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作成: 2007/09/10 松橋 信平

データ番号   :020274
放射線照射分解したキトサンによる植物の生育促進
目的      :天然多糖類の放射線照射分解による高機能化
放射線の種別  :ガンマ線
放射線源    :60Co線源
線量(率)   :〜200 kGy
利用施設名   :日本原子力研究開発機構高崎量子応用研究所食品照射棟
照射条件    :室温、0.1%または2.5%酢酸水溶液中
応用分野    :植物生理学、植物栄養学、植物育種

概要      :
 天然多糖であるキトサンの希薄溶液をγ線で照射することにより、低分子化したキトサンが得られる。低分子化したキトサンには、イネ、オオムギ、ダイズなどの植物の生育を促進する効果があり、分子量分画を行うことによりさらにその効果を高めることができる。この他にも、低分子化したキトサンにはファイトアレキシンエリシターの発現を高める作用も認められ、農作物など植物の生産性を向上させる資材と成り得る可能性がある。

詳細説明    :
 キトサンは、エビやカニなどの甲殻類の甲羅に由来する天然の多糖類で、骨格構造(主鎖)がN-アセチルグルコサミンの繰り返し構造を持つ。このため、他の多くの天然多糖とは異なり分子として正の電荷を帯びていることから、その機能や利用が注目されてきた。その利用法としては、抗菌物質としての利用がよく知られている。キトサンの抗菌活性は、放射線分解により低分子化することで高まる。大腸菌に対する抗菌活性は、キトサン分解物の分子量と密接に関係し、限外濾過膜を用いた分画により、10万〜30万の分子量で最も高い抗菌活性が得られることが報告されている(参考資料1)。
 抗菌活性以外にもキトサンは様々な生理活性を持つと考えられ、様々な研究が行われている。Thamら(原論文1)は、キトサンが重金属に対してキレート効果を示すことに注目し、植物の重金属障害を軽減する効果について検討している。市販のキトサンを0.5%酢酸に溶解して1%溶液とし、これに異なる線量のガンマ線を〜200kGy照射分解したものを用意し、水耕液中での濃度が100μg/mlとなるよう添加し、イネ幼植物の生育試験を行った。その結果、照射していないキトサンおよび20kGy照射したキトサンを添加した試験区では、クロロシス(葉緑体の量が少なく葉が黄色くなる障害)が発生し、生育が阻害されたのに対し、50kGy照射したキトサンではコントロールと同等の生育が得られ、70〜150kGy照射したキトサンを添加した試験区において、生育の促進が確認された(図1)。


図1  照射キトサンの添加によるイネ幼植物の生育促進  照射したキトサンを100μg/mlの濃度で添加した水耕液でイネを9日間栽培。○,地上部;□,根;●,コントロール(キトサン無添加)地上部;■,コントロール(キトサン無添加)根。(原論文1より引用)

さらに、10μg/mlの添加でコムギとイネの生育をそれぞれ41%、25%低下させるバナジウムによる生育阻害の回避が可能か検討し、100kGy照射キトサンをコムギについては200μg/ml、イネについては100μg/mlの濃度で添加することにより、コントロールと同等以上の生育が得られることを明らかにしている(表1)。

表1  照射キトサンの添加によるバナジウム生育障害の回避効果(原論文1より引用)
 -------------------------------------------------------------
  Treatment            Dry weight of seedling(mg/10 plants)
 -------------------------------------------------------------
  V(μg/ml) + Chitosan Wheat                Rice
              (μg/ml)
 ----------------------------------------  -------------------
  0              0     385±42   100(%)     190±17    100(%)
  0            100     544±47   141        206±16    108  
  0            200     540±39   140        236±30    124
 10              0     229±37    59        143±12    75
 10            100     350±35    91        214±18    113
 10            200     392±39   102        210±18    111
 -------------------------------------------------------------
 
 キトサンの放射線分解では、照射線量の増加に伴い、分子量の低下が起こる。他の天然多糖と同様、キトサンも正確な分子量を求めることは困難である。Luanら(原論文2)は、Matsuhashiら(参考資料1)が行った、分子量分画範囲の異なる限外濾過膜を組み合わせて分子サイズの異なるキトサンの調製方法により、〜1kDa、1〜3kDa、3〜10kDa、10〜30kDa、30kDa〜の5画分に分画し、オオムギ、ダイズのいずれにおいても分子量1〜3kDaのキトサンが最も生育促進効果が高いことを明らかにしている(図2)。


図2 キトサンの分子量が生育に与える影響。上,オオムギ;下,ダイズ(原論文2より引用)

また、照射分解したキトサンでは、生育促進効果のある分子量画分だけでなく、逆に生育を抑制する効果を持つ分子量画分も含まれるため、分子量分画により、生育促進効果の高い分子量画分のみを抽出することは、その効果を一層高めることになり、分子量1〜3kDaのキトサン20μg/ml添加で得られる生育促進効果は、分離を行わない(照射直後の)キトサン50μg/ml添加で得られる生育促進効果より高いことを明らかにしている(図3)。


図3 分子量分画したキトサンの添加濃度による生育促進効果。(原論文2より引用)



コメント    :
 キトサンは、様々な生理活性を持つ天然多糖としてその利用が期待されるが、それぞれの活性や効果を最大に引き出すためには、適当な分子量分布を持つよう加工する必要があり、放射線照射は、乾燥状態でも溶液でも利用可能であることから、最適な加工法の一つと考えられる。植物の生育促進効果は、低濃度のキトサンによって得られることから、農業分野を中心とした利用の開発が期待される。

原論文1 Data source 1:
Effect of radiation-degraded chitosan on plants stressed with vanadium.
Le Xuan Tham, N. Nagasawa, S. Matsuhashi, N. S. Ishioka, T. Ito, T. Kume
Japan Atomic Energy Research Institute (現 Japan Atomic Energy Agency)
Radiat. Phys. Chem., 61 (2001) 171-175.

原論文2 Data source 2:
Enhancement of plant growth activity of irradiated chitosan by molecular weight fractionation.
L. Q. Luan, N. Nagasawa, M. Tamada, T. M. Nakanishi
Japan Radioisotope Association
RADIOISOTOPES., 55 (2006) 21-27

参考資料1 Reference 1:
Enhancement of antimicrobial activity of chitosan by irradiation.
S. Matsuhashi and T. Kume
Japan Atomic Energy Research Institute (現 Japan Atomic Energy Agency)
J. Sci. Food Agric., 73 (1997) 237-241.

キーワード:放射線、分解、キトサン、オリゴキトサン、植物、生育、促進、分子量分画、ポジトロンイメージング、ファイトアレキシン
radiation,degradation,chitosan,oligochitosan,plant,growth,promotion,molecular weight fractionation,positron imaging,phytoalexin
分類コード:020501、020101

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