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作成: 2004/10/01 等々力節子

データ番号   :020241
光励起発光(PSL)法による照射香辛料・エビ貝類の検知
目的      :照射香辛料および貝類の迅速検知法の開発
放射線の種別  :ガンマ線,電子
放射線源    :電子加速器(10MeV)、60Co線源
線量(率)   :10kGy(香辛料)、0.5kGy〜2.5kGy(貝類)
利用施設名   :Isotoron(Swindon UK)
照射条件    :室温
応用分野    :照射検知、スクリーニング、標準化、規制

概要      :
 照射食品検知用の光励起発光測定装置を用いて試験室間共同試験を行った。設定した発光量のしきい値から、10kGy照射したスパイス、ハーブ及びこれらの1〜10%混合試料を87%の精度で判別できた。同一試料を基準線量で照射した際の発光量(Cal-PSL)を導入すると判別率は94%に向上した。0.5〜2.5kGy照射した貝類についても、貝殻および消化管内容物の測定による検知法の妥当性が検証された。

詳細説明    :
 光励起発光(Photostimulated Luminescence:PSL)法は、英語で、Optically Stimulated Luminescence(OSL),日本語では輝尽発光とも呼ばれる現象で、放射線計測の分野で、個人線量モニターや年代測定にも応用されている。照射食品検知の原理としては、ケイ酸塩や貝殻などのカルシウム、骨由来のハイドロキシアパタイトなど食品由来の無機物に強い光があたると、放射線照射後に準安定状態にあった電子が伝導帯への励起を経て発光中心の正孔と再結合する際に発光現象が生じる。熱発光法(thermoliminesence:TL法)と異なり、発光素体を分離することなく、香辛料粉末などをそのまま測定することができる。
 
 スコットランド原子炉研究センター(SURRC)が、試料に赤外光を照射し、紫外-可視領域の発光量(フォトンカウント)を60秒間計測する方式の照射食品検知用のPSL測定装置を開発、市販するようになり、この装置を用いた試験室間共同試験が実施された。
 
 香辛料ハーブ類の検知においては、2つのしきい値、T1およびT2を、T1=700カウント/60秒、T2=5000カウント/60秒定め、未知試料の初期発光量のみを測定するスクリーニング法としての利用と、初期の測定値と同一試料に基準線量(1kGy)を照射し1晩放置後に測定した発光量(Cal-PSL Count)の測定結果を組み合わせて判定する標準化法(Cal-PSL法)を提唱している。判定基準が原論文1のTable 1に示されている。
 
 11種のハーブ、17種の香辛料、12種の調味料の合計40種類の試料を無作為に選んで10kGy照射し、パプリカとカレー粉について混合比が1から10%までの照射試料と未照射試料の混合サンプルを4種類調製した。
 
 予備実験の結果、ハーブ試料については概して照射と非照射試料の判別が良好であった。ただし、タイム、セージ、パセリ、ミックスハーブについては、バックグラウンド値が高めであった。香辛料については、白および黒コショウの照射によるシグナル応答が弱かったが、それ以外の試料の判別は良好であった。調味料については、照射と非照射の判定が良好で、特に食塩を含む試料は、照射に対して大きな応答が得られた。
 
 10研究室に各84個の試料を送付しブラインドテストを行った。総計840試料中662試料の測定結果が回収された。スクリーニング法により、照射試料の93%、非照射試料の78.5%が正確に判定され、擬陰性が0.3%、擬陽性が2.2%発生した。ただし全体の13%の試料については発光量がT1とT2の中間値を示し、判断不能と結論された。標準化法(Cal-PSL法)の導入によりこのうち60%の判別が可能となり、スクリーニング法のみと標準化法を適用した場合を総合し、94%の試料を正確に判別できた。6%の試料については、判定不可能で、TL法による分析が必要と結論された。ブラインドテストにおける初期発光量(Initial PSL Count)と基準線量照射後の発光量(Cal-PSL Count)との関係が原論文1のFigure 4に示されている。
 
 5種類のエビ・貝類(ヨーロッパアカザエビ、ムール貝、ブラックタイガー、ブラウンシュリンプ、ホタテ貝)について,5研究室の参加による試験室間共同試験を行った。試料は0.5および2.5kGy照射および非照射の3段階で、各研究室15試料について、殻を含む試料全体と腸管内容物の初期発光量(initial PSLカウント=スクリーニング法)の測定と、1kGy照射後の発光量(Cal-PSLカウント)の測定を行った。T1=1000カウント/60秒、T2=4000カウント/60秒をしきい値として1試料につき6測定を行い、うち2回以上で陽性結果が出れば照射と判定した。殻付試料の全測定結果を原論文2のFigure 4に示されている。
 
 初期発光量の測定のみで全ての研究室が照射試料について正しく照射の判定をすることができた。また、擬陽性の判定結果も無かった。
 
 以上の結果から、2002年にPSL法はヨーロッパ標準法(CEN standard 13751)に定められ、2003年にCodex標準分析法にも採択された。
 
 PSL法については、乾燥アンチョビおよびエビ、乾燥キノコの検知への応用例も報告されている。

コメント    :
 本技術はTL法で必要とされる、食品からのミネラルの分離作業を必要とせず測定を行うことができる点、検査機関にとって迅速簡便な方法である。ただし、Cal-PSLカウントがT1を下回るような試料が見られることからもわかる通り、PSL応答特性が低く判定が下せない場合があることを考慮する必要がある。CENの標準分析法では、初期発光量を測定してT1,T2と比較して判定を行う場合、スクリーニング法としての扱いに留めTL法のバックデータをとることを勧めてる。また、標準化法を用いた場合でも判断不可能と結論づけられた場合には、TL法や他のCEN標準の検知法(ESR法や炭化水素法、シクロブタノン法)などの実施を勧めている。

原論文1 Data source 1:
Photostimulated luminescence detection of irradiated herbs, spices, and seasonings: international interlaboratory trial
D.C.W. Sanderson, L.A. Carmichael, S. Fisk
Scottish Universities Reasearch and Reactor Centre (SURRC)
Journal of AOAC International, 86, 990-997 (2003)

原論文2 Data source 2:
Photostimulated luminescence detection of irradiated shellfish: international interlaboratory trial
D.C.W. Sanderson, L.A. Carmichael, S. Fisk
Scottish Universities Reasearch and Reactor Centre (SURRC)
Journal of AOAC International, 86, 983-989 (2003)

参考資料1 Reference 1:
Foodstuffs. Detection of irradiated food using photostimulated luminescence
European Commitiee for Standardization
European Commitiee for Standardization
EN 13751,(2002)

参考資料2 Reference 2:
Detection of irradiation treatment in dried mushrooms by photostimulated luminescence, EPR spectroscopy and thermoluminescence measurements
K. Malec-Czechowska, G. Strzelczak, A. M. Dancewicz, W. Stachowicz, H. Delincee
Institute of Nutritional Technology(Poland), Institute of Nutritional Physiology, Federal Research Centre for Nutrition
European Food Research & Technology. 216, 157-165 (2003)

参考資料3 Reference 3:
Characteristics of DNA comet, photostimulated luminescence, thermoluminescence and hydrocarbon in perilla seeds exposed to electron beam.
H. W. Chung, H. Delincee, S. B. Han, J. H. Hong, H. Y. Kim, J. H. Kwon
Institute of Nutritional Physiology, Federal Research Centre for Nutrition (BFE)
Journal of Food Science. 67, 2517-2522 (2002)

キーワード:光励起発光、香辛料、ハーブ類、貝類、調味料、検知、試験室間共同試験、標準試験法、スクリーニング、熱ルミネセンス
photostimulated luminescence, spices, herbs, shellfish, seasonings, detection, interlaboratory study, standard methods, screening, thermoluminescence
分類コード:020404, 020403

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