重イオンビーム照射による新花色コギクの育成

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作成： 2005/11/11 鈴木一典データ番号　　　：020259 重イオンビーム照射による新花色コギクの育成目的　　　　　　：重イオンビームのコギク突然変異育種への利用放射線の種別　　：エックス線, ガンマ線, 重イオン放射線源　　　　：重イオン加速器（炭素イオン,135MeV/核子）、照射用軟Ｘ線発生装置OM-100RA（40kVp,4mA）、⁶⁰Co線源（44.4TBq）線量（率）　　　：重イオン1-20Gy、軟Ｘ線 1-10Gy、ガンマ線20-80Gy 利用施設名　　　：理化学研究所加速器施設（RARF）、茨城県農業総合センター生物工学研究所、農業生物資源研究所放射線育種場ガンマールーム照射条件　　　　：大気中応用分野　　　　：植物育種、花き園芸概要　　　　　　：　コギクの花色変異誘発を目的に重イオンビーム照射による突然変異育種を検討した。重イオンビームを茎切片に照射して不定芽形成に及ぼす線量効果を調査し、その後、好適な線量を照射して花色変異の誘発を図った。その結果、18品種中5品種において高い頻度で花色変異が誘発され、重イオンビームが軟Ｘ線やガンマ線とともに有効な変異原であることが示された。詳細説明　　　　：　花きの新品種育成の方法として、花色だけが異なる変異シリーズを作出することは、シリーズ品種が親品種と同様の管理で栽培できるという省力化と、花色のバラエティ化を図るという市場性向上の意義から重要な戦略として位置づけられている。そこで、茨城県の主要な花き品目であるコギクの花色シリーズ化を目的として、新しい変異原として期待されている重イオンビームによる突然変異育種を検討した。　１）重イオンビーム照射が茎切片からの不定芽形成に及ぼす影響　コギク18品種を材料として、長さ約2mm、縦半割にした茎切片をIAA（インドール酢酸） 2 mg/lとBA （ベンシルアデニン）0.2 mg/lを添加したMS(Murashige and Skoog)培地に置床した。培地置床後、3～7日目に重イオンビーム（炭素イオン、135 MeV/u、LET 23 keV/μm）を照射した。　　培地置床後30日目に茎切片当たりの不定芽形成率を調査した結果、供試した18品種はいずれも照射線量が増加するにつれて不定芽形成率が低下した。‘千代’を除く全ての品種は、20Gyの線量で不定芽が形成されなかった。　　不定芽形成率が無照射の半分になる半致死線量（LD₅₀）には品種間差が認められ、3Gy以下のものが4品種、3～7Gyのものが5品種、7～10Gyのものが7品種、10～20Gyのものが2品種あった。また、‘千代’、‘咲子’および‘ともしび’の3品種について軟Ｘ線とガンマ線の照射試験を行い、LD₅₀値を基準として重イオンビームと比較したところ、重イオンビームはガンマ線の約4～125倍、軟Ｘ線の約0.5～6倍の生物効果を示した（図1）。図1　コギク3品種（上より'千代'、'咲子'、'ともしび'）の茎切片からの不定芽形成に及ぼす放射線照射の影響（原論文1より引用）　２）誘発された花色変異　コギク18品種に重イオンビームをLD₅₀付近の線量で照射した結果、赤色系の5品種で花色変異が誘発されたが、黄色系の9品種、白色系の3品種および赤色系の1品種では変異は認められなかった。　　重イオンビームの比較試験として、軟Ｘ線とガンマ線をLD₅₀付近の線量で‘千代’、‘咲子’および‘ともしび’に照射した。その結果、‘咲子’への軟Ｘ線照射と‘ともしび’へのガンマ線照射においては変異が確認されなかったが、その他の品種、放射線種の組み合わせでは高い頻度で花色変異が誘発された（表1）。　　誘発された花色変異は、‘咲子’と‘ともしび’は色相が橙方向にシフトするものだけであったが、‘千代’においては、赤色が濃くまたは薄くなるものや、黄色～橙色に帯びるものなど幅広かった（図2）。しかしながら、花色変異の内容については、放射線種による明確な違いは認められなかった。花色変異の出現割合は、品種、放射線種、線量で異なったが、花色の変異幅が最も大きかった‘千代’においては、重イオンビーム10Gyの照射で14.0%、ガンマ線40Gyの照射で 8.3%、軟Ｘ線7Gyの照射で9.3%であった（表1）。表1　放射線照射により誘発されたコギクの花色変異（原論文2より改編）品　種花　色線　種線量 (Gy) 供試数花色変異個体数（％）ビーチボール赤紫重イオン 7 44 2 4.5 のんこ濃赤紫重イオン 3 327 2 0.6 重イオン 7 8 2 25.0 千代紫ピンク無照射 - 67 0 0.0 重イオン 10 57 8 14.0 重イオン 20 5 1 20.0 ガンマ線 40 216 18 8.3 軟Ｘ線 7 118 11 9.3 咲子濃ピンク重イオン 1 150 2 1.3 ガンマ線 20・40 252 3 1.2 軟Ｘ線 5 98 0 0.0 ともしび赤紫重イオン 3 77 1 1.3 ガンマ線 20・40 118 0 0.0 軟Ｘ線 5.7 163 6 3.7 図2　コギクの花色変異体　　以上のように、コギクの茎切片に重イオンビームを照射することにより、軟Ｘ線やガンマ線と同様に高い頻度で花色変異が誘発されることが示された。今回得られた変異個体については、栽培特性を調査して優良系統を選抜していく予定である。コメント　　　　：　　茎切片からの植物体再生系に重イオンビームを照射することにより、突然変異育種で問題となるキメラの発生がほとんどなく、効率的に形質の安定した変異個体を得られる。原論文１ Data source 1：コギクの突然変異育種Ⅰ．茎切片からの不定芽形成能と放射線照射の影響鈴木一典^*、高津康正^*、郷内武^*、宮沢豊^*^*、斉藤宏之^*^*、阿部知子^*^*、霞正一^* ^*茨城県農業総合センター生物工学研究所 ^*^*理化学研究所植物機能研究室育種学研究，5，268（2003）原論文２ Data source 2：コギクの突然変異育種Ⅱ．重イオンビーム照射により誘発された花色変異鈴木一典^*、郷内武^*、藤田光子^*、斉藤宏之^*^*、阿部知子^*^*、霞正一^* ^*茨城県農業総合センター生物工学研究所 ^*^*理化学研究所フロンティア研究システム育種学研究，7，329（2005）キーワード：キク,変異,花色,重イオンビーム,ガンマ線,エックス線,組織培養,育種,chrysanthemum, mutation, flower color, heavy-ion beam, gamma ray, X ray, tissue culture, breeding 分類コード：020101, 020501
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品　種	花　色	線　種	線量 (Gy)	供試数	花色変異
品　種	花　色	線　種	線量 (Gy)	供試数	個体数	（％）
ビーチボール	赤紫	重イオン	7	44	2	4.5
のんこ	濃赤紫	重イオン	3	327	2	0.6
のんこ	濃赤紫	重イオン	7	8	2	25.0
千代	紫ピンク	無照射	-	67	0	0.0
		重イオン	10	57	8	14.0
		重イオン	20	5	1	20.0
		ガンマ線	40	216	18	8.3
		軟Ｘ線	7	118	11	9.3
咲子	濃ピンク	重イオン	1	150	2	1.3
		ガンマ線	20・40	252	3	1.2
		軟Ｘ線	5	98	0	0.0
ともしび	赤紫	重イオン	3	77	1	1.3
		ガンマ線	20・40	118	0	0.0
		軟Ｘ線	5.7	163	6	3.7