(10),pp.1029-1093,1997 秀潤社

キーワード:肝臓癌,hepatocellular carcinoma,エックス線CT,X-ray computed tomography,ヘリカルCT,herical CT,血管造影,angiography,動脈CT,CTA-CT during arterial portography,経動脈性門脈造影CT,CTAP-CT arteriography with pathologic correlation,早期高分化型肝癌,eary hepatocellular carcinoma of well differentiated,過形成病変,dysplastic nodule
分類コード:030102,030103,030401

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