核医学概論

放射線利用技術データベースのメインページへ
作成： 1996/09/01 山本　和高データ番号　　　：030004 核医学概論目的　　　　　　：核医学の概説放射線の種別　　：ベータ線,ガンマ線放射線源　　　　：¹²³I，¹⁸F，⁸⁹Sr 応用分野　　　　：医学、診断、治療、検査、トレーサ試験概要　　　　　　：　核医学とは、放射性同位元素 (radioisotope, RI)を利用して診療を行う医学の一分野である。検査の目的に応じて適当な RI で標識した放射性医薬品を患者に投与し、体内の放射能の分布の変化を体外からガンマカメラで撮像して診断する核医学診断が主要なものである。また、血液などの試料中に含まれるホルモンなどの微量の成分を測定する体外核医学検査や、RI を体内に投与して癌などの治療も行われている。詳細説明　　　　：　:[核医学]:とは、:[放射性同位元素]: (:[radioisotope]:－:[RI]:)を利用して診療を行う医学の一分野であり、人工RIの製造、RI:[標識化合物]:の開発、医用:[放射線測定機器]:の開発とあいまって、急速に進展している分野である。次に核医学:[診断]:、:[体外核医学検査]:および:[RI治療]:について説明する。　１．核医学診断　:[放射性ヨウ素]:を用いた例について紹介する。:[甲状腺]:は甲状腺ホルモンを合成、分泌しているが、:[甲状腺ホルモン]:には:[ヨウ素]:が含まれているため、甲状腺は血液中からヨウ素を選択的に取り込む働きがある。ヨウ素の同位元素でガンマ線を放出する¹²³Iを超微量投与すると普通のヨウ素と同様に取り込まれるので、それから放出されるガンマ線を:[ガンマカメラ]:で測定し:[シンチグラム]:として画像化して、甲状腺の大きさ、形態、局所機能などを診断する。図1に、¹²³Iによる:[甲状腺シンチグラム]:(正面像)を示す。図1　¹²³Iによる甲状腺のシンチグラム(正面像)。（原論文1より引用）正面像では右側であるが、矢印部の左葉下外側は、¹²³Iの取り込みが低下していることからヨウ素を取り込む機能のない:[腫瘍]:があることを示す。測定されたガンマ線のカウントデータをコンピュータで処理すれば定量的な評価も可能である。X 線検査と異なり、ヨウ素を取り込む機能のない周囲の筋肉や骨などの組織についても描出されない。このように機能情報を示す画像を簡単に得ることができるのが、シンチグラム検査の特徴である。　検査の目的に応じて適当な放射性医薬品を用いると、それぞれの集積機序に基づいた局所機能を反映するイメージが得られる。機能画像の他の例として、:[痴呆]:を引き起こす:[アルツハイマー病]:の早期の患者の脳の断層像を図 2 に示す。図2　早期のアルツハイマー病の患者の脳の断層像。（原論文2より引用）　左側上下の:[脳血流]:を示すイメージ像(CBF)では、後部(画像では矢印部)で¹²³Iの取り込みが不足していることから血流はかなり低下していることがわかる。一方、右側上下のイメージ像(NMAlate)では、脳神経細胞に集まる ¹²³I-iomazenilを用いており、その取り込みがあまり低下しないことから、この時期ではまだ脳神経細胞は生存していることがわかる。　:[肺癌]:で多数の転移のある患者について、¹⁸F-FDGというブドウ糖の類似の放射性化合物を用いて得られた全身像の場合を図3に示す。図3　¹⁸F-FDGによる肺癌の患者の全身像。　がん細胞では:[ブドウ糖代謝]:が亢進しているので、その部位に¹⁸F-FDGが集まり白く多数の異常集積が明瞭に描出され、がんの病巣を示すとともにその範囲を容易に診断することができる。なお、画面上側の頭部と下側の膀胱部にも集積し白くなっているが、これは脳が活発に働き¹⁸F-FDGを消費していること、代謝後の¹⁸F-FDGが膀胱に集積しているためであり、これらの部分は正常と考えられる。　２．体外核医学検査　この検査法にも幾つかの種類があり、大別するとRIを患者に投与後、採取した血液、尿、糞便などの検体中の放射能量を測定する方法と、RIを投与しないで、主として血清などを用いて試験管内での反応により、各種ホルモン、活性物質の量を測定する方法がある。ここでは、後者のRIを投与しない方法について:[ラジオイムノアッセイ]:(:[radioimmunoassay]:-:[RIA]:)法と:[イムノラジオメトリックアッセイ]:(:[immunoradiometric assay]:-:[IRMA]:)法について説明する。　1)RIA法　RIA法では、目的とする物質にRIを結合したものを一定量、測定したい試料(血清など)に加え、さらに目的の物質に特異的な:[抗体]:を加えて反応させ、:[抗体]:と:[抗原]:となる目的の物質を結合させる。元の試料中に含まれていた目的の物質が多いほど、後から加えたRIで標識した物質が抗体と結合できる割合は小さくなる。そこでこの抗体と結合したものを分離し、それに含まれる放射能を測定すれば、試料中に含まれていた物質の量を知ることがでる。　2)IRMA法　IRMA法は、最近よく使われている方法であり、測定したい物質のみに結合する抗体にあらかじめ RIを標識したものを試料に加えて目的の物質と結合させる。結合しなかった :[RI標識抗体]:を適当な方法で分離した後に放射能を:[シンチレーションカウンタ]:などで測定し、前もって測定しておいた既知のサンプルの結果と比較することで目的の物質の含有量を正確に知ることができる。非常に微量の放射能でも正確に測定できるので、ほんのわずかしか含まれていない物質でも正確に測定することができ、多数の:[ホルモン]:、:[悪性腫瘍]:に特異的な物質、:[アレルギー]:の原因となる特異なタンパク質(IgE)、薬剤など多数の物質の測定に利用されている。　　　３．RI治療　がんの:[放射線治療]:法としては、体外からの:[放射線照射]:が行われている。ここで、ベータ線を放出する¹³¹Iのような RIを結合した物質が、がん細胞のみに選択的に充分量集まれば、べータ線は組織透過性が弱いので周辺の組織にはほとんど影響を及ぼさないで、がん細胞だけに放射線照射を集中して治療することができる。これがRI治療の原理で、¹³¹Iを用いる転移性:[甲状腺癌]:の治療、⁸⁹Srによる転移性骨腫瘍による痛みの軽減に利用されている。コメント　　　　：　核医学診断では、X線検査など他の検査では得られない情報を簡単に非侵襲的に画像化することができ、多くの病院で日常的に臨床検査の1つとして広く利用され役立っている。　特定のがん細胞に結合するモノクローナル抗体を RI で標識して治療に用いる試みも進められており、現在の医療では治療できない進行がんも治療できるようになることが期待できる。原論文１ Data source 1： Ⅱ.甲状腺シンチグラフィ小西　淳二京都大学医学部最新臨床核医学(改訂第2版)、久田　欣一、古館　正従、佐々木　康人、小西　淳二(編集)、金原出版(東京)　p150,1991 原論文２ Data source 2：早期診断の試み　画像診断の面から北村　伸日本医科大学第二内科 Mebio，13(9),p34-40,1996 キーワード：核医学,nuclear medicine,放射性同位元素,radioisotope,RI,放射性医薬品,radiopharmaceuticals,核医学診断,in vivo test,シンチグラム,scintigram,ガンマカメラ,gammacamera,機能画像,functional image,体外核医学検査,in vitro test,RI治療,RI therapy 分類コード：030398
放射線利用技術データベースのメインページへ