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作成: 2011/1/13 堤 智昭

データ番号   :020286
日本における放射線照射食品の検知法:通知法であるアルキルシクロブタノン法と熱ルミネッセンス法の解説
目的      :放射線照射食品を検知するための公定法の紹介と解説
応用分野    :検知法、分析法、迅速化

概要      :
 放射線照射食品を取り締まるための検知法として、アルキルシクロブタノン(ACB)法と熱ルミネッセンス(TL)法が厚生労働省より公定法として通知されている。ACB法の通知では、試験法の性能評価方法が示されており、これを満足すればどのような試験法でも選択することが可能である。TL法については、ヨーロッパ標準規格法及びコーデックス標準分析法であるEN1788を参考にした試験法が通知されている。

詳細説明    :
 我が国では食品衛生法第11条「食品一般の製造、加工及び調理基準」により、馬鈴薯の発芽抑制を目的とした場合を例外として、食品への放射線照射(以下、照射と記す)は認められていない。しかし、諸外国では様々な食品に照射が行われており、多くの食品を輸入に頼っている我が国では、海外から照射食品が誤って輸入される恐れがある。照射食品を輸入した場合は、食品衛生法第11条違反として取り扱われる。そのため、特に輸入食品に対して照射の有無を判別する検知法の整備が不可欠である。日本では現在、アルキルシクロブタノン(ACB)法と、熱ルミネッセンス(TL)法が厚生労働省より公定法として通知されている。
 ACB法は本通知(食安発第0330、平成22年3月30日発出)で新たに通知された試験法であり、脂肪を含む食品が分析対象となる。照射により食品中の脂質から生じたドデシルシクロブタノン(DCB)及びテトラシクロブタノン(TCB)をガスクロマトグラフ質量分析計(GC/MS)により検出し照射の有無を判定する。ACB法には種々の試験法が存在するが、通知では特定のACB法を限定していない。選択した試験法により対象とする食品について、図1に示す性能評価試験を実施し満足する結果が得られれば、その試験法により試験することが可能である。なお、性能評価試験の判定項目はヨーロッパ標準規格法及びコーデックス標準分析法であるEN1785(参考資料1)の判定基準に従っている。本性能評価試験は、試料の照射を必要とせず、4日あるいは8日で評価試験が終了するため、多くの試験室において実行可能と考えられる。


図1 ACB法の性能評価試験のフローチャート

 また、通知ではACB法の一つとしてEN1785が例示されている。EN1785によるACB分析の概略を図2に示した。食品より脂肪をソックスレー抽出により得た後、フロリジルカラムによりDCB及びTCBを分離精製し、得られた試験液をGC/MSにより分析する。EN1785により上述した性能評価試験を牛肉、豚肉、鶏肉、サーモンについて実施した結果、本法がこれらの食品の照射検知に適用可能であることが確認されている(参考資料2)。なお、例示されているEN1785についても各試験室で導入する際は、既述した性能評価試験を実施し、その検知性能を予め検証する必要がある。


図2 EN1785によるACB分析の概略

 TL法は食品に付着しているケイ酸塩鉱物が、照射により蓄積したエネルギーを加熱により放出する際の発光現象を検出する。TL法は鉱物が付着しやすい香辛料、野菜類、果実、茶、水産物が分析対象となる。TL法は食品自体ではなく食品に付着している微量の鉱物が測定対象になるため、食品の状態により鉱物分離が困難な場合は本法の適用が不可能となる。TL法は平成19年7月に香辛料を対象に通知された後、適用食品の拡大が数回行われてきた。最新の本通知では、照射の判定基準に関わる項目が大幅に改められ、ヨーロッパ標準規格法及びコーデックス標準分析法であるEN1788(参考資料3)の判定基準に近づけた試験法になっている。


図3 通知法によるTL測定の概略

 主な対象食品となる香辛料や野菜等については、食品から鉱物をポリタングステン酸ナトリウムにより精製し、その後、鉱物由来の発光量をTL測定により求める。通知法のTL測定の概略を図3に示した。1つの試料から2つ以上の試料を用いて測定を行い、1つ以上の試料において以下の判定項目の両方を満たす場合、放射線照射されたと判定する。但し、(1)を満たし(2)を満たさない場合は、試料の一部に放射線が照射されている可能性があると判定する。これ以外の場合は、放射線照射されているものと確定できない。
(1)第一発光量(G'1)がMDL(操作ブランク発光量の平均値+3標準偏差)の3倍以上である。かつ、G'1発光曲線状に発光量が増加した後に減少する明確な発光極大が認められ、その発光極大温度が250℃以下である。
(2)TL発光比(G1/G2)が0.1を超える。但し、G1=G'1−B1、G2=G'2−B2とする。
また、以下の項目に該当する場合は、試験が適切に実施できなかったと判断し、照射の有無を判定することができない。例えば、(1)の場合は鉱物分離が適切にできなかった可能性、(2)の場合は標準照射のための輸送に伴う測定試料の損失などが考えられる。
(1)第二発光量(G'2)がMDLの10倍以下である。
(2)TL発光比が0.1付近であるが、第一発光の測定後と第二発光の測定後の試料重量が大幅に変動している。
本通知では、照射の判定に係わる部分として、MDLの導入、G'1発光極大温度の判定温度の変更などが追加・修正された。

コメント    :
 公定法が通知されたことで我が国における照射食品の取り締まりが可能になり、食品衛生行政に大きな貢献を果たしている。最新の本通知ではACB法が新しく追加され、TL法で適用が困難な食品(畜肉類など)に対し検査対象を拡大した。また、TL法についても判定基準などを改正し、試験法の信頼性を向上させるための改善が行われた。今後の課題としては検査効率の向上を目指し、現通知法の迅速化及び新しい検知法の導入などを検討していくことが望まれる。

原論文1 Data source 1:
放射線照射された食品の検知法について(厚生労働省医薬食品局安全部長通知)

厚生労働省
食安発第0330(平成22年3月30日)

参考資料1 Reference 1:
Foodstuffs. Detection of irradiated food containing fat. Gas chromatographic/mass spectrometric analysis of 2-alkylcyclobutanones
European Committee for Standardization
EN 1785:2003

参考資料2 Reference 2:
アルキルシクロブタノン類を指標にした放射線照射食品の検知法
堤 智昭
国立医薬品食品衛生研究所
食品照射 45(1,2):39-46(2010)

参考資料3 Reference 3:
Foodstuffs. Thermoluminescence detection of irradiated food from which silicate minerals can be isolated
European Committee for Standardization
EN 1788:2001

キーワード:放射線照射食品、公定法、日本、検知、ヨーロッパ標準規格法、アルキルシクロブタノン、ガスクロマトグラフ質量分析計、鉱物、熱ルミネッセンス
Irradiated food,standard method,Japan,detection,European standard method, alkylcyclobutanone,gas chromatography/mass spectrometry,mineral, thermoluminescence,
分類コード:020404

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