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作成: 2002/12/23 林徹

データ番号   :020223
乾燥条件下での化学変化と殺菌効果に及ぼす電子線とガンマ線の比較
目的      :電子線殺菌を行う時の基礎的知見としてガンマ線と電子線を比較
放射線の種別  :ガンマ線,電子
放射線源    :電子加速器(2.5MeV,0.25mA)、60Co線源(2.9x102TBq)
線量(率)   :2.0x106Gy/h、4.6x103Gy/h
利用施設名   :食品総合研究所ガンマセル220,バンデグラーフ型電子加速器
照射条件    :室温空気中
応用分野    :食品照射、放射線殺菌

概要      :
フィルム線量計の吸光度変化や脂質酸化を指標とした化学変化、Bacillus pumilusの芽胞のD10値、発芽、発芽後成長、増殖、蛋白質合成、RNA合成に及ぼす影響はいずれも、ガンマ線と比べて電子線の方が小さい。また、香辛料や乾燥血漿に対する殺菌効果及び照射により引き起こされるこれらの食品の変化も電子線の方がガンマ線よりも小さい。

詳細説明    :
三酢酸セルロースフィルム線量計、ラジオクロミック線量計、ガフクロミック線量計のいずれにおいても、同じ線量のガンマ線と電子線を照射したときの吸光度の変化はガンマ線の方が大きく、ガンマ線よりも約30%高い線量の電子線を照射するとこれらのフィルム線量計の吸光度の変化は一致する。一方、リン脂質であるホスファチジルコリンをモデル物質として用いてガンマ線と電子線の影響を比較すると、ガンマ線照射した時の過酸化物の増加量やカルボニル価は電子線を照射した時の2-3倍になる。


図1 Peroxide Amount in Irradiated PC film.(原論文2より引用)

放射線殺菌の指標菌であるBacillus pumilusの芽胞を用いて、ガンマ線と電子線の影響を比較すると、ガンマ線及び電子線を照射した時のB.pumilusの芽胞のD10はガンマ線が1.26kGy、電子線が1.60kGyであり、その比は1.27となり、電子線の殺菌効果はガンマ線よりも約30%小さい。さらに、芽胞を液体培養した時の発芽、発芽後成長、増殖の様子を550nmにおける濁度を指標として観察すると、放射線照射は芽胞の発芽後成長及び増殖を抑制し、その程度はガンマ線の方が電子線よりも大きい。しかし、電子線をガンマ線よりも約30%高い線量で照射すると、芽胞の発芽後成長と増殖の速度は一致する。芽胞を14Cで標識したロイシンあるいはウリジンを含む液体培地で培養し、その標識の芽胞への取り込みを測定することにより、ガンマ線と電子線が芽胞の蛋白質とRNAの合成に及ぼす影響を調べると、これらの合成の抑制もガンマ線の方が電子線よりも大きく、電子線をガンマ線よりも約30%高い線量で照射した時には蛋白質合成、RNA合成ともに一致する。


図2 Germination, outgrowth and growth profiles of B.pumilus spores irradiated with gamma rays at 2.0 kGy, and with electron beams at 2.0 kGy and 2.6 kGy, and unirradiated spores assessed by the optical density at 550 nm.(原論文3より引用)

以上の結果より電子線が純粋な細菌芽胞に及ぼす影響はガンマ線よりも約30%小さいことがわかる。細菌芽胞が主要な汚染微生物である香辛料や乾燥血液に対する殺菌効果も、ガンマ線よりも電子線の方がわずかに小さい。しかし、いずれの放射線を用いた場合にも、10kGyでほとんどの香辛料を殺菌できる。また、照射により引き起こされる変化も、ガンマ線よりも電子線の方がわずかに小さい。

表1 香辛料の全微生物数に対するガンマ線と電子線の比較(原論文4より引用)

    10kGy 10kGy 10kGy
ガンマ線 電子線 ガンマ線 電子線
黒コショウ
白コショウ
ナツメグ
レッドペッパー
パセリ
パプリカ
ローレルパウダー
オニオンパウダー
3.9×106
1.3×105
2.8×104
2.4×106
4.4×104
1.6×107
2.4×104
2.4×105
3.2×103
100>
0
2.9×102
5.7×102
7.6×103
0
5.6×103
3.5×103
100>
0
6.9×102
9.5×102
1.9×104
0
8.7×103
0
0
0
0
100>
0
0
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0
0
0
0
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0
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コメント    :
ここに紹介した研究結果は乾燥条件下での比較であり、水分含量の高い食品に必ずしも適用できるとは限らないが、近年食品照射や放射線殺菌に電子線が使用されるようになっており、電子線とガンマ線の効果の比較に関する情報は基礎的知見として重要である。

原論文1 Data source 1:
Dose rate dependence of cellulose triacetate dosimeter and radiochromic film dosimeter
T.Hayashi, S.Todoriki, M.Furuta
National Food Research Institute, Ministry of Agriculture, Forestry and Fisheries
Radiation Physics and Chemistry, 43, 613-616 (1994)

原論文2 Data source 2:
Comparative effects of gamma-rays and electron beams on peroxide formation in phosphatidylcholine
S.Todoriki, T.Hayashi
National Food Research Institute, Ministry of Agriculture, Forestry and Fisheries
Bioscience, Biotechnology and Biochemistry, 58, 737-739 (1994)

原論文3 Data source 3:
Comparative effects of gamma rays and electron beams on spores of Bacillus pumilus
T.Hayashi, H.Takizawa, S.Todoriki, T.Suzuki, K.Takama
National Food Research Institute, Ministry of Agriculture, Forestry and Fisheries
Radiation Research, 137, 186-189 (1994)

原論文4 Data source 4:
香辛料の殺菌技術としての電子線照射とガンマ線照射の比較
林徹、マムン、等々力節子
農林水産省食品総合研究所
食品総合研究所研究報告, 57, 1-6 (1993)

原論文5 Data source 5:
Effects of ionizing radiation on sterility and functional qualities of dehydrated blood plasma
T.Hayashi, R.Biagio, M.Saito, S.Todoriki, M.Tajima
National Food Research Institute, Ministry of Agriculture, Forestry and Fisheries
Journal of Food Science, 56, 168-171 (1991)

参考資料1 Reference 1:
リン脂質の酸化における線量率効果
林徹、等々力節子
農林水産省食品総合研究所
食品照射, 29, 28-30 (1994)

参考資料2 Reference 2:


キーワード:芽胞, spore,細菌,bacteria,ガンマ線,gamma-ray,電子線,electron beam,殺菌,decontamination,香辛料,spice,D10値,D10,乾燥血液,dehydrated blood plasma
分類コード:020403,020503

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