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作成: 2004/3/8 阿部 知子

データ番号   :020235
イオンビーム照射によるダリア花色変異品種の育成
目的      :イオンビーム利用による花卉園芸植物の新品種の育成に関する調査
放射線の種別  :ガンマ線
放射線源    :60Co(44.4TBq)、重イオン加速器(135MeV/u, 1pnA)
線量(率)   :ガンマ線 12.5Gy(0.5Gy/h)、255Gy(1Gy/h)37.5Gy(1.5Gy/h)、45Gy(1.8Gy/h)
重イオン5-100Gy
利用施設名   :農業生物資源研究所放射線育種場ガンマールーム、理化学研究所加速器施設(RARF)
照射条件    :大気中
応用分野    :農業、園芸学、植物生理学

概要      :
γ線および窒素イオンビームを切花ダリアの茎頂培養体に照射し、生存率をおよび変異特性を観察した。また誘発された花色突然変異体のうち園芸上有望な変異株は変異の固定および栽培調査を行なった。窒素イオンビーム照射により得られたピンクダリアのうち、濃赤色となり多弁化した変異株の試験販売を平成13年秋より開始した。

詳細説明    :
広島市では、日本でも珍しい切り花ダリアの電照抑制栽培(冬切り栽培)が行なわれている。冬切り栽培に向く品種はごく一部に限られるため、新品種開発のため、(財)広島市農林業振興センターでは平成8年度よりγ線照射、平成10年度より重イオン照射による放射線育種に取り組んだ。
1. γ線照射
切り花ダリア品種のうち、培養による大量増殖技術を確立した「美榛」、「聖火」、「紅星」、「バルセロナ」、「朝陽」、「舞姫」、「ピンクレディー」、「ニートイエロー」の8品種の茎頂培養体を供試した。照射培養体は発根増殖培地(1/2MS、NAA0.3mg/L)に挿し芽し増殖後、ミスト下で順化し、伸長してきた芽をさらに増殖し定植苗とした。12.5グレイ(Gy)、25Gy、37.5Gy照射では、枯死する株はほとんどなかった。45Gy照射では、株の生長が阻害され、栽培が困難なものが多かった。線量増加による明確な変異率の増加は確認できなかった。全体的に、花弁数は増加するものが多数観察され、減少するものは少なかった。花色変異は複色品種で多く観察され、単色花になる変異が大部分であった。ピンク単色の「美榛」では、花弁数は多くなるものが多く、花色は濃ピンクから淡ピンク・白へ変化するものが観察されたが、淡くなる傾向が強かった。その中でも、多弁化し、花色が淡ピンクとなったもの(37.5Gy照射区)および花色が淡ピンクとピンクの複色となったもの(45Gy照射区)の2つの変異花は新品種として有望であったが、その後の栽培調査で形質が安定しておらず、実用化には到らなかった。

2.窒素イオンビーム照射
平成10年11月に「美榛」の茎頂培養体に窒素イオン(14N7+)ビーム(135 MeV/u、LET 28.5keV/mm)を5〜100Gy照射した。照射培養体は発根増殖培地で培養し、増殖後馴化した。その後、ピンチ、挿し穂し育苗したものを定植苗とした。翌年初夏に圃場に定植し、4本仕立てで栽培し、秋に変異特性を調査した。20Gy以上の照射区では培養体の生育・増殖が顕著に阻害された。5Gyと10Gy照射区では培養体・定植苗とも生育は無照射個体とあまり差が無く、多様な変異が観察された(図1)。
 


図1 窒素イオンビーム照射の生長量への影響および花色・花形変異誘発率(原論文3の表を参考に作成) A. 1ヶ月後の培養体の草丈(無照射区の草丈を100%とした) B. 平成11年9月から11月の花色・花形調査による変異花誘発率(原論文3より引用)

 
窒素イオンビーム照射ではγ線よりも極端な形態異常花が観察された。例えば、γ線よりも花色が濃くなる傾向が強く、花弁数は減少するものが多く、また複色や条斑タイプの変異花が多数出現した。白色に赤色や濃赤色に桃色の条斑の入る変異花、赤色に白い星斑が入った変異花は、窒素イオンビーム照射によってのみ観察されたが、これらの形質は固定できなかった(図2)。
 


図2 ダリア花色・花形変異株(原論文3より引用)

 
園芸的に有望な変異株としては、多弁化した濃赤桃色の変異花および淡桃色のつまの入った変異花はその形質が安定していた。濃赤桃色花変異株は「美榛」より大輪化し暖色系で豪華なため、平成13年秋から愛称「ワールド」として広島市中央卸売市場にて試験販売を行なったところ、単色ダリアの中では高めの単価で取引されるなど好評である(図3)。
 


図3 窒素イオン照射により得られたダリア新品種「ワールド」(愛称)

 
「美榛」はもともと濃赤桃色の「榛原の里」品種の枝変り品種であり、「ワールド」は花色が先祖帰りしたものと言える。ところが、花の形態以外の性質は「美榛」に近く、「榛原の里」より生育が旺盛で茎の伸びが良く切り花むきであった。しかし、花が多弁化したためか花首が曲がるものがあり、今後更に選抜を重ねる必要がある。

コメント    :
平成10年11月に照射し、有望な変異形質選抜・変異形質の固定・栽培調査を行い、試験販売が13年秋と僅か3年で新品種販売を可能にしたのは、(財)広島市農林業振興協会が地元に密着した育種を目指し、品評会など農家と交流を密に計っていることも要因の1つであるが、変異率の高い重イオン照射技術と大量増殖法など培養技術との融合によるところが大きいと思われる。同様にイオンビーム照射により育成した、サントリーフラワーズ(株)の不稔化バーベナ、新花色ペチュニア、(株)キリンビールの新花色カーネーションなどのいずれも育種年限は2年から3年と短い。これらの育種年限短縮による経済効果は大きいと考えられる。

原論文1 Data source 1:
ダリアの組織培養(第6報)放射線育種(その1)
高井敦雄
(財)広島市農林業振興センター
(財)広島市農林業振興センター試験報告, 平成8年度, 115-122 (1996)

原論文2 Data source 2:
ダリアの組織培養(第8報)放射線育種(その3)
飯塚康博
(財)広島市農林業振興センター
(財)広島市農林業振興センター試験報告, 平成10年度, 89-92 (1998)

原論文3 Data source 3:
重イオンビーム照射ダリア栽培試験
濱谷美佐子、飯塚康博、山本昌生
(財)広島市農林業振興センター、広島市植物公園
(財)広島市農林業振興センター試験報告, 平成11年度, 54-71(1999)

原論文4 Data source 4:
重イオンビーム照射ダリア栽培試験.変異の固定度調査
飯塚康博
(財)広島市農林業振興センター
(財)広島市農林業振興センター試験報告, 平成12年度, 38-39 (2000)

原論文5 Data source 5:
Mutant flowers of Dahlia (Dahlia pinnata Cav.) induced by heavy-ion beams
M. Hamatani, Y. Iitsuka, T. Abe, K. Miyoshi, M. Yamamoto and S.Yoshida
(財)広島市農林業振興センター、広島市植物公園、秋田県立大学生物資源科学部、理化学研究所植物機能研究室
RIKEN Accel. Prog. Rep. 34, 169-170 (2001)

キーワード:重イオン, 変異花, ダリア, 園芸, 突然変異育種, heavyion, flowermutant, dahlia, horticulture, mutation breeding,
分類コード:020101、020301、020501

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