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作成: 2007/08/17 飯塚 正英

データ番号   :020275
イオンビーム照射によるオステオスペルマム新品種の育成
目的      :オステオスペルマムのイオンビーム育種
放射線の種別  :重イオン
放射線源    :AVFサイクロトロン(220MeV炭素イオン、320MeV炭素イオン)
フルエンス(率):C220MeV:2.5×106(particles/cm2/sec)、C320MeV 4.17×107 (particles/cm2/sec)
線量(率)   :0.1-200Gy
利用施設名   :日本原子力研究開発機構高崎量子応用研究所AVFサイクロトロン
照射条件    :大気中
応用分野    :農業、園芸、植物育種

概要      :
 オステオスペルマム培養葉片にイオンビームを照射して、再分化した個体から優良な変異体を選抜し、新品種を育成した。

詳細説明    :
1.はじめに
 オステオスペルマムは希に栽培中の枝変わりから新品種が育成されることがあるため、人為的な突然変異を加えることによりさらに効率的な変異誘導が期待される。そこでイオンビームを照射し変異体を誘導して、新品種の育成を検討した。
2.イオンビーム照射条件の検討
 6cm径のシャーレに1.0mg/L BAと0.1mg/L NAAを添加した1/2MS培地を入れ、オステオスペルマム‘マザーシンフォニー’の培養葉片切片(0.5〜1cm角)を重ならないように敷き詰めてイオンビーム照射材料とした。イオンビーム照射は日本原子力研究開発機構高崎量子応用研究所のAVFサイクロトロンを用いて行った。照射材料に対してLET(線エネルギー付与)の異なる、総エネルギーが220MeVの炭素イオン12C5+と320MeVの炭素イオン12C6+を照射した。変異誘導に有効な照射量を求めるため、 0.1〜200Gyの線量で条件を検討した。
 オステオスペルマム葉片は,12C5+では10Gy,12C6+では20Gy以上になるとそれぞれ不定芽の発生が認められなかった(図1)。変異個体作出には再生率があまり低下しない1〜5Gyの照射が有効と考えられ、この線量を段階的に照射した葉片から誘導した再分化個体を育成した。
3.変異体の選抜と新品種育成
 照射1日後、9cm径のシャーレに1.0mg/L BAと0.1mg/L NAAを添加した1/2MS培地に移植し、不定芽を誘導した。約1カ月後に成長した不定芽を1/2MS培地に移植し、植物体を育成した。
 生長した植物体は順化後温室内で育成し、花色および形態を調査した。
 これまでに約3000個体を育成し、形態や花色に変異がある39個体を選抜した(表1)。
 変異個体の内訳は花色変異が濃黄系10、淡黄系5、オレンジ系9、白2、その他4で、草枝変異はわい性8、斑入り1であった。花色変異率は12C5+で1.3%、12C6+で0.6%、草枝変異率は12C5+で0.3%、12C6+で0.3%となり、12C5+の変異誘導率が高かった。元株の‘マザーシンフォニー’は黄色の花弁を有するが、得られた変異個体は白〜黄色〜オレンジの間で変異が見られ(図2)、この中から黄色地にピンクの縦筋とぼかしが入り、パステル調でこれまでに出現したことのない色調を持つ個体を選抜し新品種を育成した(図3)。

表1 1〜5Gyの12C5+12C6+イオンビーム照射によって得られたオステオスペルマム変異体(原論文4より引用)
---------------------------------------------------- 
イオン種   順化個体数           変異個体数
---------------------------------------------------- 
   12C5   1619         花色変異  21(1.3)z
                           草枝変異   5(0.3)
   12C6   1410              花色変異   9(0.6)
                           草枝変異   4(0.3)                  
---------------------------------------------------- 
 


図1 オステオスペルマム葉片へのイオン照射と再分化率の関係(原論文4より引用)



図2 イオンビーム照射によって変異した花色(原論文4より引用)



図3 新品種‘ヴィエントフラミンゴ’(仮称)(原論文4より引用)



コメント    :
オステオスペルマム及び、これまでに品種化されたキク、カーネーション、バーベナ、ペチュニアの何れも組織培養とイオンビーム照射を組み合わせた結果で、キメラの回避と育種年限の短縮が可能となり、本法が育種法として有効と思われる。

原論文1 Data source 1:
Mutation Induction from Osteospermum Leaf Cultures with Ion Beam Irradiation
M.Iizuka*,Y.Kimura*,Y.Hase**,A.Tanaka**
Gunma Agricultural Technology Center*,Department of Ion-Beam-Applied Biology,JAERI,Japan Atomic Energy Research Institute**
JAEA Annual Report 2004 (2005)50-51.

原論文2 Data source 2:
Mutation Induction from Osteospermum Leaf Cultures with Ion Beam Irradiation
M.Iizuka*,Y.Kimura*,Y.Hase**,A.Tanaka**
Gunma Agricultural Technology Center*,Radiation-applied Biology Division, QuBS,JAEA**
JAEA Annual Report 2005 (2006)81.

原論文3 Data source 3:
イオンビーム照射によるオステオスペルマム突然変異体の誘発
飯塚正英*・木村康夫*・長谷純宏**・田中淳**
群馬県農業技術センター*,日本原子力研究開発機構**
園芸学研究6別1.(2007)470.

原論文4 Data source 4:
イオンビーム照射によるオステオスペルマム新品種の作出
飯塚正英*・木村康夫*・長谷純宏**・田中淳**
群馬県農業技術センター*,日本原子力研究開発機構**
第4回イオンビーム育種研究会大会講演要旨(2007)

参考資料1 Reference 1:
多様な色調の“ヴィエントフラミンゴ”を育成
飯塚正英
群馬県農業技術センター
原子力eye 2007年5月号 Vol.53 No.5

キーワード:イオンビーム、育種、オステオスペルマム、組織培養、花色、花形、突然変異、
ion beam,breeding,osteospermum,tissue culture,flower color,flower shape, mutation,
分類コード:020101, 020301, 020501

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