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作成: 1996/12/01 鷲野 弘明

データ番号   :030007
放射性医薬品とはどのようなものか?
目的      :放射性医薬品(中分類)を解説

概要      :
 放射性医薬品とは、放射性同位元素(放射性核種)を含んだ医薬品で、治療用医薬品、診断用医薬品、体外診断用医薬品の3種類に分類される。治療用医薬品は、β線放出核種を有効成分とし癌の治療に使用される。診断用医薬品は、低〜中エネルギーγ線放出核種で標識された化合物を有効成分とし、画像診断(SPECTやPET)に使用される。体外診断用医薬品は、3Hや125Iなどで標識され、血液中に極微量存在するホルモンやビタミンの検出定量に使用される。

詳細説明    :
 放射性医薬品とは、放射線治療用、核医学診断用あるいは血中微量成分の検出を目的として使用される放射性核種を含んだ体外核医学検査(体外診断)用医薬品である。このように放射性医薬品は、3種類に分類できるのでその使用目的および体内投与の有無を加えて表1に示す。

表1 放射性医薬品の種類
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 放射性医薬品      目的        体内投与
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治療用医薬品      癌などの治療       する
診断用医薬品      核医学における画像診断  する
体外診断用医薬品    血液などの検査     しない
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 それぞれについて若干の説明を行う。

1. 治療用医薬品
 
 治療用医薬品(以下RI治療剤)は、一般にβ線を放出する放射性核種を有効成分とする。β線などの放射線は、細胞増殖抑制作用あるいは殺細胞作用があるため、RI治療剤はそれを利用して癌の治療を行う。RI治療剤は、それ自体の癌集積能力を利用して液体で静脈内に投与する場合もあれば、放射性同位元素を含む液体あるいは固体として直接癌組織に入れる場合もある。
 
 癌組織に集まった放射性同位元素は、それ自身が放出するβ線などによって、癌細胞の増殖を抑制したり死滅させたりする。液体で静脈内投与される:[RI治療剤]:の代表例はNa131Iや89SrCl2である。
 Na131Iは、甲状腺癌に取り込まれる性質があるため甲状腺癌の治療に利用される。89SrCl2、は癌の骨転移部分に集積するため、骨転移疼痛の緩和に利用される。
 RI治療剤では、高い治療効果を得るために生物学的効果の大きいβ線を放出しかつ半減期の比較的長い核種が利用される。
 

2. 診断用医薬品
 
 診断用医薬品(以下RI診断剤)は、多くの場合低〜中エネルギーγ線を放出する放射性核種で標識された化合物を有効成分とする。RI診断剤は、脳・心臓・肝臓などの臓器、癌、疾患あるいは診断目的に応じて様々な化学構造の製剤がある。これらは、いずれも診断したい病態、例えば血流量やエネルギー代謝の変化に応じて特異的に分布するように有効成分の分子構造が設計されている。
 RI診断剤は、その対象患者に投与すると、疾患の状態に応じた特有の体内分布を示す。その分布は、RI診断剤が放出するγ線を体外から三次元的に検出し放射能分布として画像化される。この画像化装置が、シンチレーションカメラ、SPECT装置、PET装置などの核医学診断装置である。RI診断剤の体内分布は、患者個々の病気の状態を正確に反映しており、医師は問題となる臓器内の分布状態及びその時間的変化から病態を診断することができる。
 
 核医学診断は、患者にほとんど負担を与えることなく高度な情報を与える検査として認められ、全国の中核病院の放射線科あるいは核医学科で日常的に実施されている。
 RI診断剤に用いられる放射性核種は、すべてγ線放出核種であり、そのエネルギーは画像化に適した80〜510keVの範囲にある。γ線の放出は、診断に必要な時間だけでよいため、半減期は一般に数時間から4日以下と短い。従って、RI診断剤を投与された患者の放射線被曝線量は、ほとんど無害な量と言える。
 99mTcや123Iは、代表的なRI診断剤用核種である。
 
 
3. 体外核医学検査(体外診断)用医薬品
 
 ある種の病気は、特定のビタミンやホルモンの欠乏ないし過剰によって引き起こされる。しかし、これらの成分があまりに微量な場合、一般的な化学的方法では検出・定量できない。体外核医学検査(体外診断)用医薬品(以下検査薬)は、このような生体成分中に含まれる極微量成分を検出・定量するための医薬品であり、検査対象は特定疾患において体内に出現あるいは変動し、それを定量すれば病気の診断に役立つ成分である。ビタミンD、甲状腺ホルモン、脳下垂体ホルモンなどは、代表的な検査対象である。
 
 微量成分は、一般に抗原抗体反応と酵素発色反応あるいは放射性核種による検出系を組み合わせた反応系により定量される。放射性核種を用いる検査法(in vitro radioassay)には、RI標識抗体を用いるラジオイムノアッセイ(=コンペティティブアッセイ)(Radioimmunoassay=competiive assay)あるいはイムノラジオメトリックアッセイ(=サンドイッチアッセイ)(immunoradiometric assay=sandwich assay)と、特定物質に対する標識レセプターを用いるラジオレセプターアッセイ(radioreceptor assay)の3種類がある。用いられる放射性核種は、今日ではほとんど125Iである。
 表2に、治療用核種、診断用核種および体外核医学検査(体外診断)用核種の代表例を示す。

表2 放射性医薬品に使用される放射性核種
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 放射性医薬品             使用される放射性核種
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治療用医薬品      131I, (125I, 89Sr, 186Re, 153Sm, 90Y)
診断用医薬品      123I, 99mTc, 201Tl, 67Ga, 111In, 133Xe
体外診断用医薬品    125I, 3H
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 治療用核種は、現在ほとんど原子炉で生産されている、また、診断用核種は原子炉あるいはサイクロトロンで生産されている。

参考資料1 Reference 1:
(社)日本アイソトープ協会
インビボ放射性医薬品添付文書集,平成7年7月, &平成8年12月

参考資料2 Reference 2:
(社)日本アイソトープ協会
インビトロ放射性医薬品資料集,平成7年12月

キーワード:
分類コード:030598

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