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作成: 2011/2/18 高橋 美佐

データ番号   :020283
環境浄化に役立つ緑化植物の創成
目的      :突然変異利用によるオオイタビの改変
放射線の種別  :重イオン
放射線源    :12C6+(320MeV)
線量(率)   :10-200Gy/min
利用施設名   :日本原子力研究開発機構高崎量子応用研究所 Azimuthally varying field (AVF) cyclotron
照射条件    :大気中、常温、常圧
応用分野    :環境浄化植物、緑化基材

概要      :
 無菌的に培養したオオイタビのシュートから調整した外植片に無菌的にイオンビーム照射をして得られたオオイタビ新品種「KNOX」。在来種に比べて40-80%以上高い二酸化窒素(NO2)吸収能を有する

詳細説明    :
 植物は太陽光をエネルギー源として環境中から物質を体内へ取り込み、体内で物質変換、代謝し、自らは成長分化し、また代謝産物を環境中へ放出する。このような植物の能力を利用した環境汚染の浄化修復方法はファイトレメディエーション(Phytoremediation)と呼ばれる。我々は、大気汚染物質の一つである二酸化窒素(NO2)に着目して、NO2のファイトレメディエーションについて研究してきた。NO2は、一酸化窒素(NO)とあわせて、窒素酸化物(NOx)と呼ばれることが多い。大気中のNOxは、自然発生源と人工的発生源に由来する。自然発生源は火山、雷などである。自然発生源に由来する大気中NOx濃度は比較的低濃度である。人工的発生源は自動車、工場、火力発電所、家庭などである。都市大気のNOxの人工的発生源は自動車で、約50%を占めるとされる。
 より実用的な視点から、イオンビーム育種法によるNO2吸収代謝能を向上させた変異体の育成をめざした。植物材料として、オオイタビ(Ficus pumila L.)を用いた。オオイタビはクワ科イチジク属のつる性常緑樹で、気根を出して壁面を這い上がる性質をもっており、壁面緑化に適した植物である。試験管内で無菌的にシュート培養したオオイタビ・シュート外植片に日本原子力研究開発機構高崎量子応用研究所のAzimuthally Varying Field(AVF)サイクロトロンを用いてイオンビーム照射を行った(原論文1)。イオンビームとして12C5+(220MeV)、4He2+(50MeV)、12C6+(320MeV)を用いた。照射した外植片は、新しい培地に移植、継代した。新たに形成されたシュートを切り取り、発根させ、約20cm長の小植物体を屋外の温室に移し、約一ヶ月間栽培した。
 3年間で約25000外植片にイオンビーム照射を行ない、263個の植物体(系統)を得た。それらについて、明所下1ppm NO2で8時間曝露の条件で、NO2吸収能を調べた。その結果、系統間で最大約100倍の差異が観察された。吸収能の高い16系統を選び、1系統につき10個ずつ挿し木で増殖させ、NO2吸収能を同一条件下で調査した。さらにその中から高い能力を持つ系統を選抜、増殖、NO2吸収能の調査を繰り返した。その結果、イオンビーム照射しない外植片から得られた植物(コントロール植物)に比べて有意に1.4倍高いNO2吸収能を持つ突然変異株が選抜された。この変異株のNO2代謝能(NO2由来の還元窒素量)もコントロール植物に比べて上昇していた。本研究で得られたオオイタビ突然変異体はKNOX株と名付けた(図1)。これらの結果は、イオンビーム照射によりNO2吸収代謝遺伝子に変異が誘発され、NO2吸収代謝能が向上したことを強く示唆するものである。KNOXにおいて、亜硝酸還元酵素(NiR)活性活性の顕著な向上は認められず、硝酸代謝経路の酵素遺伝子との関連を含めて、原因遺伝子は現在調査中である(原論文2)。


図1 イオンビーム照射により得られた高二酸化窒素吸収能を持つKNOX(右)とコントロール植物(左)

 KNOXは、形態的には親株と比較して変化は見られなかった(図1)。壁面緑化に適したオオイタビの特性は維持されており、本変異体は壁面緑化に適した植物であることが示された。KNOXは、株式会社みのる産業から「ノックスイタビ」という名称で販売されている(原論文3)。

コメント    :
 本オオイタビ新品種「KNOX」は、突然変異体であるが、遺伝子組換え技術を用いていないので、屋外栽培についてPA(パブリック・アクセプタンス)を得ることには問題がない。KNOXを用いた壁面緑化は低炭酸ガス発生型技術である。また、ヒートアイランド現象の緩和技術である。

原論文1 Data source 1:
Effect of ion beam irradiation on the regeneration and morphology of Ficus thunbergii Maxim
M.Takahashi,S.Kohama,K.Kondo,M.Hakata,Y.Hase,N.Shikazono,A.Tanaka and H.Morikawa
広島大学、日本原子力研究開発機構
Plant Biotechnol,22(1),63-67

原論文2 Data source 2:
植物利用による環境浄化法−ファイトレメディエーション
高橋美佐
広島大学
ケミカルエンジニアリング54,(4)18-21(2009)

原論文3 Data source 3:
大気環境浄化における植物の可能性
高橋美佐
広島大学
におい・かおり環境学会誌42(1)2-7(2011)

キーワード:オオイタビ、ファイトレメディエーション、二酸化窒素、大気汚染、壁面緑化、蔓性植物、クワ科、常緑樹
Ficus pumila(creeping fig),phytoremediation,nitrogen dioxide,air pollution,walled green,climber tree,Moraceae,evergreen
分類コード:020104,020301,020501

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