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作成: 2005/11/17 今関 等

データ番号   :020251
粒子線マイクロビーム
目的      :粒子線マイクロビームの適応領域と技術の概要
放射線の種別  :陽子(入射)、アルファ線(入射)、エックス線(検出)、電子線(検出)
放射線源    :粒子線静電加速器(1.7MV)
フルエンス(率):1/(μm2・s)-108/ (μm2・s)
利用施設名   :放射線医学総合研究所静電加速器棟(PASTA:PIXE Analysis system and Tandem Accelerator facility)
照射条件    :スキャン照射、大気圧ヘリウム中照射
応用分野    :医学、生物学、放射線生物学、環境科学、材料物性

概要      :
 粒子線マイクロビームはこれまで局所分析プローブとして用いられることが多かったが、最近では細胞やLSIのような微小領域への粒子線照射効果の研究に用いられるようになってきた。また、シングルイオン照射装置を併設した施設もあり、粒子の入射領域だけでなく入射粒子数までコントロールすることが可能になってきている。

詳細説明    :
 粒子線マイクロビームは、これまで大きなサイズの粒子ビームで行ってきた物質分析法(PIXE:Particle Induced X-ray Emission、RBS:Rutherford Backscattering Spectrometry、SIMS:Secondary Ion-microprobe Mass Spectrometer、チャネリング法)の局所分析プローブとして用いられ、主に金属材料、半導体材料、高分子材料、生体試料等の分析に用いられてきた。また一方で、半導体材料に対し任意の領域へのイオンの局所注入や、微細加工を施すために、FIB(Focused Ion Beam)と呼ばれる粒子線マイクロビーム技術を応用した装置がある。
 
 このように、主に材料分析、材料改質の分野に用いられることが多かったマイクロビーム技術であるが、特にイオンマイクロビームは照射試料に対するエネルギー付与が大きいため、最近になって生物細胞やLSI中の構成素子のような微小領域内での照射効果の研究に用いられるようになってきた。これらの研究ではビーム径を小さくするだけではなく、粒子の入射数をコントロールする技術も重要である。この技術はシングルイオン照射技術と呼ばれ、イオン検出器で試料への入射粒子数をリアルタイムで測定し、一定量入射すると静電型の高速ビームデフレクタで照射を停止するもので、イオンを1〜数個単位で照射することが可能である。その多くは微小ターゲットへの局所照射を目的とした粒子線マイクロビーム施設に設置されている(国内では(独)日本原子力研究開発機構高崎量子応用研究所、(独)放射線医学総合研究所等)。
 
 粒子線マイクロビーム装置は、材料分析や物質表面改質に適当な数MeV級の静電加速器施設に設置されたものが多い。ビーム電流安定度は、例えばPIXE分析において、ターゲット位置での電流〜数百pAに対し数pA程度である。静電加速器施設への設置が多かった粒子線マイクロビーム装置であるが、最近では(独)日本原子力研究開発機構高崎量子応用研究所のようにサイクロトロンを用いて、高LET粒子(80MeV Arイオン)を細胞に照射することを目的とした粒子線マイクロビームも存在する。
 
 マイクロビーム形成技術には、マイクロアパチャー方式と収束方式の2種類がある。マイクロアパチャー方式は、照射試料の直前にビームサイズを決定するアパチャーを設置する方法で(実際は複数組のスリットとの組み合せ)、試料の照射位置を観察する顕微鏡をコリメータ出口に設置すれば良いため照準が簡単というメリットがある。しかし、アパチャーの設置角度やアパチャー開口部でのエッジ効果と呼ばれる現象のためビーム径は5μmが限界と言われている。
 
 一方、収束方式は複数組のX-Yスリット、収束用四重極電磁石を使用する。これらの機械的、ビーム光学的な調整は難しいが0.1μm程度までの収束が可能である。また、ビームスキャナを取り付け、スキャンしながら照射し、PIXEやSEM(Secondary Electron Microscope)イメージングといった試料の二次元分析マップを取得することが可能である。海外ではこの収束方式を発展させ、微小機械部品の製作を目的とするナノイオンビームの形成法を開発している施設(英・サリー大学等)もある。


図1 (独)放射線医学総合研究所PASTA(PIXE Analysis system and Tandem Accelerator facility)スキャニングマイクロビーム装置の概略図



図2 (独)放射線医学総合研究所PIXE分析用加速器(HVEE社製タンデム型静電加速器)加速タンク部(右図)と、イオン源部(左図)



図3 (独)放射線医学総合研究所細胞照射用マイクロビームシステム(SPICE:Single Particle Irradiation for CElls)の概略図



原論文1 Data source 1:
Introduction of PIXE analysis system in NIRS
Hitoshi Imaseki
National Institute of Radiological Sciences
International Journal of PIXE, 10, 77-90 (2001)

原論文2 Data source 2:
Single particle irradiation system to cell(SPICE) at NIRS
Hiroshi Yamaguchi, Yukio Satou, Hitoshi Imaseki, Nakahiro Yasuda, Tsuyoshi Hamano, Yoshiya Furusawa, Masao Suzuki, Takahiro Ishikawa, Teiji Mori, Kenichi Matsumoto, Teruaki Konishi, Masae Yukawa, Fuminori Soga
National Institute of Radiological Sciences
Nuclear Instruments & Methods in Physics Research Section B, 210, 292-295 (2003)

原論文3 Data source 3:
Elemental imaging of rat epididymis by micro-PIXE analysis
Shino Homma-Takeda, Yoshikazu Nishimura, Yoshito Watanabe, Hitoshi Imaseki, Masae Yukawa
National Institute of Radiological Sciences
Nuclear Instruments & Methods in Physics Research Section B, 210, 368-372 (2003)

参考資料1 Reference 1:
Principles and Applications of High Energy Ion Microbeam
F. Watt and G.W. Grime
Oxford University
Adam Hilger, Bristol, 1987

参考資料2 Reference 2:
イオンビームによる物質分析・物質改質
藤本文範、小牧研一郎 共編

内田老鶴圃 2000年刊

キーワード:粒子線、マイクロビーム、局所分析、材料改質、シングルイオン、静電加速器、サイクロトロン、アパチャー、収束、
particle、microbeam、local analysis、material reforming、single ion、electrostatic accelerator、cyclotron、aperture、focusing
分類コード:010201, 010305, 020502,020501

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