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作成: 2006/09/25 伊藤 均

データ番号   :020263
ウインナソーセージの放射線殺菌効果
目的      :ウインナソーセージ等の肉製品の放射線による保蔵期間延長と食中毒菌の殺菌
放射線の種別  :エックス線,ガンマ線, 電子線
放射線源    :60Co線源
線量(率)   :30 - 60kGy、 3kGy/h
利用施設名   :日本原子力研究開発機構高崎量子応用研究所食品照射ガンマ棟(研究に利用した施設)
照射条件    :室温
応用分野    :肉類の殺菌

概要      :
 ウインナソーセージを酸素ガス透過性の低い包装材で窒素ガス置換包装し、室温でガンマ線を3〜5kGy照射し10℃で保蔵すると非照射品が2〜3日の保蔵期間に対して照射品は3〜5倍保蔵期間が延長された。食中毒に関係する大腸菌群やBacillus cereusも3kGyで増殖が認められず、腐敗に関与するのはPsychrobacterと腐敗性酵母菌であった。照射による栄養成分の分解は少なく、食味もボイルすれば非照射品と区別できなくなった。

詳細説明    :
1.はじめに
 ウインナソーセージは肉製品の中でも保蔵性が低く、ネト発生は7℃保蔵でも1週間以内に発生するとされている。これに対し、ハムやベーコン等ではネト発生は2〜3週間後に起こるといわれている。ネト発生時の細菌数は1cm2当たり107〜109個に達しており、衛生規準の菌数1x105個/g以下からすると実際のウインナソーセージの保蔵期間は2〜4日程度であろう。保存料のソルビン酸を添加した市販品でも同じようにネトが発生してくる。
 
 ウインナソーセージの主原料は豚肉40%、羊肉40%、牛肉20%であり、添加物として食塩、硝酸ナトリウム、亜硝酸ナトリウム、重合燐酸塩、香辛料等が加えられている。わが国の原子力特定総合研究ではウインナソーセージを肉製品の代表として取り上げ、保蔵性の向上および食中毒防止の観点から研究が行われた。食肉にはサルモネラや腸管出血性大腸菌、黄色ブドウ球菌などが汚染していることがあり、香辛料等の添加物からはセレウス菌(Bacillus cereus)等が汚染する可能性もある。ボツリヌス菌も汚染する可能性があるが、ソーセージやハム等では亜硝酸塩の添加によって生育が抑制されることがわかっている。ここでは、放射線によるウインナソーセージの殺菌効果と食味に与える影響、成分変化について解説する。
 
2.放射線殺菌効果と保蔵性
 ウインナソーセージは普通10℃以下の保蔵温度で流通・市販されている。そこで、原子力特定総合研究用に調整された保存料無添加のウインナソーセージをセロファン−ポリエチレン袋中に窒素ガス封入して10℃で保蔵すると図1に示すように非照射品では2〜3日で細菌数が105/g以上に達した。
 
 そして、非照射品の腐敗に関与する微生物群は腐敗性細菌のLactobacillusStreptococcusなどの乳酸菌群とPsychrobacter (旧AchromobacterまたはMoraxella-Acinetobacter)、MicrococcusFlavobacterium、大腸菌群、および腐敗性酵母菌のCandidaTorulopsisRhodotorula 等であり鶏肉や牛肉の腐敗微生物相に似ている。
 
 ところが、室温でガンマ線を3kGyまたは5kGy照射すると図1に示すように保蔵中の菌の発生は大幅に遅れ、105/g以上に達するのに3kGyで5〜6日、5kGyでは8〜12日に延長された。3kGy以上のウインナソーセージで腐敗に関与する微生物はPsychrobacterと腐敗性酵母菌のみとなり増殖も遅く、大腸菌群などの生育は全く認められなかった。包装材を酸素ガスの透過性が少ないK−セロファンやEG-Q(エチレン・ビニルアルコール共重合樹脂+ポリプロピレン+ポリエチレン積層材)で窒素ガス置換すると図2に示すように3kGyで6〜9日、5kGyで9〜15日以上に保蔵期間が延長された。


図1 保存料無添加ウインナソーセージをセロファン−ポリエチレン袋中で窒素ガス置換して10℃保蔵した場合の主要な微生物の生育を非照射と3kGy照射で比較(原論文1の図を参考に作成)。



図2 異なった種類の包装材中に窒素ガス置換して包装した保存料無添加ウインナソーセージの照射後10℃での保蔵効果(原論文1の図を参考に作成)。

 
 一方、保存料無添加の特別調整されたウインナソーセージをセロファンーポリエチレン袋中に窒素ガス置換して10℃で保蔵すると、非照射品は乳酸菌群やMicrococcus、腐敗性酵母菌のほかにB. cereusが増殖して3日で105/g以上に達した。B. cereusは食中毒菌であり、香辛料等からの汚染が予想された。しかし、ガンマ線を1.5〜3kGy照射するとB. cereusは増殖しなくなり12日以上の保蔵ができた。B. cereusは耐熱性の芽胞形成細菌であり放射線に耐性であるが照射後の細胞は10℃では増殖能がなく、20℃で保蔵すると3kGyまたは5kGy照射後にも4〜6日後に菌の急激な増殖が認められた。
 
 保存料のソルビン酸を添加した市販ウインナソーセージをセロファン−ポリエチレン袋に窒素ガス置換した場合には非照射品には乳酸菌群と腐敗性酵母菌が増殖してきて10℃では2〜3日で腐敗した。しかし、3kGy照射すると菌の増殖は著しく抑制され、12日以上の保蔵が可能となった。
 
 以上の結果から、食中毒に関係する可能性のある大腸菌群やB. cereusなどの菌は10℃以下の保蔵では3〜5kGyで増殖が抑制され、保蔵期間も3〜5倍延長できることが明らかである。
 
3.食味に対する影響
 ウインナソーセージを空気存在下でガンマ線照射すると3kGyでも照射臭が認められ、肉の退色も起こる。このため、照射による食味低下を防ぐために窒素ガス置換または真空包装して照射する必要がある。ガンマ線照射したウインナソーセージの食味変化について高坂らは5kGy照射した場合には注意して比較すれば認識できる程度の照射臭が検知できるが、味やテクスチャー、嗜好性、色調は変化せず、ウインナソーセージをボイルすれば非照射品との差はなくなると報告している。また、W. Watanabeらも真空包装したウインナソーセージは6kGyまでは風味に変化がないと報告している。一方、7日保蔵した5kGy照射ウインナソーセージの食味に及ぼす窒素ガス置換した包装フィルムの影響を調べた結果では、酸素ガス透過性の高いセロファンーポリエチレンでは照射臭などの異臭は認められなかったが、酸素ガス透過性の低い包装フィルムでは異臭が若干検知された(表1)。これは、包装フィルムの保香性が原因して照射によって生じる照射臭が飛散または酸化せずに残存していたためと思われる。

表1 異なった種類の包装材で窒素ガス置換した保存料無添加ウインナソーセージの照射後の食味変化*を3点比較法で調べた結果(原論文1の表を参考に作成)。
線量 包装材 照射直後 10℃で7日保蔵
  全体の人数 正解者数 全体の人数 正解者数
5kGy セロファン−ポリエチレン 10 7 10 3
ダイアミドフィルム     10 8
K-セロファン**     21 14
EG−Q**     21 15
3kGy セロファン−ポリエチレン 10 6 6 4
ダイアミドフィルム     6 4
* 食味変化は主に異臭によるものである。
** フィルムの高湿度下での酸素ガス透過性(21℃;ml/m2・24h) :セロファン−ポリエチレン;2000、ダイアミドフィルム;450、K−セロファン;70、EG−Q;68。
 
4.成分変化に対する影響
 ウインナソーセージの脂質はガンマ線照射直後に過酸化物価が5kGyで非照射品の約2倍に増加したが、5℃で2週間保蔵すると非照射品での過酸化物価が上昇し照射品との差が認められなくなった。脂質の遊離脂肪酸量や脂質の色、ヨウ素価は5℃の保蔵中にも照射と非照射で明確な差は認められなかった。タンパク質については照射によって分子の一部が分解する傾向が認められたが、アミノ酸組成は変化しなかった。照射臭に関係する可能性がある揮発性カルボニル化合物は照射によって増加する傾向が認められ、n−ヘキサナールやn−ノナナールなどが増加したが、保蔵中に非照射品との差は徐々になくなった。しかし、硫化水素や揮発性メルカプタン量は照射しても変動しなかった。ウインナソーセージに添加した硝酸塩および亜硝酸塩は照射によってほとんど変化しなかった。3kGyまたは5kGy照射したウインナソーセージの栄養生理学的研究でもラット各群6匹での体重増加量、総摂餌量、臓器重量等や血清テストステロン量では非照射との差は3ヶ月飼育でも認められていない。なお、ラットやマウス、サルを用いた慢性毒性試験、マウスを用いた3世代試験、細菌や哺乳動物を用いた変異原性試験でもガンマ線を6kGy照射しても異常は認められていない。


コメント    :
 ウインナソーセージは日常の食生活の中で広く普及している食品である。ウインナソーセージの多くは保存料としてソルビン酸を用いており、乳酸菌群以外の細菌の生育は抑制されるがネト抑制効果はほとんどないようである。ソルビン酸などの保存料を添加していないウインナソーセージも生産されているが、この場合には食中毒に関係する大腸菌群の増殖やセレウス菌などの増殖が起こる可能性がある。鶏肉なども10℃以下の保蔵中でも微生物が急速に増殖するため食中毒が発生している。その意味で、肉製品の放射線殺菌は有効な技術と思われるが、実用化のためには消費者の理解が必要であろう。

原論文1 Data source 1:
ガンマー線照射したウインナーソーセージのミクロフローラに及ぼす包装フィルムの影響
伊藤 均、渡辺 宏、青木章平、佐藤友太郎
日本原子力研究所高崎研究所
農芸化学会誌、51、603 - 608(1977)

原論文2 Data source 2:
Changes in the microflora of vienna sausages after irradiation with gamma-rays and storage at 10℃
H. Ito and T. Sato
Japan Atomic Energy Research Institute, Takasaki Radiation Chemistry Research Establishment
Agr. Biol. Chem., 37, 233 - 242(1973)

原論文3 Data source 3:
ウインナーソーセージの官能的品質におよぼすγ線照射の影響
高坂和久*、小沢総一郎*、壇原 宏**
*(社)日本食肉加工協会、**農林省畜産試験場
日本食品工業学会誌、20、559 - 566(1973)

原論文4 Data source 4:
Gamma irradiation of commercial and microwave processed wieners
W. Watanabe, N. W. Tape and E. Larmond
Food Research Institute, Canada Department of Agriculture, Ottawa
Can. Inst. Food Technol. J., 2, 181 - 184(1969)

参考資料1 Reference 1:
放射線照射によるウインナーソーセージの殺菌に関する研究成果報告書(資料編)
食品照射研究運営会議
原子力委員会
食品照射研究運営会議、昭和60年12月

キーワード:ウインナソーセージ、肉製品、微生物、保蔵期間、微生物相、放射線殺菌、ガンマ線、食中毒、照射臭、食味
vienna sausage, meat products, microorganisms, shelf life, microflora, radiation pasteurization, gamma-rays, food poisoning, off flavor, sensory characteristics
分類コード:020403, 020406

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