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作成: 2007/08/03 伊藤 均

データ番号   :020272
照射タマネギの健全性試験−骨の奇形発生等について
目的      :照射タマネギの安全性について慢性毒性試験、世代試験および変異原性試験の結果の考察
放射線の種別  :ガンマ線
放射線源    :60Co線源(3.7x109MBq)
線量(率)   :0.07-0.30kGy
利用施設名   :日本原子力研究所高崎研究所Co1棟
照射条件    :室温下
応用分野    :タマネギ、ニンニクの発芽抑制

概要      :
 照射タマネギのラット、マウスを用いた慢性毒性試験においてはタマネギを飼料中に過剰に添加したことによる血液等の異常が認められたが、照射タマネギと非照射タマネギでの差は認められなかった。マウスの世代試験では骨の剄肋(ケイロク・首の骨に肋骨がつく現象)の奇形が対照群、非照射群、照射群で認められたが、一定の傾向は認められなかった。変異原性試験では微生物の突然変異試験、哺乳動物による染色体試験、マウスの優性致死試験で異常は認められなかった。

詳細説明    :
1.はじめに
 原子力特定総合研究の食品照射研究として実施された照射タマネギの健全性試験は照射馬鈴薯と同じころに試験が開始された。しかし、最初は乾燥タマネギを重量比で25%となるように飼料に混合してラットやマウスに給餌したため、タマネギ混合飼料で飼育した動物は照射の有無にかかわらず血液や臓器重量等に異常が認められた。このため、乾燥タマネギを重量比で2%または4%添加した飼料での試験が追加された。ラットで2〜25%の乾燥タマネギは日本人の大人1人当たりの摂取量の36〜450倍の量である。用いたタマネギの品種は札幌黄であり、日本原子力研究所高崎研究所のCo-60ガンマ線照射施設で0、0.07、0.15および0.30kGy照射され、乾燥工場で輪切りにされ、80℃前後で熱風乾燥された。なお、フランスでのラットを用いた健全性試験ではタマネギは乾燥重量比で2%添加している。用いた動物はdd系マウス総数400匹およびウイスター系ラット総数420匹による長期慢性毒性試験、dde系マウス220匹から出発して3代にわたる世代試験が行われた。マウスによる慢性毒性試験ではタマネギ25%添加飼料・雄雌おのおの40匹からなる5群で21ヶ月飼育された。ラットによる慢性毒性試験のタマネギ25%添加では雄雌おのおの30匹からなる5群で24ヶ月飼育され、タマネギ2%添加では雄雌おのおの20匹からなる3群で12ヶ月飼育された。マウスによる世代試験はタマネギ4%と2%を添加した飼料を用いて条件を変えて別々に行い、特に骨格検査を細部にわたって調べた。原子力特定総合研究におけるタマネギの健全性試験では変異原性試験が導入され、遺伝的安全性も評価の対象にされた。変異原性試験は遺伝毒性試験ともいわれ、化学物質(ここでは放射線分解生成物)の遺伝子への影響を評価するもので突然変異作用を指標にしている。照射タマネギの変異原性試験では、1)微生物を用いた突然変異試験、2)微生物を用いた宿主経由試験、3)哺乳動物培養細胞を用いた突然変異試験、4)染色体異常試験(培養細胞および生体)、5)マウスを用いた優性致死試験が実施された。
 
2.慢性毒性試験
 タマネギを飼料中に25%添加してマウスを21ヶ月飼育すると一般症状には標準飼料を用いた対照群、タマネギ添加の非照射群、0.07kGy群、0.15kGy群、0.30kGy群で一定の傾向は認められなかった。体重増では雄は群間でほとんど差が認められなかったが、雌では対照群に比べタマネギ添加群で軽度の抑制傾向が認められた。しかし、非照射群と照射各群との間での差はほとんど認められなかった。自然死亡率は各群間で顕著な差は認められなかった。血液検査ではタマネギ添加群の赤血球数が対照群と比較して減少したが、非照射群と照射各群での差はほとんど認められなかった。臓器重量ではタマネギ添加群の雌の肝臓および脾臓が対照群に比べて増加する傾向が認められたが、非照射群と照射各群での差は認められなかった。病理組織学的検査でもタマネギ添加群で肝細胞等に異常が若干認められたが、非照射群と照射各群での差は認められなかった。腫瘍発生は各群に若干認められたが群間で一定の傾向は認められなかった。
 タマネギを飼料中に25%添加してラットを24ヶ月飼育すると、一般症状については対照群、タマネギ添加の非照射群、0.07kGy群、0.15kGy群、0.30kGy群で一定の傾向は認められなかった。一方、体重増については図1、図2に示すようにタマネギ添加群で明確に減少した。


図1 照射タマネギを摂餌した雄ラットの体重増、摂餌量および摂水量(原論文1の図を参考に作成)



図2 照射タマネギを摂餌した雌ラットの体重増、摂餌量および摂水量(原論文1の図を参考に作成)

 しかし、非照射群と照射各群での差はほとんど認められなかった。自然死亡率では雄の0.15kGyと0.30kGy群で死亡率が高い傾向が認められたが、線量との相関性はなかった。血液検査では対照群と比べてタマネギ添加群で赤血球数やヘモグロビン量、ヘマトクリット値が明確に減少したが、非照射群と照射各群との差は認められなかった。臓器重量では精巣、卵巣等で非照射群と照射各群との差はほとんど認められなかった。
 タマネギを飼料中に2%添加してラットを12ヶ月飼育したところ、対象群とタマネギ添加の非照射群、0.30kGy照射群との間で一般症状、体重増、死亡率に群間での差は認められなかった。血液検査ではタマネギ添加群で赤血球数等が対照群に比べ若干減少したが非照射群と照射群での差は認められなかった。臓器重量および病理組織学的検査でも各群間での差はほとんど認められていない。腫瘍は各群とも認められなかった。フランスでの3ヶ月間の飼育試験でも対照群、タマネギ添加の非照射群、0.15〜0.30kGy照射群の間で体重増、血液検査、臓器重量等での差はほとんど認められていない。
 
3.世代試験
 非照射および0.3kGy照射タマネギを飼料中に4%添加してマウスによる3世代試験を行ったところ、体重増加は1世代、2世代の雌雄とも対照群(標準飼料)と比較して差はほとんど認められなかった。妊娠率、着床数、生存胎仔体重等でも各群の差はほとんど認められなかった。骨格検査では主として末期胎仔および出生仔(離乳期)について観察したが異常は認められず、変化が対照群、非照射群、照射群とも41〜73%認められ、そのほとんどが剄肋の出現であった。しかし、剄肋の出現は各群間で一定の傾向は認められなかった。出生仔の臓器重量は各群間で差がほとんど認められず、照射群の睾丸重量が対照群に対して有意に少なかったが、非照射群との間では有意差は認められなかった。
 非照射および0.15kGy照射タマネギを飼料中に2%添加してマウスによる3世代試験を行ったところ、体重増加、妊娠率、着床数、生存胎仔体重等で各群間での差はほとんど認められなかった。骨格検査では奇形は認められず、変異が19〜85%認められたが、そのほとんどが剄肋であり、対照群も含めデータにバラツキがあり、各群間で一定の傾向は認められなかった。出生仔の臓器重量では雌雄とも各群での差はほとんど認められなかった。フランスでのタマネギ2%添加飼料による4世代試験でも対象、非照射、0.15〜0.30kGy照射群間での差はほとんど認められていない。
 
4.変異原性試験
 非照射および0.15kGy照射タマネギをホモジナイズしたもの、またはメタノール抽出物等を用いて変異原性を調べた。微生物を用いた試験ではネズミチフス菌(Salmonella typhymrium) TA1535、TA100、TA1537、TA98株を用いた。その結果、直接試験、S9肝抽出液を用いた代謝活性試験、宿主経由試験とも照射、非照射両群に差は認められなかった。
 ヒトおよびチャイニーズハムスター細胞株にタマネギ抽出物を加え、37℃・36〜48時間にわたり組織培養して突然変異の誘発、染色体切断、姉妹染色体交換、小核形成に対する影響を調べた。その結果、タマネギ成分中には細胞分裂の抑制、染色体切断、姉妹染色体交換を誘発する成分が含まれていると考えられる結果が得られたが、非照射群と照射群での差は認められなかった。また、マウスおよびラットにタマネギホモジネートを投与して骨髄細胞の染色体を観察したが照射群、非照射群とも染色体の異常は認められなかった。
 マウスを用いた優性致死試験ではタマネギを雄に5日間経口投与し、その後で標準飼料で飼育した雌と交配させ、妊娠の有無、黄体数、着床数(生存および死亡着床数)を調べた。その結果、照射群と非照射群の間で優性致死効果での差は認められなかった。
 
5.まとめ
1)マウスの骨の異常について
 dde系マウスの世代試験で2%および4%の非照射および照射タマネギ添加飼料での胎仔や新生仔の剄肋を観察すると表1に示すようになる。

表1 照射タマネギ投与マウスの世代試験における剄肋の出現率(原論文1の表を参考に作成)

 |時期  | 試験群 |タマネギ2%添加(30〜160匹)|タマネギ4%添加(78〜218匹) |
 |      |        | F1世代 F2世代 F3世代  | F1世代 F2世代 F3世代   |
 |末期  | 対照   |  33.3    20.0    83.9   |  41.0    60.0    53.5    |
 |胎仔  | 非照射 |  27.1    19.2     3.3   |   3.3    41.4    55.0    | 
 |      | 0.15kGy|  20.4    41.2    40.6*  |                          |
 |      | 0.30kGy|                         |  49.4    46.1    49.5    |  
 |新生仔| 対照   |  30.3    15.0    61.9   |                  79.5    |
 |      | 非照射 |  67.3    46.7     8.6   |                  70.9    |
 |      | 0.15kGy|  47.6    68.9    59.8** |                          |
 |      | 0.30kGy|                         |                  82.4    |
 *対照群に比べ有意差あり、**非照射群に比べ有意差あり。	                 
                         
 この表では第1世代(F1)、第2世代(F2)、第3世代(F3)で異なった傾向が認められ、データにバラツキが見られる。例えば、タマネギを2%添加飼料で飼育した第2世代の胎仔について見ると、剄肋の出現率は対照(標準飼料)群が20%であるのに対して非照射タマネギ添加群が19%、0.15kGy照射タマネギ添加群が41%であり、照射群で現象出現率が高いように見える。しかし、第1世代では逆の傾向が観察され、非照射タマネギ添加群の方が照射群より現象出現率が若干高い。また、第3世代では対照群の現象発生が著しく高いという結果が得られており、照射タマネギ群より標準飼料を与えた対照群の方が奇形発生が著しく高いということになる。一方、4%タマネギ添加飼料では剄肋の発生は対象、非照射、0.30kGy照射群で大きな差は認められていない。新生仔の場合にも剄肋出現率に一定の傾向は認められていない。本実験に用いられたdde系マウスでの剄肋などの現象は胎仔や新生仔で発生率が高くバラツキもあり、対照群においても20〜84%もあり、成長にともない消滅する。
2)世代試験でのマウスの卵巣、睾丸重量の減少について
 表2に示すようにタマネギを4%添加した飼料で飼育したマウスの3世代目の卵巣と睾丸重量が0.30kGy照射群では少ない傾向が認められた。

表2 4%タマネギ添加飼料のマウスによる世代試験での離乳時出生仔の卵巣および睾丸重量の変化(原論文1の表を参考に作成)

1)3世代目の卵巣重量
   |  試験群   |    実測値(mg)   | 体重比(mg/10g)|
   |  対照     |    3.3±1.43    |   4.1±1.36       |
   |  非照射   |    3.4±2.01    |   4.4±2.45       |
   |  0.30kGy  |    2.4±1.15    |   3.4±1.35       |
  
2)3世代目の睾丸重量
   |  試験群   |     実測値(mg) |  体重比(mg/10g)|            
   |  対照     |    39.0±16.13  |   46.1±12.8      |
   |  非照射   |    31.3±11.97  |   38.5±11.0      |
   |  0.30kGy  |    25.9±13.60* |   31.1±12.46**   |	   
   *非照射群に比較して有意差あり、**対照に比較して有意差あり
 すなわち、卵巣重量の体重比(mg/10g)は照射群でやや少ないが、対照群および非照射タマネギ添加群に対して有意差は認められていない。睾丸重量の体重比も対照群に対して照射群は有意に減少しているが、非照射タマネギ添加群に対しては有意差は認められていない。一方、2%タマネギ添加飼料では飼育したマウスの1〜3世代では卵巣、睾丸重量の体重比は対象、非照射、0.15kGy照射群で差はほとんど認められていない。しかも、一般にマウスやラットの卵巣重量等では10〜20%の差が見られることが多い。

コメント    :
 原子力特定総合研究における照射タマネギの健全性試験ではタマネギを飼料中に過剰に添加したことによる血液や体重増の減少などの異常が認められ、それが照射によるものであるとの誤解を与えた。しかし、タマネギ添加量を2%に低減することによって標準飼料との差はほとんどなくなって、照射タマネギの安全性が証明された。また、世代試験による骨の異常の一種である剄肋が胎仔や新生仔で多く観察されたことも照射によるものであるとの誤解を与えたが、標準飼料群でも剄肋が多く観察されたことから照射による影響でないことが明らかである。従って、照射タマネギを4%添加した飼料で卵巣や睾丸重量が減少したように見えるのは実験誤差によるものであろう。

原論文1 Data source 1:
放射線照射による玉ねぎの発芽防止に関する研究成果報告書(資料編)、(4)照射玉ねぎの毒性に関する研究
国立衛生試験所、(財)食品薬品安全センター
食品照射研究運営会議
放射線照射による玉ねぎの発芽防止に関する研究成果報告書(資料編)、1970年。

参考資料1 Reference 1:
動物を使った毒性試験(国立衛試内部資料)(体重、卵巣等)
国立衛生試験所
国立衛生試験所
(独)日本原子力研究開発機構;食品照射データベース、http://takafoir.taka.jaeri.go.jp/

参考資料2 Reference 2:
食品照射の効果と安全性
藤巻正生(監修)
元東京大学教授
(財)日本原子力文化振興財団、1991年

参考資料3 Reference 3:
食品照射Q&Aハンドブック
(社)日本原子力産業協会(監修)
(社)日本原子力産業協会、2007年

参考資料4 Reference 4:
Onions irradies, Etudes de toxicite et de reproduction chez le rat
D. des Oncins, B. Coqet and G. Rondot
Institut Franqais de Recherches et Essais Biologiques
Technical Report IFIP-R61(1982)

キーワード:タマネギ、健全性試験、慢性毒性試験、世代試験、変異原性試験、ラット、マウス、骨の奇形、卵巣、睾丸
onion, wholesomeness test, chronic toxicity test, reproduction test, mutagenicity test, rat, mouse, bone deformity,ovary, testicle
分類コード:020405, 020407

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