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作成: 2000/01/11 長谷川 博

データ番号   :029598
農業分野(基礎生物)の解説
目的      :基礎生物の要素データの概説
応用分野    :放射線生物学研究、植物科学研究、植物育種、生物資源管理

概要      :
農業分野のなかの中項目「基礎生物」に分類された要素データのなかでは、植物関連データがその大半を占めている。内容は放射線照射を利用した突然変異育種の基礎研究と放射線利用技術を用いた植物生理・遺伝研究に関するものが多い。動物関係では漁業資源調査や生体成分調査への放射線利用に関する内容のほか、放射線障害の発生学、遺伝学的研究に関する文献が含まれている。

詳細説明    :
「基礎生物」は植物、動物および微生物に細分化されているが、ここに収録されている要素データの大半は植物に関係するものである。植物関連の要素データは、1)放射線照射を用いた:[突然変異]::[育種]:の基礎、および2)放射線利用を用いた新研究手法、あるいは放射線により誘発された突然:[変異体]:利用による植物科学の基礎研究の2分野に大別することができる。

「植物についての解説」
1)放射線照射を用いた突然変異育種の基礎
放射線照射(ほとんどがガンマ線、X線)による作物の:[突然変異]:の誘発とその利用はすでに確立した技術であり、1950年代より植物における:[放射線障害]:、突然変異誘発のメカニズムから突然変異体の選抜技術まで、突然変異育種の基礎から応用までの幅広い研究が発表されてきている。植物における放射線障害については個体から染色体・DNAレベル、および生理機能の分野から詳細に調査されてきた。障害を変更させる要因(増幅と軽減の両方向)の解析はより効率的な突然変異誘発のための照射技術の基礎研究となっている。近年は:[培養細胞]:系を用いた突然変異誘発が広く行われているが、その基礎技術に関する内容も基礎生物の項目に含まれている。突然変異育種についてのデータについて育種に含まれているデータと合わせて参考にして頂きたい。
2)放射線利用、あるいは放射線により誘発された突然変異体利用による植物科学研究
放射線利用技術を用いた植物科学研究については放射線照射植物における代謝変化の研究だけでなく、今日では:[放射化分析]:や:[マルチトレーサー]:法などを用いた植物の構成成分の分析や物質の転流の研究、:[ポジトロン]:放出核種である11C、13Nを用いた光合成、窒素代謝研究などが行われて成果を上げている。突然変異体を利用した植物科学の基礎研究は近年、分子生物学の発展とともにその重要性が非常に高まっている。この分野では化学突然変異原が用いられることが多いが、放射線(ガンマ線、X線)照射により多彩な突然変異体が誘発され、糖代謝や窒素代謝など植物生産の基本的な分野の研究に供されていることが本データベースからも窺える。

「動物および微生物についての解説」
放射線利用による動物関連の基礎研究は農林水産業関係分野においては多くなされてはいないが、利用方法は植物への利用とほぼ同内容である。本データベースに収録されたもののなかでは、:[アクチバブルトレーサー]:法による生態学研究や漁業資源の調査、:[放射化分析]:を用いた成分調査などが実用的価値が高いと思われる。放射線照射により得られた突然変異体の利用は実験用動物・昆虫における実験用系統の育成を除いてはないと思われるが、放射線照射を利用した研究として、昆虫の雌雄性判別に関する遺伝学的研究、放射線障害の発生学的研究などが行われている。これらは、:[不妊虫放飼]:法などの基礎研究として重要である。
本データベースにおいて放射線障害基礎研究に関わる内容は植物における放射線障害に関する文献を一部紹介しているに留まっている。その理由は農林水産分野への放射線利用を中心に取り上げたためである。

コメント    :
放射線照射の利用による突然変異育種や:[食品照射]:、:[滅菌技術]:に関する基礎研究の文献は1970年代までが多い。今日の生物学は分子生物学中心になっているが、放射線利用技術の基礎生物分野と分子生物学研究は主に以下の2つの点から重要な関連性を持つことを認識しなければならない。第1は、これまでに行われてきた放射線障害に関する研究の分子生物学分野からの再検討である。第2は、分子生物学研究は突然変異体を利用して進歩してきた。放射線は化学突然変異原より汎用性が高いので、幅広い突然変異体を獲得できること期待され、得られた突然変異体は品種育成だけでなく研究用材料の育成にも積極的に利用されることが望まれる。一方、生態学・環境科学分野も現在の生物学の大きな潮流となっている。アクチバブルトレーサーの利用など、これらの分野においても放射線利用技術が果たす役割が大きいと考えられる。
:[放射線基礎生物学]:の中心課題は放射線が細胞、遺伝子に及ぼす影響を解明することである。これらの基礎研究のほとんどは微生物、動物を用いて基礎研究が行われてきており、非常に多くの文献が発表されている。今後は医学、工業分野のデータベースとも連携して、この方面の要素データを整備する必要がある。

キーワード:イオン化放射線、放射線生物学、放射線障害、突然変異育種、植物科学、分子生物学、昆虫学、魚類
ionizing radiation, radiation biology, radiation damage, mutation breeding, plant science, molecular biology, entomology, fishes
分類コード:020501, 020502, 020503, 020101

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