作成: 2006/10/15 林徹
データ番号 :020261
肉類を照射した時に生成する2-アルキルシクロブタノン類の量及びその消長
目的 :2−アルキルシクロブタノン類の安全性評価のため、各種肉類中での照射による生成量と体内での消長を解明
放射線の種別 :ガンマ線, 電子線
放射線源 :電子加速器(10MeV,1mA)、60Co線源
線量(率) :0-7kGy
応用分野 :食品製造、食品流通、食品検査
概要 :
2-アルキルシクロブタノン類の生成量は線量に比例して増加し、牛挽肉パティを4.5kGyの照射で0.3ppmであった。2-ドデシルシクロブタノンをラットに投与し、糞と脂肪組織中の2-ドデシルシクロブタノン量及び尿中の2-ドデシルシクロブタノン代謝産物を調べたところ、投与した2-ドデシルシクロブタノンの11%しか回収されなかった。
詳細説明 :
1.目的:
脂質の放射線分解生成物である2−アルキルシクロブタノン類には大腸ガンに対するプロモーター活性の可能性やコメットアッセイによるDNA損傷などが報告されている。一方、2−アルキルシクロブタノン類には変異原性がないという結果も多く報告されている。そこで、照射した脂質を含む食品の安全性を評価するために、脂質を多量に含む肉類を照射した時の2−アルキルシクロブタノン類の生成量及び体内での消長についても調べた。
2.アルキルシクロブタノンの生成量:
チーズ、イワシ、マス、牛肉、鶏肉、マンゴー子実、及びトリグリセリド溶液を空気存在下6-8℃の条件下で電子線照射した時の各種2-アルキルシクロブタノン類の生成量は、食品の種類の影響はほとんど受けず、線量に比例して増加した。1kGy照射した時に生成する2-ヘキシルシクロブタノン(2-HCB)、2-オクチルシクロブタノン(2-OCB)、2-ドデシルシクロブタノン(2-DCB)、2-ドデク-5'エニルシルシクロブタノン(2-DeCB)、2-テトラデシルシクロブタノン(2-TCB)の量は、脂肪酸1mmol当たり1.0-1.6nmolであった。
表1 放射線照射によって生じる各種食品類及びトリグリセリッド溶液中の2-アルキルシクロブタノン類の生成量(1kGy照射した脂肪酸1mmol当たりの生成量、nmol)(原論文1の表を参考に作成)
食品 |
2-HCB |
2-OCB |
2-DCB |
2-DeCB |
2-TCB |
チーズ |
1.4 (0.1) |
1.3 (0.2) |
1.5 (0.2) |
1.4 (0.2) |
1.1 (0.2) |
イワシ |
− |
− |
1.3 (0.2) |
1.1 (0.2) |
1.0 (0.1) |
マス |
− |
− |
1.5 (0.2) |
1.3 (0.2) |
1.2 (0.2) |
牛肉 |
− |
− |
− |
1.0 (0.1) |
1.0 (0.1) |
鶏肉 |
− |
− |
− |
1.3 (0.2) |
1.6 (0.2) |
マンゴー子実 |
− |
− |
− |
1.1 (0.2) |
1.0 (0.2) |
トリグリセリッド |
1.3 (0.2) |
1.4 (0.2) |
1.4 (0.2) |
1.6 (0.2) |
1.1 (0.2) |
温度を変えて鶏肉を照射した時に生成する2-DeCB及び2-TCB量は、非凍結条件下(+20℃)での照射に比べて凍結条件下での照射の方が少なく、凍結条件下においても照射温度が低いほど小さな値を示した。また、非凍結条件下(+20℃)においては、乾燥状態(凍結乾燥)や真空中で照射することにより、2-DdCB及び2-TCBの生成量は減少した。
表2 生鮮鶏肉及び凍結乾燥鶏肉を温度または雰囲気を変えて照射した場合の2-ドデク-5' -エニルシクロブタノン(2-DeCB)及び2-テトラデニルシクロブタノン(2-TCB)の生成量の比較(1kGy照射した脂肪酸1mmol当たりの生成量、nmol)(原論文1の表を参考に作成)
温度(℃) |
2-DeCB |
2-TCB |
生鮮肉 空気中 |
凍結乾燥肉 空気中 |
生鮮肉 真空下 |
生鮮肉 空気中 |
凍結乾燥肉 空気中 |
生鮮肉 空気中 |
+20 |
1.2 (0.1) |
0.6 (0.1) |
0.9 (0.1) |
1.1 (0.1) |
0.7 (0.1) |
0.9 (0.1) |
-20 |
0.9 (0.1) |
− |
0.8 (0.1) |
0.8 (0.1) |
− |
0.8 (0.1) |
-80 |
0.6 (0.1) |
− |
0.5 (0.1) |
0.6 (0.1) |
− |
0.5 (0.2) |
脂肪含量が15%及び25%と異なる牛挽肉パティを真空包装して0℃にて電子線を照射したところ、2-ドデシルシクロブタノンの生成量は脂肪含量の影響を受けず、線量に比例して増加し、4.5kGyで0.3ppmであった。
3.2-ドデシルシクロブタノン類の消長:
2-ドデシルシクロブタノンをコーンオイルに溶解させた溶液(5mg/mL)を毎日1mLずつ5日間ラットに投与(計25mgの2-ドデシルシクロブタノンを投与)し、糞と脂肪組織中の2-ドデシルシクロブタノン量及び尿中の2-ドデシルシクロブタノン代謝産物を調べた。糞中に回収された2-ドデシルシクロブタノンの総量は1.78±0.63mgであり、脂肪組織中に回復された総量は0.08±0.01mgであった。尿中には2-ドデシルシクロブタノン代謝産物は検出されなかった。結果として、投与した2-ドデシルシクロブタノンの11%しか回収されず、2-ドデシルシクロブタノンの大部分は代謝されて体外に排出されたか、体内の脂肪組織以外の部分に蓄積されたことになる。
表3 2−DCB(2−ドデシルシクロブタノン)25mgを3〜5日間投与されたラットの糞中の2−DCB回収量(原論文3の表を参考に作成)(原論文3より引用)
ラットNo.の比率(%) |
糞中の2-DCB(mg) |
糞中に回収された2-DCB |
1 |
1.99 |
7.97 |
2 |
0.96 |
3.84 |
3 |
2.04 |
8.17 |
4 |
1.75 |
6.98 |
5 |
1.20 |
4.81 |
6 |
2.71 |
10.85 |
平均値 |
1.78±0.63 |
7.10±2.52 |
コメント :
照射した肉の2-アルキルシクロブタノン類の毒性については、実際の食事を想定した摂取量及び体内吸収量と毒性発現量との関係を明らかにして論じる必要がある。
原論文1 Data source 1:
2-Alkylcyclobutanones as markers for irradiated foodstuffs. U. The CEN (European Committee for Standardization) method: field of application and limit of utilization
B.Ndiaye, G.Jamet, M.Miesch, C.Hasselmann, E.Marchioni
Department of Food Science, Faculty of Pharmacy, Illkirch, France
Radiation Physics and Chemistry, 55, 437-445(1999)
原論文2 Data source 2:
Evaluation of 2-dodecylcyclobutanone as an irradiation dose indicator in fresh irradiated ground beef
P.Gadgil, J.S.Smith, K.A.Hachmeister, D.H.Kropf
Kansas State University, USA
Journal of Agricultural and Food Chemistry, 53, 1890-1893 (2005)
原論文3 Data source 3:
Metabolism by rats of 2-dodecylctclobutanone, a radiolytic compound present in irradiated beef
P.Gadgil, J.S.Smith
Kansas State University, USA
Journal of Agricultural and Food Chemistry, 54, 4896-4900 (2006)
キーワード:食品照射、2-アルキルシクロブタノン類、2-ドデシルシクロブタノン、牛挽肉、脂肪、ラット、代謝、放射線照射分解生成物、照射食品の検知
food irradiation, 2-alkylcyclobutanones, 2-dodecylcyclobutanone, ground beef, fat, rat, metabolism, radiolytic products, detection of irradiated foods
分類コード:020403, 020404, 020405