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作成: 2003/11/11 山岸 正明

データ番号   :020227
不妊虫放飼法による久米島でのイモゾウムシの根絶防除
目的      :不妊虫放飼法によるイモゾウムシの根絶防除
放射線の種別  :ガンマ線
放射線源    :60Co線源(1.909PBq)
線量(率)   :150Gy
利用施設名   :沖縄県ミバエ対策事業所不妊化施設
照射条件    :空気中, 25℃
応用分野    :農学、害虫防除、不妊虫放飼法

概要      :
不妊虫放飼法によるイモゾウムシの根絶事業が沖縄県の久米島で2001年から実施中であり、鞘翅目では世界で3番目の事例となる。本種は、産卵数が少ない・少数卵を継続的に産む・発育期間が長い・成虫は飛翔できない・有効な誘引物質が発見されていないなどの特性を持つ。そのため、この方法の適用が困難な虫ではあるが、ウリミバエ根絶事業で開発された技術をもとに、大量飼育から防除効果確認までの新たな技術開発がなされた。

詳細説明    :
イモゾウムシはサツマイモの害虫で、中南米起源と考えられ熱帯・亜熱帯に広く分布する。本種に食害されたイモは有毒なイポメアマロンを生成するため、家畜飼料としても利用できない。日本では沖縄本島の勝連半島で1947年に最初に発見され、それ以後南西諸島のほぼ全域に分布を拡大している。本種は植物防疫法により特殊病害虫に指定され、発生地域から未発生地域への寄主植物の移動が制限されている。そのため、南西諸島でのサツマイモ生産の大きな障害となっている。沖縄県では1990年〜93年の不妊虫放飼法によるイモゾウムシの根絶技術確立事業、1994年〜2000年の久米島の一部地域での根絶実証事業を経て、2001年から久米島全域から根絶する計画で根絶事業が進められている。不妊虫放飼法による防除としては、鞘翅目ではワタミゾウムシ、アリモドキゾウムシに次いでイモゾウムシは世界で第3番目の事例となる。
大量飼育 : 成虫を大量生産するため人工飼料を用いた飼育方法の開発がおこなわれている1)。その方法は、アメリカ合衆国農務省がおこなったワタミゾウムシ大量飼育方法を参考に、成虫用人工飼料に産卵させ、飼料を分解して卵を取り出し、幼虫用人工飼料に接種して幼虫を飼育する。小規模飼育では成虫羽化までの生存率は40%ほどであるが、週産数百万匹レベルの大規模飼育技術はまだ確立されていない。そのため現在は飼育には餌として生のサツマイモを使っている。成虫は羽化後10日ほど経ってからサツマイモの外に脱出する。
不妊化 : このような飼育条件では最も効率的な照射手順はサツマイモから脱出した成虫を集めて不妊化することである。羽化後10日目の雄成虫は自由精子を貯精嚢内にすでに持っている2)。照射線量を変えて不妊化率・照射雄の性的競争力・寿命を調査したところ、150Gyの線量でほぼ完全不妊化され性的競争力も大きく低下しないことがわかった(久場・小濱、未発表)。


図1 ガンマ線照射された羽化後14日齢成虫の精巣の光学顕微鏡写真(40倍)

マーキング : 放飼虫と野生虫を識別するため、脂溶性蛍光色素を成虫にまぶす方法を用いている。10万匹の成虫と1gの蛍光色素をプラスチック袋に入れ静かにかき混ぜて成虫の体表面に蛍光色素を付着させる。この方法では野外で34日間生存していた成虫でも色素を100%検出できた(祖慶ら、未発表)。
放飼 : 成虫は翅を持つが後翅の発達が悪く飛翔することはできない。そのため、歩行が唯一の移動手段である。不妊オスと野生メスが野外で出会い交尾する確率を高くするためには、野生メスが生息する場所に不妊オスを正確に放飼する必要がある。現在はヘリコプターから数百万匹/週レベルの成虫航空放飼がおこなわれている(原口ら、未発表)。
防除効果確認 : 不妊虫放飼の防除効果を確認するため、捕獲した成虫の蛍光色素の有無から放飼虫数と野生虫数の割合が調べられている。イモゾウムシについては植物起源の誘引物質や性フェロモンが探索されてきたが有効な誘引物質はまだ見つかっていない。そのため、生のサツマイモを誘引源としたトラップが用いられてきたが、寄主植物が繁殖している場所では誘引効率が低く防除効果を評価することは困難であった。最近、発光ダイオードを用いた光誘引トラップが開発された。生のサツマイモトラップと比較すると、このトラップは誘引効果が数十倍高かった3)。
本種は、産卵数が少ない・少数卵を継続的に産む・発育期間が長い・成虫は飛翔できない・有効な誘引物質が発見されていないなどの特性を持つ。そのため、この方法の適用が困難な虫ではあるが、ウリミバエ根絶事業で開発された技術をもとに、大量飼育から防除効果確認までの新たな技術開発がなされ、防除事業が進められている。

コメント    :
不妊虫放飼法による防除としては、鞘翅目ではワタミゾウムシ、アリモドキゾウムシに次いでイモゾウムシは世界で第3番目の事例となる。

原論文1 Data source 1:
サツマイモ害虫イモゾウムシの人工飼料飼育法
下地幸夫
(株)琉球産経
沖縄県特殊病害虫特別防除事業特別研究報告第3号(印刷中)pp. 1-142(2002)

原論文2 Data source 2:
イモゾウムシの精子形成過程とガンマ線照射による不妊化機構に関する研究
桜井宏紀1・村上善紀1・内村晴子1・小濱継雄2・照屋 匡2
1岐阜大学農学部、2沖縄県ミバエ対策事業所
岐阜大農研報65: 5-12.(2000)

原論文3 Data source 3:
イモゾウムシ用LEDトラップの開発
仲本 寛・澤岻 淳
沖縄県ミバエ対策事業所
応動昆 46:5-12(2002)

キーワード:不妊虫放飼法, イモゾウムシ, 根絶, 沖縄, 久米島, サツマイモ, ガンマー線, 不妊化, sterile insect release technique, West Indian sweet potato weevil, eradication, Okinawa, Kume Island, sweet poteto, gamma ray, sterilization

分類コード:020201,020502

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