水産ねり製品の放射線殺菌効果

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作成： 2006/10/20 伊藤　均データ番号　　　：020264 水産ねり製品の放射線殺菌効果目的　　　　　　：水産ねり製品の食中毒菌の放射線による保蔵期間延長と食中毒菌の殺菌放射線の種別　　：エックス線,ガンマ線, 電子線放射線源　　　　：⁶⁰Co線源線量（率）　　　：1-7kGy, 1.5kGy/h 利用施設名　　　：日本原子力研究開発機構高崎量子応用研究所食品照射ガンマ棟照射条件　　　　：室温応用分野　　　　：魚介類の殺菌概要　　　　　　：　水産ねり製品の代表例であるカマボコにガンマ線を3kGy照射すると10℃以下での保蔵期間は2倍以上延長され、食中毒に関係する可能性のあるAeromonasやBacillu cereusもほとんど増殖してこなかった。Aeromonasは魚介類由来の食中毒菌と思われ5℃でも増殖してきたが、1kGyで殺菌可能である。カマボコ類は3kGy照射では異臭が発生せず、卵白を添加しなければ味も変化しない。詳細説明　　　　：１．はじめに　水産ねり製品はチクワ、カマボコ、揚げカマボコ、魚肉ハム、魚肉ソーセージなどの総称である。原料に供される魚介類は種類が多く、毎年200万トン以上が用いられていると言われている。水産ねり製品は80～85℃で約40分加熱されるものが多いにもかかわらず、腐敗しやすく保蔵性に乏しいものが多い。また、水産ねり製品による食中毒も発生しており、保蔵性延長のための殺菌処理が必要である。　　わが国の原子力特定総合研究では魚介類の代表として水産ねり製品を取り上げ保蔵期間の延長や食中毒菌の放射線殺菌効果についての研究が行われた。そして、水産ねり製品の中でも保蔵性の劣るカマボコを対象として選んだ。カマボコの組成は主としてスケトウダラすり身100gに食塩2.7%、澱粉5%、砂糖1%、調味料1%、ミリン2%、水20%で調整され、加熱されたものを用いた。カマボコの実験対象は蒸し板カマボコ、包装カマボコ、揚カマボコが用いられ、卵白は蒸し板カマボコにのみ8%添加された。ここでは、カマボコ類の放射線殺菌効果と食味変化、成分変化について解説する。　２．放射線殺菌効果と保蔵性　水産ねり製品は通常は10℃以下で流通している。蒸し板カマボコにガンマ線を1、3、5kGy照射して15℃で保蔵すると図１に示すように線量が高くなるに従って生菌数の増加が抑制され、非照射品は3～4日で腐敗したのに対し3kGy照射すると保蔵期間は15日以上に延長された。そして、菌数の増加はカマボコ表面でも内部でも差が殆ど認められなかった。一方、蒸し板カマボコ各10本を3kGy照射して10℃で20日保蔵すると表１に示すように、非照射品では耐熱性芽胞を形成するBacillusu megateriumuやB. pumilus、B. cereusとPseudomonasに属す細菌類や腐敗性酵母菌が増殖して1g当たり10⁴～10⁶個の生菌数が検出され、ネトが検出された製品も認められた。また、製造時期が異なる製品では非照射品にAeromonasが増殖するものも認められた。これに対して、3kGy照射品では菌の増殖は1g当たり10¹～10⁴個であり、芽胞形成細菌や腐敗性酵母菌が若干増殖してきて保蔵期間は約2倍に延長されたが、AeromonasやPseudomonasは増殖してこなかった。図1　照射した蒸し板カマボコ各10本を15℃で保蔵した場合の生菌数の増加（原論文2の図を参考に作成）。表1　非照射および3kGy照射した蒸し板カマボコ各10本を10℃で20日間保蔵した場合の各種微生物の増殖（原論文3の表を参考に作成）。　非照射品３ｋGy照射品 No. 総菌数主要な微生物群ネト総菌数主要な微生物群ネト 1 8.8 × 10⁶ Pseudomonas － 1.8 × 10² B. cereus　－ 2 1.4 × 10⁵ B. megaterium、 B. pumilus ± 1.1 × 10⁴ B. pumilus、酵母菌－ 3 4.9 × 10⁵ B. pumilus ± －－－ 4 6.9 × 10⁵ Pseudomonas、酵母菌 ± 1.8 × 10² －－ 5 4.0 × 10⁴ B. megaterium、 B. pumilus　　－－－－ 6 1.3 × 10⁵ B. megaterium、 B. pumilus、Micrococcus ± 1.3 × 10⁴ B. megaterium － 7 7.0 × 10⁴ B. pumilus － 1.0 × 10² －－ 8 4.5 × 10⁵ B. cereus、B. pumilus、 Micrococcus ± 6.8 × 10² 酵母菌－ 9 4.5 × 10⁵ B. megaterium、 B. pumilus ± 7.5 × 10¹ B. pumilus － 10 1.1 × 10⁴ B. pumilus － 9.3 × 10³ B. pumilus、酵母菌－　　　＊酵母菌：腐敗性酵母菌　一方、蒸し板カマボコに3kGy照射して5℃で32日間保蔵した場合には非照射品に非芽胞形成細菌に属すAeromonasやPseudomonas、Brevibacteriumと腐敗性酵母菌が増殖してきて1g当たり10²～10⁴個検出されたが、3kGy照射品では菌の増殖はほとんど認められなかった。これら腐敗に関与する微生物のうち、B. cereusとAeromonasは食中毒を引き起こす可能性がある。芽胞形成細菌でもB. subtilisは20℃以上で増殖が活発であるが、B. megateriumやB. pumilus、B. cereusは10℃前後でも増殖し、汚染源としては澱粉や香辛料が考えられる。一方、PseudomonasやAeromonasなどの細菌類、腐敗性酵母菌類は魚介類が汚染源と考えられ、加熱調理後にも生き残っていたものと思われる。食中毒を引き起こす可能性のあるAeromonasは10℃以上で生育が活発であるが、5℃でも増殖が認められるが1kGy以下で殺菌されるであろう。B. cereusは10℃でも増殖し殺菌線量は10kGy以上必要であるが、3kGyで増殖が著しく抑制された。表2　非照射および3kGy照射した蒸し板カマボコ各10本を5℃で32日間保蔵した場合の各種微生物の増殖（原論文3の表を参考に作成）。　非照射品３ｋGy照射品 No. 総菌数主要な微生物群ネト総菌数主要な微生物群ネト 1 9.4 × 10³ Aeromonas、酵母菌－＜50 －－ 2 ＜50 －－－－－ 3 2.9 × 10³ Pseudomonas －＜50 －－ 4 4.0 × 10² Brevibacterium －－－－ 5 3.5 × 10⁴ Brevibacterium －＜50 －－ 6 ＜50 －－＜50 －－ 7 2.0 × 10² Pseudomonas、酵母菌－－－－ 8 ＜50 －－ 5.5 × 10² 酵母菌－ 9 1.0 × 10² 酵母菌－＜50 －－ 10 8.8 × 10² 酵母菌－＜50 －－　　　＊酵母菌：腐敗性酵母菌　揚カマボコを3kGy照射して10℃で保蔵すると図２に示すように非照射品ではMicrococcus、Psychrobacter（旧Moraxella-Acinetobacterまたは Achromobacter)、乳酸菌などの細菌類と腐敗性酵母菌が増殖してきたが、3kGy照射では腐敗性酵母菌が主に増殖してきた。非照射品では菌数が1g当たり10⁵個に達するのに約3日であるのに対し、3kGyでは15日以上となり保蔵期間は5倍以上に延長された。図2　揚カマボコを10℃で保蔵した場合の非照射および3kGy照射品での微生物の増殖（原論文4の図を参考に作成）。　３．食味に対する影響　蒸し板カマボコを2～10kGy照射して食味変化を調べたところ、表3に示すように7kGy以上で褐変が見られ、異臭発生は5kGy以上で明確に認められた。また、照射によるゼリー強度（硬さ、または、しなやかさ）は3kGyでは非照射と差がほとんど認められなかったが7kGyでは硬くなる傾向が認められた。カマボコの白色度は3kGy照射で向上した。しかし、味については蒸し板カマボコの製品によっては苦味が3kGyでも認められることがあった。苦味の原因は卵白の添加によると考えられた。一方、卵白を添加してない揚カマボコでは照射による苦味変化は5kGyでも認められず、異臭が5kGyでは若干認められたが3kGyでは非照射に比べ油臭がうすれ好ましい風味を示した。なお、蒸し板カマボコの含気包装でも脱気包装でも照射による食味変化には大差がなかった。表3　含気包装した蒸し板カマボコに種々の線量を照射直後の食味変化（原論文1の表を参考に作成）。線量（ｋGy) 光沢弾力異臭非照射白色弾力ありなし 2 白色弾力ありなし 3 白色弾力ありなし 4 白色弾力ありなし 5 白色弾力ありわずかに照射臭 7 帯黄色硬い明らかな照射臭 10 帯黄色硬い明らかな照射臭　４．成分への影響　3kGy照射した蒸し板カマボコ中の揮発成分、遊離アミノ酸含量、遊離還元糖量、調味料に対する影響を調べたところ非照射品との著しい差は認められなかった。また、雄ラット各群6匹を用いた栄養生理学的試験でも3kGy照射による体重増加量、臓器重量への影響は3ヶ月飼育でも認められず、血清テストステロン量も非照射群との差は認められなかった。なお、マウスやラットを用いた蒸し板カマボコの慢性毒性試験やマウスを用いた世代試験、細菌や哺乳動物を用いた変異原性試験でもガンマ線を4.5kGy照射したことによる異常は認められていない。コメント　　　　：　わが国では水産製品の消費量が多く、魚介類による食中毒も多発している。魚介類による食中毒は病原性Vibrio、ことに腸炎ビブリオ（V. parahaemolyticus）によるものが多いが、Aeromonasによる食中毒も多く発生している。腸炎ビブリオなどの病原性Vibrioは夏期の海水中で繁殖するが、Aeromonasは冷水中でも繁殖可能であり、スケトウダラのような北洋で獲れる魚介類にも汚染しているのであろう。ソルビン酸などの保存料が添加してある水産ねり製品ではAeromonasなどの食中毒菌の増殖は抑制され、腐敗性酵母菌や乳酸菌、糸状菌による腐敗が主に起こるが、保存料無添加品では食中毒を起こす可能性のあるAeromonasやB. cereusも増殖してくる可能性がある。また、一般の生鮮魚介類ではAeromonasが低温貯蔵でも増殖してくる可能性がある。水産ねり製品の場合、3kGyの照射によって食中毒菌の発生が抑制され、10℃以下での貯蔵期間も2倍以上に延長することが可能である。なお、生鮮魚介類の場合には病原性VibrioやAeromonasの殺菌線量は0.75～1.5kGyである。原論文１ Data source 1：ガンマ線照射によるかまぼこの保蔵-Ⅰ、適性線量および貯蔵効果について篠山茂行東海区水産研究所東海水研報、70号、57 - 64(1972) 原論文２ Data source 2：ガンマ線照射によるかまぼこの保蔵-Ⅱ、照射かまぼこの腐敗細菌篠山茂行東海区水産研究所東海水研報、75号、39 - 46(1979) 原論文３ Data source 3：ガンマ線照射によるリテーナ成形かまぼこの変敗抑制効果伊藤　均^*、飯塚　廣^*^* ^*日本原子力研究所高崎研究所、^*^*東京理科大学応用生物科学科日本食品工業学会誌、25、14 - 21(1978) 原論文４ Data source 4：揚かまぼこのガンマー線照射による変敗抑制効果伊藤　均、E. G. Siagian 日本原子力研究所高崎研究所日本食品工業学会誌、26、342 - 345(1979) 参考資料１ Reference 1：放射線照射による水産ねり製品の殺菌に関する研究成果報告書（資料編）食品照射研究運営会議原子力委員会食品照射研究運営会議、昭和60年12月キーワード：水産ねり製品、カマボコ、魚介類、食中毒、保蔵期間、放射線殺菌、ガンマ線、照射臭、食味 fish meat jelly products, Kamaboko, fishery products, food poisoning, shelf life, radiation pasteurization, gamma-rays, off flavor, sensory characteristics 分類コード：020403
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	非照射品			３ｋGy照射品
No.	総菌数	主要な微生物群	ネト	総菌数	主要な微生物群	ネト
1	8.8 × 10⁶	Pseudomonas	－	1.8 × 10²	B. cereus	－
2	1.4 × 10⁵	B. megaterium、 B. pumilus	±	1.1 × 10⁴	B. pumilus、酵母菌	－
3	4.9 × 10⁵	B. pumilus	±	－	－	－
4	6.9 × 10⁵	Pseudomonas、酵母菌	±	1.8 × 10²	－	－
5	4.0 × 10⁴	B. megaterium、 B. pumilus	－	－	－	－
6	1.3 × 10⁵	B. megaterium、 B. pumilus、Micrococcus	±	1.3 × 10⁴	B. megaterium	－
7	7.0 × 10⁴	B. pumilus	－	1.0 × 10²	－	－
8	4.5 × 10⁵	B. cereus、B. pumilus、 Micrococcus	±	6.8 × 10²	酵母菌	－
9	4.5 × 10⁵	B. megaterium、 B. pumilus	±	7.5 × 10¹	B. pumilus	－
10	1.1 × 10⁴	B. pumilus	－	9.3 × 10³	B. pumilus、酵母菌	－

線量（ｋGy)	光沢	弾力	異臭
非照射	白色	弾力あり	なし
2	白色	弾力あり	なし
3	白色	弾力あり	なし
4	白色	弾力あり	なし
5	白色	弾力あり	わずかに照射臭
7	帯黄色	硬い	明らかな照射臭
10	帯黄色	硬い	明らかな照射臭