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作成: 1996/08/05 遠藤 啓吾

データ番号   :030002
エックス線CT
目的      :エックス線CTの原理とその応用
放射線の種別  :エックス線
放射線源    :X線管
応用分野    :医学、農学、考古学

概要      :
 エックス線CTは、エックス線吸収の違いをコンピュータで処理し、体の断層像を作成したものである。開発された当初のCT装置は専ら、頭の病気の診断のみに使われていたが、CT装置の進歩で、全身どの部位でも精密な断層面をとることができ、いろいろな臓器の重なりも問題になることはない。エックス線を使うので、原則として妊娠している女性にはCT検査は行わない、若い女性の方は妊娠の有無に注意が必要である。

詳細説明    :
 エックス線CTはコンピュータ断層法(コンピューテッドトモグラフィ)の略で、文字どおり、コンピュータを使って身体の輪切り(断面 = 断層面)をみる装置である。断層面をみるCTの出現は、医学を大きく進歩させた。断面の画像を得るには、まずその画像のもととなる身体の中の情報を採る必要がある。そのためにCTではエックス線を使う。ただし、今までのエックス線撮影と違い、エックス線の出口に細長い穴の開いた鉛の板(コリメーターと言う)を置き、エックス線を薄い扇状に絞り込む(図1a)。


図1 エックス線CTのしくみと検査装置 a)CTのしくみ(抄録原論文1より引用) b)検査中の患者と診療放射線技師(原論文2より引用)

従って目的の断層面以外には殆どエックス線が当たらない。また、まわりから反射したエックス線(散乱線)も殆ど取り除くことができ,このために画質も良くなる。このようにして身体を通り抜けてきたエックス線は、検出器の部分にあたり、電気信号に変えられ,次にこれをデジタル信号として、コンピュータに取り込む。 実際のCT装置(図1b)では,エックス線源(エックス線管球)と検出器が向き合った形でおかれており、それが身体の回りをぐるっと回りながら信号をとる。このような方式をスキャンと言っている。様々な方向から得られたエックス線の吸収値を集め、これをコンピュータ処理をし、この吸収値の違いから灰色の濃淡として表示して、体の断層像を作る。つまり身体の回りを回転しながら様々の方向から得られた信号から、身体の断面の画像が計算により作り出される。得られた画像は、その断面でのエックス線の通りやすさ、通り難さが、白黒の程度(グレイスケール)で表される。図2に、頭部のCT像を示す。


図2  頭部CT像  a)正常像  b)脳出血CT像(原論文2より引用)

 画像の上では、骨のようにエックス線が通り難いところは白く、空気のように通りやすいところは黒く現れる。脳内の出血部(図2b)や腫瘍の部分(図3b)もX線が通りにくいため白くなる。図2a)は、脳の横断断層像で、頭の周囲の白い帯状部が頭蓋骨、灰色が脳実質、黒は脳脊髄液を示す。図2b)は、脳出血患者の頭部CT像で、中央右の白い部分(矢印)は脳出血部を示す。CTが発見される前のこれまでのエックス線検査では、脳出血部位の正確な画像診断はできなかった。
 図3に、腹部CT像を示す。


図3 腹部CT横断断層像 a)肝臓部を示す正常像 b)肝臓内に多発した腫瘍(矢印)像(原論文2より引用)

 図3a)は、正常な肝臓部のCT断層像であり、3b)は、肝臓内に多発した腫瘍(矢印群)が認められるCT像である。
 普通のCT検査では,一つの面をスキャンするのに1秒〜数秒かかる。その間に身体が動くと画像が乱れるので、じっとしている必要がある。とくに腹部や胸部の検査では,その間息をとめてなければならない。そして目的の部位(例えば肺や肝臓など)を漏れなくカバーするために、少しずつ位置をずらして何回かスキャンをする。
 最近では、断面を一枚づつ検査するのではなく、目的の範囲をらせん状に一回のスキャンで検査する方式も実用化された(ヘルカルスキャンと言う)。部位によっては,検査の前に絶食が必要なことがある。また場合によっては、血管や病巣をわかりやすくするために、造影剤という薬剤を静脈のなかに注入してからCTをとる場合もある。CTは全身どの部位でも精密な断層面をとることができる。

コメント    :
 これまでのエックス線写真(レントゲン写真)では、体の厚み全体が重なった像として描出された。しかしCTは断層写真なので、いろんな臓器の重なりが問題になることはない。CTはたくさんある画像診断法のなかでも、いまや中心的な検査となっている。わが国では数千台のCTが病院に設置されている。また医学以外にも動物、植物に関する農学や埋蔵品、仏像など考古学の分野でも利用されるようになった。

原論文1 Data source 1:
社団法人日本医学放射線学会
放射線科専門医があなたの疑問に答える。"放射線Q&A",p10, 1995

原論文2 Data source 2:
日立メディコ
X線CTスキャナーパンフレット

キーワード:コリメーター、散乱線、CT、ヘリカルCT、造影剤、肝腫瘍、脳出血、エックス線
collimeter,scattered radiation,computed tomography,helical computed tomography,contrast agent,liver tumor,brain bleeding, X-ray,
分類コード:030102,030103,030401,040304

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