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作成: 2004/09/15 草場 信

データ番号   :020240
シロイヌナズナを用いた花粉照射法による放射線誘発突然変異の解析
目的      :放射線により引き起こされる突然変異の解析
放射線の種別  :ガンマ線,重イオン
放射線源    :60Co線源(44.4 TBq), 重イオン加速器
線量(率)   :40-600 Gy
利用施設名   :日本原子力研究所高崎研究所(carbon ion 220MeV)
農業生物資源研究所放射線育種場 (gamma rays)
照射条件    :室温、空気中
応用分野    :突然変異育種

概要      :
 ガンマ線およびイオンビーム(220MeV炭素イオン)をシロイヌナズナの花粉に照射し、それをマーカーとなる劣性突然変異を持つ母本系統に交配すること(花粉照射法)により突然変異体を単離した。この方法を用いることにより通常では検出できない非伝達性の突然変異も解析することができる。その結果、ガンマ線およびイオンビーム照射により生じる突然変異の多くは非伝達性の巨大欠失であることが判明した。

詳細説明    :
 植物における突然変異解析は多くの場合、後代に伝達する突然変異のみを扱っている。後代非伝達性の突然変異も含めてガンマ線および重イオンビームの引き起こす突然変異を解析することを目的とし、モデル植物であるシロイヌナズナを用いた花粉照射法による解析を行った。実験法の詳細は以下のとおりである。まず、花粉に放射線を照射し(M1世代)、これをマーカーとなる劣性の突然変異を持つ系統に交配する。もし、花粉でこのマーカー遺伝子に突然変異が引き起こされればその交配次世代(M2世代)で花粉で起きた突然変異を突然変異体として検出することができる。この方法を用いると母本側のゲノムが無傷のまま残っているため、通常では検出できない非伝達性の突然変異も検出することができる。さらに花粉親と母本に異なるエコタイプを用いることで、分子マーカーにより花粉側で起きた突然変異箇所を同定することが出来るようになる。
 
実際の実験系にはマーカー突然変異として本葉上の毛が無くなる突然変異gl1を、花粉側エコタイプにCol、母本側エコタイプにはLerを用いて解析を行った。また除雄の手間を省くために母本は雄性不稔突然変異であるms1との二重突然変異体を用いた。また、ガンマ線はコバルト60を線原とし、150-300Gy照射した。重イオンビームには炭素イオン(220MeV)を用い、40-150Gyの照射を行った。その結果、ガンマ線においても炭素イオンにおいても点突然変異も少数検出されたものの、非常に大きな欠失が高頻度で生じることが判明した。
 
 これらの巨大欠失変異の後代への伝達性を調べた結果、多くのものが半不稔となり、後代へ全く伝達しないことがわかった。これはこの巨大欠失が配偶体形成あるいは配偶体生存に重要な遺伝子をも巻き込んだものであり、その結果、この欠失を持つ花粉および卵が形成されないことが半不稔および非伝達性の原因となっていると考えられた。一方、巨大欠失を持つが完全な稔性を持つ突然変異体も得られた。しかし、これらの巨大欠失はヘテロ型の形では後代に伝達するもののホモ型の形では伝達しなかった。発芽試験を試みたところ、これらの変異体は約75%の発芽率を示した。このことはこの巨大欠失のホモ個体は種子形成はするものの、発芽能力が無いものと推測された。また、これらの突然変異体は非伝達性の突然変異体とは欠失位置に違いが見られた。また完全に正常な伝達をする巨大欠失も報告されており、これらを総合すると、ゲノム上の特定の位置の遺伝子が欠失するかどうかでその巨大欠失の伝達様式が決定されると推測された。
 
 GL1座以外にTTG1座についても同様な実験をガンマ線を用いて行った。その結果、GL1座と同様に巨大欠失が高頻度で検出され、それらの巨大欠失を持つ突然変異体は半不稔を示した上、後代に全く伝達されなかった。このことは配偶子形成あるいは配偶子生存に関わる遺伝子がゲノム上に多く散在することを示す。さらにGL1、TTG1座に関わる突然変異のみならず、多くの突然変異が後代に伝達しない巨大欠失を含んでいる可能性を示唆する。このことはこれまでの種子繁殖性作物の突然変異育種には本来引き起こされている多くの突然変異が利用されてこなかったことを示唆しているものと思われる。一方、挿し木等で繁殖する栄養繁殖性作物の突然変異育種には非伝達性の巨大欠失も利用されてきた可能性があると考えられる。


コメント    :
特になし

原論文1 Data source 1:
Transmissible and Nontransmissible Mutations Induced by Irradiating Arabidopsis thaliana Pollen with Gamma-rays and Carbon Ions
K. Naito, M. Kusaba, N. Shikazono, T. Takano, A.Tanaka, T. Tanisaka, and M. Nishimura
National Institute of Agrobiological Sciences
Kyoto University.Japan Atomic Energy Research Institute
Genetics , 169, 881-889 (2005)

キーワード:シロイヌナズナ、カーボンイオン、ガンマ線、花粉照射、巨大欠失、非伝達性変異
Arabidopsis thaliana, carbon ions, gamma ray, pollen irradiation, large deletion, nontransmissible mutation
分類コード:030601, 030602

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