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作成: 2007/07/25 林 徹

データ番号   :020279
農産物の植物防疫処理としての放射線照射の国際基準
目的      :放射線による植物検疫処理の国際的な認知
放射線の種別  :エックス線,ガンマ線,電子
放射線源    :電子加速器、60Co線源
応用分野    :農産物貿易、農産物流通

概要      :
国際植物防疫条約は、2003年に植物防疫処理としての放射線照射を認可し、植物防疫処理のための国際基準No.18として収録した。

詳細説明    :
 1992年11月にコペンハーゲンで開催された第4回モントリオール議定書締約国会合において、穀物や果実の殺虫などに使用されている臭化メチルは、オゾン層を破壊するとの理由により、原則として、先進国では2005年、途上国では2015年に使用禁止となった。ただし代替技術がなく臭化メチル使用禁止が産業的に問題が生じる場合には、臭化メチルの不可欠用途としてその使用が認められている。植物防疫を目的とした臭化メチルの使用は、臭化メチルに代わる有効な殺虫技術が開発されていないため、例外的に禁止措置の対象から外されている。しかし、たとえ植物防疫処理であってもオゾン層を破壊する臭化メチルは使用しない方が好ましく、臭化メチル燻蒸の代替技術の開発が急がれている。
 臭化メチル使用禁止の動きに呼応して、FAO/IAEAは"Irradiation as a Quarantine Treatment of Mites, Nematodes and Insects other than Fruit Fly (1992-1995)"及び"Irradiation as a Phytosanitary Treatment for Food and Agricultural Commodities (1998-2002)"の2つの国際プロジェクトを実施して、植物防疫のための放射線利用技術の開発を行った。これらのプロジェクトの参加者を中心に、各国でも研究が実施され、各種害虫の殺虫線量が明らかにされた。
 蓄積されたデータに基づき、2003年4月に植物防疫基準化暫定委員会(Interim Commission on Phytosanitary Measures, ICPM)は放射線照射を植物防疫処理として利用するための基準(Guidelines for the Use of Irradiation as a Phytosanitary Measure)を採択し、国際植物防疫条約(International Plant Protection Convention)のInternational Standards for Phytosanitary Measures (ISPM) No.18として収録した。このことにより、放射線照射は国際的に認知された植物防疫処理となった。ISPM No.18 において、放射線照射の目的は@ 殺虫(菌)、A 健全な発育の阻止(例えば、成虫の羽化の阻止)、B 繁殖阻害(例えば、不妊化)、C 不活性化の4つのいずれかとしており、さらに植物の不活化(例えば、種子が発芽するが生育しない、または塊茎、球根または穂木が発芽しない)も含むとしている。放射線照射により害虫が即死することはなく、ほとんどは生残するので、放射線照射についてはガス燻蒸、低温処理、高温処理とは異なった視点からの認定が必要である。すなわち、放射線照射しても生残している害虫が、@完全な不妊化、A片方の性のみの繁殖制限、B産卵/ふ化後の発育阻止、C改変された行動、DF1世代の不妊化のいずれかを起こすことにより繁殖などの能力を消失していることを明らかにして、放射線照射を植物防疫処理として有効であると認定したものである。表1に示すように、個々の害虫に対するこのような効果を得るための最低線量(Dmin)がISPM No.18に参考資料として掲載されている。農産物の照射に際して、すべての部位がこの最低線量以上の放射線が照射されるようにしなければならない。なお、放射線照射の対象が植物ウィルスなど病原体のベクターとなるアブラムシなどを対象とする場合には、ベクターとなる害虫を死滅させる必要があり、表1に示した最低線量は適用されない。

表1 ISPM No.18に記載された検疫害虫の殺虫最低線量
                        
│ 害虫の種類               │期待する効果                │最低線量範囲 (Gy) │
│アブラムシ類、コナジラミ類│成虫の不妊化                │   50-100        │
│マメゾウムシ類            │成虫の不妊化                │   70-300        │
│コガネムシ類              │成虫の不妊化                │   50-150        │
│ミバエ類                  │3齢幼虫からの成虫羽化阻害  │   50-250        │
│ゾウムシ類                │成虫の不妊化                │   80-165        │
│シンクイガ                │熟齢幼虫からの成虫出現の阻止│   100-280       │
│アザミウマ類              │成虫の不妊化                │    150-250       │
│シンクイガ                │終期蛹の不妊化              │   200-350       │
│ハダニ類                  │成虫の不妊化                │   200-350       │
│貯穀害虫・甲虫            │成虫の不妊化                │   50-400        │
│貯穀害虫・蛾              │成虫の不妊化                │   100-1,000     │
│センチュウ類              │成虫の不妊化                │     〜4,000     │
 


コメント    :
放射線照射は、植物防疫処理として国際的に定義づけられたことにより、臭化メチル燻蒸の代替技術としての道が開かれた。

原論文1 Data source 1:
Guidelines for the Use of Irradiation as a Phytosanitary Measure
Secretariat of the International Plant Protection Convention
Food and Agriculture Organization of the United Nations
International Standards for Phytosanitary Measures Publication No.18,April 2003

原論文2 Data source 2:
Explanatory Document on International Standard for Phytosanitary Measures No.18
G.J.Hallman
Agricultural Research Service,USDA,USA
ISPM No.18/Explanatory document,January 2006

キーワード:植物防疫、検疫、殺虫、不妊化、ガンマ線、エックス線、電子線、果実、野菜、ミバエ、ゾウムシ、切花
phytosanitary,quarantine,disinfestation,sterilization,gamma-ray,X-ray,electron beam,fruit,vegetable,fruit fly,weevil,cut flower
分類コード:020201, 020202, 020402

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