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作成: 2004/10/01 原 靖英

データ番号   :020248
イオン照射による新花色・花形のバラの育成
目的      :植物育種におけるイオンビームの利用
放射線の種別  :重イオン
放射線源    :重イオン加速器(135MeV/nucleon)(12C,14N,20Ne)
線量(率)   :10-50Gy
利用施設名   :理化学研究所加速器施設(RARF)
照射条件    :大気中
応用分野    :農学、園芸学、育種学

概要      :
 突然変異育種法としてイオンビームがバラの緑枝上の腋芽の形質に及ぼす好適な照射線量は、Cイオンでは20〜40Gy、Nイオンでは30Gy前後、Neイオンでは10〜15Gyであると推察された。高い割合で花色や花弁数、花形、花径等がオリジナルと異なる変異株を得ることができ、イオンビーム照射が新品種育成に有効であると考えられた。

詳細説明    :
 植物へのイオンビームの照射は、新しい突然変異育種法として利用が検討されており、交配やγ線では得られないような新形質の作出が期待されている。そこで、イオンビームをバラの腋芽に照射し、芽の伸長および花の形質に及ぼす影響等を調査することにより、好適な照射線量を検討した。
 
 試験方法は、12C(LET22.5keV/μm、飛程40mm)、14N(LET30.6keV/μm、飛程34mm)、20Ne(LET61.5keV/μm、飛程23mm)の3種のイオンについて、10〜50Gyの線量をバラの腋芽に照射した。照射後、照射腋芽をバラ台木に接ぎ木し、その後の腋芽の活着状況、腋芽より伸長した枝の長さ、開花時の花の形質等について調査した。
 
 その結果、イオンビームの照射が腋芽の伸長に及ぼす影響については、いずれのイオンでも、照射線量の増加に伴い伸長個体数、枝伸長量が減少した。Cイオンは、40Gy以上で伸長個体数が半数以下となり、50Gyではほとんど伸長が見られなかった(表1)。同様にNイオンでは、40Gyで伸長個体数が少なくなり、50Gyではほとんど芽の伸長は見られなかった。Neイオンでは、20Gyで芽の伸長が遅れ、枝長が短くなった。

表1 イオンビーム(Cイオン)照射がバラの腋芽の伸長(50日後)に及ぼす影響(原論文1より引用)
イオン 線量(Gy) 供試数 活着数 伸長個体数 枝伸長量(cm)
C




10
20
30
40
50
10
10
10
10
10
10
10
10
10
9
9
9
6
2
1
31.7
21.6
19.6
10.4
13.0
未照射 0 10 10 8 38.1

供試品種:湘南キャンディ レッド

 また、腋芽より伸長し、開花した花の形質に及ぼす影響については、Cイオンは20〜40Gy(表2)、Nイオンでは30〜40Gy、Neイオンでは15〜20Gyで高い変異率が得られた。

表2 イオンビーム照射(Cイオン)がバラの花の形質に及ぼす影響(原論文1より引用)
イオン 線量(Gy) 開花数 変異花数 変異率(%)
C




10
20
30
40
50
81
62
111
73
17
4
17
12
19
2
4.4
27.4
10.8
26.0
11.8
未照射 0 133 0 0.0

供試品種:湘南キャンディ レッド

 変異形質については、いずれのイオンでも花色・花弁数・花形・花径・外弁緑化・双子花など様々な変異がみられた。切り花用品種‘湘南キャンディ レッド(花色赤、小輪系)’へのCイオンの照射では、花色はキメラ状態ではあるが、濃赤、濃ピンク、淡ピンク等の色の発現がみられた。花弁数については、正常花は40枚前後であるが、10〜70枚程度に変異し、それに伴い花形にも変化がみられた。花径は、小さくなる傾向がみられた。また、1本の花柄に2つの花が密着して咲く、双子花の発生もみられた。(図1)。


図1 イオンビーム照射による花の変異 品種‘湘南キャンディレッド’


 以上の結果から、突然変異育種法としてイオンビームがバラの緑枝上の腋芽の形質に及ぼす好適照射線量は、Cイオンでは20〜40Gy、Nイオンでは30Gy前後、Neイオンでは10〜15Gyであると推察された。
 なお、イオンビームを照射することにより得られた変異形質は、開花した枝を穂木とした接ぎ木により維持が可能である。しかし、変異形質はキメラ状態であり、キメラ状態から脱却するためには、接ぎ木を数回程度繰り返すことが必要である。

コメント    :
 イオンビームを用いることにより、優良品種の花色の多様化(シリーズ化)や花形の改良等を、交配を用いなくても育成が可能となった。

原論文1 Data source 1:
バラ腋芽へのイオンビーム照射による花器変異系統の育成
原靖英*、北浦健生*、阿部知子**、阪本浩一**、宮沢豊**、吉田茂男**
*神奈川県農業総合研究所
**理化学研究所植物機能研究室
育種学研究、5(別2), 265-265 (2003)

原論文2 Data source 2:
新花色・花形のバラの育成
原靖英
神奈川県農業総合研究所
加速器利用研究グループ植物照射ユーザー会 報告書 2003、pp.16-18

キーワード:イオンビーム、バラ、照射、腋芽、花色、花形
heavy-ion beam, rose, irradiation, axillary bud, flower color, flower shape
分類コード:020101

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