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作成: 1999/10/07 小山 重郎

データ番号   :029298
放射線を利用した害虫駆除(害虫駆除分野解説)
目的      :放射線を利用した害虫駆除
放射線の種別  :ガンマ線,電子
応用分野    :害虫駆除、不妊虫放飼法、植物検疫

概要      :
放射線を用いた害虫駆除には、ガンマ線または電子線の照射によって(1)害虫を直接殺す場合と、(2)害虫を不妊化して野外に放し、害虫と交尾させてその子孫を減らすかまたは絶滅する不妊虫放飼法とがある。本データでは(1)を検疫処理(一部不妊化を含む)(2)を不妊化で扱う。

詳細説明    :
 放射線を用いた:[害虫駆除]:には(1)害虫を直接殺す場合と(2)害虫を:[不妊化]:して野外に放し、害虫と交尾させて、その子孫を減らすかまたは絶滅する:[不妊虫放飼]:法とがある。本データにおいては、(1)は検疫処理で扱い、(2)は不妊化で扱っている。またそのために照射される放射線の種類はガンマ線または電子線である。

 (1)検疫処理
 わが国に外国から農産物を輸入する場合に、その輸出国から、わが国に分布していない病害虫がその農産物商品に付着または潜入して侵入し、わが国に蔓延して農業に重大な損害を与える恐れがある。そこで、「植物防疫法」によってこのような病害虫の侵入を未然にくい止めるための検査と、もし発見された場合にはこれを駆除することが行われており、これを「:[植物検疫]:」という。「:[検疫処理]:」はこのような目的で農産物商品に付着もしくは潜入している害虫を駆除することである。駆除の方法としては、農産物商品の品質になるべく障害を与えずに害虫を殺す手段が用いられるが、従来、高温・高湿、低温などの処理とメチルブロマイドなどの化学薬品処理がよく用いられてきた。しかし温度処理は商品の品質をそこなうおそれがあり、またメチルブロマイドは地球のオゾン層の破壊のおそれにより、近年その使用が制限されている。そこで、放射線(ガンマ線、電子線)による殺虫(一部不妊化)試験が試みられている。ただ、わが国では食品の放射線照射に対する消費者の理解がまだ十分得られないため、現在、検疫処理のための放射線照射は:[切り花]:において試験されているだけである。
 
 (2)不妊化
 害虫駆除には従来殺虫剤が多く用いられてきたが、殺虫剤には人畜にたいする急性または慢性の毒性、環境及び食品への残留毒性、殺虫剤に抵抗性のある害虫の出現、自然に害虫の数を減らしている天敵の死滅などさまざまな問題が起ったため、これにかわる駆除法がもとめられてきた。これにたいして、対象の害虫のみに効果があり、他に影響を及ぼさない害虫駆除法として、放射線を利用した:[不妊虫放飼]:法が開発された。不妊虫放飼法はどんな害虫にたいしても有効な方法ではなく、対象の害虫を野外にいる害虫よりも大量に人工増殖でき、放射線照射によってその活力を著しく低下させることなく不妊化でき、またこれを野外に放飼したときに、まわりの地域からその害虫が侵入しないような隔離された地域で適用されたときのみ成功の可能性がある。
 最初、家畜害虫の:[ラセンウジバエ]:で試みられ米国、中米、北アフリカて成功した。続いて、果実の害虫であるミバエ類で試みられ、:[チチュウカイミバエ]:が米国、中南米で成功し、:[ウリミバエ]:がマリアナ諸島と日本で成功し、:[ミカンコミバエ]:がマリアナ諸島、日本で成功し、現在タイとフィリッピンで試みられている。さらに、アフリカで人畜の眠り病を媒介する:[ツェツェバエ]:、カナダでリンゴ害虫の:[コドリンガ]:でも試験的に成功している。
 不妊虫放飼法は本来、不妊化した雄のみが有効であるが、雌雄の選別が技術的に困難なため、不妊化した雌も同時に放飼されているが、遺伝的に雄のみを選別して不妊化し放飼する試みが:[チチュウカイミバエ]:ではじめられた。また日本ではサツマイモの:[ゾウムシ]:類に対する不妊虫放飼法の試みがはじまっている。このように、不妊虫放飼法は現在も改良を続けている害虫駆除法である。

キーワード:害虫駆除、不妊化、根絶、植物検疫、検疫処理、ガンマ線照射、電子線照射
insect pest control, sterilization,eradication,plant quarantine,quarantine treatment,gamma-ray irradiation,electron beam irradiation
分類コード:020298

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