放射線利用技術データベースのメインページへ

作成: 1997/03/30 中瀬 泰然

データ番号   :030016
放射線法による徐放性薬剤の合成
目的      :ホルモン徐放性の人工睾丸についての紹介
放射線の種別  :ガンマ線
放射線源    :5x105rad/h
利用施設名   :日本原子力研究所高崎研究所コバルト60照射施設
照射条件    :真空、-78℃(ドライアイス温度)
応用分野    :医学、畜産学、生物学

概要      :
 合成高分子の各種の特性を利用して、含有する薬物の放出速度・時間を制御した医薬品の製造を放射線法で行った。除放性医薬品として男性ホルモンの一種であるテストステロンを含有する人工睾丸を生体適合性のある合成高分子を用いて低温γ線重合法で作成した。この人工睾丸からのホルモンの放出速度・そのときの濃度など初期の目的通りであり、治療等に使用できることを明らかにした。

詳細説明    :
 生体適合性のある高分子を生成する単量体として、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)を用い、この単量体(モノマー)に男性ホルモンの1種であるテストステロンを約50wt%加えた系で睾丸の形状にして真空下(10-3torr),-78℃(ドライアイス温度)でγ線を2.5Mrad照射して低温放射線固相重合を行い、図1に示すような3種のサイズの人工睾丸を作成した。


図1 各種サイズのテストステロン徐放性人工睾丸。 (原論文1より引用)

 ここでは、3種の大きさの物を示したが、成形は鋳型方式であるために、使用目的に応じて適切な形態を作成することが出来る。
 先天的テストステロン欠乏症や事故等で睾丸を失った人に対して、従来は薬剤の注射が主として行われていたがその持続時間が短いという欠点がある。睾丸のない人は男性としての生理機能が欠如することが多い、このコンプレックスを取り除くことも重要な医療活動であり、要求に応じて各種の大きさの睾丸も必要となってくる。ここでは標準的な大きさの人工睾丸からのテストステロンの放出挙動を図2に示す。


図2 テストステロン含有人工睾丸の薬剤放出速度。 (原論文2より引用。 Reproduced from Biomatrials, 8(1987),124-128, Figure 4 (p.127), Yoshida,M., Asano,M., Kaetsu,I., Imai,K.,Mashimo,T., Yamanaka,H., Kawaharada,U. and Suzuki,K, Studies of the slow releasing of testosterone from radiation-polymerized testicular prostheses implanted subcutanneously in the back of castrated rabibits; Copyright(1987), with permission from Elsevier Science.)

 図2は体内と同じ環境における試験管内でのテストで結果であり、放出速度(mg/日)は900日後でも初期値の約70%を保っている。したがって、2年以上に渡ってほぼ一定の濃度でホルモンが放出されていることがわかる。なお、放出速度は、放射線重合時のテストステロン添加量により制御することが出来る。
 このような結果を背景として患者への埋め込み試験を行い、特別の副作用もなく男性としての生理現象が現れ、医学的に良好な成果を得ていると同時に、美容成形的な目的をも達成し、男性患者の精神的・性格的安定性の向上に寄与している。

コメント    :
 高分子素材に薬剤を包含させてそこからの薬剤の放出を制御することが可能であることから、ホルモンに限らず例えば制癌剤、抗癌剤等を利用することができる。また薬剤の放出制御方法として、温度、pH、など周りの刺激に応答することも必要であり、このような薬剤の開発や、薬剤の保持材である高分子を生体内で徐々に分解させるような生分解型徐放性薬剤の開発も行われている。

原論文1 Data source 1:
低温放射線重合により人工睾丸を開発
吉田 勝
日本原子力研究所高崎研究所高機能材料第1研究室
FF(原研広報パンフレット) No.7,1993/4, p2

原論文2 Data source 2:
Studies of the slow releasing of testosterone from radiation-polymerized testicular prostheses implanted subcutanneously in the back of castrated rabibits
Yoshida,M.,Asano,M.,Kaetsu,I.,Imai,K.,Mashimo,T.,Yamanaka,H.,Kawaharada,U. and Suzuki,K.
JAERI(Takasaki Establishment) and Gunma University,
Biomatrials, 8(1987),124-128

参考資料1 Reference 1:
In vivo release fo testosterone from vinyl polymer composites prepared by radiation-induced polymerization
Yoshida,M.,Asano,M.,Kaetsu,I.,Nakai,K.,Yamanaka,H.,Suzuki,T.,Shida,K. and Suzuki,K.
JAERI(Takasaki Establishment) and Gunma University
Biomaterials, 4(1983),33-48

キーワード:徐放性製薬剤,controlled release phermaceutical, 放射線重合、radiation-induced polymerization, テストステロン,testosuteron,人工睾丸,testicular prostheses, 生体適合性高分子,hydrophilic polymer,ヒドロオキシ メタクリレート,2-hydroxyethyl methacrylate
分類コード:030503,010101,010204

放射線利用技術データベースのメインページへ