放射線特有の分解生成物２－アルキル・シクロブタノン類の安全性

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作成： 2002/7/10 伊藤　均データ番号　　　：020215 放射線特有の分解生成物２－アルキル・シクロブタノン類の安全性目的　　　　　　：脂質を多く含む照射食品に生成する放射線特有の分解生成物２－アルキル・シクロブタノン類の安全性についての紹介放射線の種別　　：ガンマ線,電子放射線源　　　　：⁶⁰Co線源、電子加速器線量（率）　　　：60 kGy 照射条件　　　　：凍結照射応用分野　　　　：肉類の殺菌、脂質を含む照射食品の検知法、飼料の殺菌概要　　　　　　：　脂質を多く含む照射食品には放射線特有の分解生成物である２－アルキル・シクロブタノン類が生成する。ドイツ栄養研究所は本化合物をラットや人間の細胞に直接作用させることによりＤＮＡ１本鎖切断が起こることを見出し、ビタミンCなどでも同じような現象が観察されると報告している。一方、米国で行われた照射鶏肉の長期動物試験では本化合物による毒性は認められず、エームス試験でも変異原性は認められていない。詳細説明　　　　：　１．放射線特有の分解生成物　　これまで、米国食品医薬品局（ＦＤＡ）などによって指摘されてきた照射食品中の放射線特有の分解生成物のほとんどの化合物は天然にも存在し、加熱調理によっても生成し、しかも生成量も微量であることが明らかになっている。したがって、現在でも放射線特有の分解生成物として問題にされているのは２－アルキル・シクロブタノン類のみとなっている。２－アルキル・シクロブタノン類は食品中の脂質が放射線分解する際に生成する化合物であり、その骨格構造に四員環を有している。シクロブタノン類の四員環構造はベンゼンなどの六員環構造に比べ不安定であり容易に分解されやすい。脂質を含む食品が加熱調理されるときにもシクロブタノン類が生成される可能性があるが、不安定のため再分解して調理済み食品からは検出されにくいと思われる。このため、２－アルキル・シクロブタノン類は照射食品のみに検出されることから照射食品の検知法への応用が提案されている。一方、照射食品に特有の分解生成物であるため安全性を評価しておく必要があった。　　　２．２－アルキル・シクロブタノン類の遺伝毒性試験　　ドイツ栄養研究所のDelincee等はラット及び人間の結腸細胞を用いて２－アルキル・シクロブタノン類の細胞毒性及び遺伝毒性試験を行った。細胞毒性はtrypan blue活性試験または tetrazolium salt reduction (MTT)法によって行った。遺伝毒性はＤＮＡコメットアッセイ法で分析した。　ラット6匹に２－アルキル・シクロブタノン類の一種である２－ドデシル・シクロブタノンを1.12 mg/kgまたは14.9 mg/kgを与え16時間作用させた場合には細胞毒性は認められなかった。一方、２－ドデシル・シクロブタノンをラット及び人間の結腸組織培養細胞に直接作用させたところ、図１に示すように細胞毒性が認められ、0.25 mg/mlで生存細胞が約50%に減少した。図1　Viability of human colon cells incubated with 2-DCB(2-dodecylcyclobutanone) at various concentrations for 30 minutes at 37℃(means ±SEM; 3 independent experiments)(原論文２より引用）　さらに、ＤＮＡの１本鎖切断に対する影響をコメットアッセイ法で調べたところ、図２に示すようにラットより人間細胞の方がＤＮＡが切断されやすかった。なお、図２で示した0.25～1.50 mg/mlは２－ドデシル・シクロブタノン1000～6000µMに相当する量である。図2　DNA single strand breaks in human colon cells induced 2-DCB at various concentrations for 30 minutes at 37℃(means ±SEM; 3 separate human colons, for each 3 slides with 50 cell counts). For comparison also the results with rat colon cells are included in the figure.(原論文２より引用）　これらの結果を受けて、さらに人間の結腸組織培養細胞HT29 とHT29 clone 19A系を用いて細胞毒性及び遺伝毒性試験を行った。本試験では２－アルキル・シクロブタノン類に属す２－ドデシル・シクロブタノンと２－テトラジシニル・シクロブタノンを用いた。その結果、400µM濃度では細胞毒性は認められず、ＤＮＡ１本鎖切断がわずかに認められた。この400µM濃度は図２の0.1 mg/mlに相当する量である。一方、ラットに２－ドデシル・シクロブタノンを直接投与すると14.9mg/kgで結腸細胞にＤＮＡ１本鎖切断が若干認められた。しかし、対照との差はほんのわずかであり、しかもここに用いた２－ドデシル・シクロブタノンの量は成人が食べる場合には60 kGy照射した丸ごとの蒸し焼き鶏肉800個分以上に含まれる量である。一方、ビタミンCやルチンのような抗変異原性物質でもコメットアッセイでＤＮＡ１本鎖切断能のあることが報告されている。　　３．動物試験等による安全性評価　　米国のラルテック社で行われた100トン以上の照射鶏肉のマウスや犬を用いた長期動物飼育試験では59 kGy照射にもかかわらず毒性は認められていない。遺伝毒性試験においても(鶏肉を59 kGy照射した場合に生成される２－ドデシル・シクロブタノンはDelincee等が遺伝毒性試験に用いた量より少なく１ｇ当たり約1.7µgであるが、長期動物飼育試験で用いられた動物での染色体異常は認められていない。　　これらの結果は、２－アルキル・シクロブタノン類には毒性がないことを示していると国際食品照射諮問会議（ＩＣＧＦＩ）の専門家は結論づけている。さらに、２－ドデシル・シクロブタノンをラット肝汁処理したものと無処理のものでエームス試験を行っても変異原性は認められていない。なお、米国食品医薬品局は細胞に直接作用させる変異原性試験はエームス試験の結果のみを有効と認めている。コメント　　　　：　Delincee等がコメットアッセイ法により２－アルキル・シクロブタノン類にＤＮＡの１本鎖切断能があることを発表したため、欧米諸国の消費者団体に食品照射に対する誤解を与えた。そしてこの数年、欧米の食品照射反対運動ばかりでなくわが国の反対運動でもDelincee等の報告が食品照射反対の一つの論拠にされてきている。Delincee等は再度、試験をやり直し、２－アルキル・シクロブタノン類はコメットアッセイ法では弱遺伝毒性物質であるが、ビタミンCやルチンなどの抗変異原性物質にもＤＮＡ１本鎖切断能があると述べている。酒類に含まれるエチルアルコールにも弱変異原性があることが近年になって報告されており、食品中に含まれる微量の天然変異原性物質と比べても２－アルキル・シクロブタノン類の安全性は生成量の上からも変異原性からも問題にする必要がないことを示している。なお、DNA１本鎖切断は生体内で簡単に修復されるDNAの傷であり、生体内で日常的に起こっている現象である。原論文１ Data source 1： Genotoxicity of 2-dodecylcyclobutanone Henry Delincee, Beatrice-Louise Pool-Zobel and Gerhard Rechkemmer Federal Research Centre for Nutrition Food Irradiation, Fifth German Conference, Report by the Bundesforschugsanstalt fur Ernahrung RFE-R--99-01 (Conference on November 11&13, 1998). 原論文２ Data source 2： Peer review on Dr. H. Delincee's report on genotoxicity of 2-alkykcyclobutanones International Consultative Group on Food Irradiation(ICGFI) International Consultative Group on Food Irradiation(ICGFI) Sixteenth Annual Meeting of the International Consultative Group on Food Irradiation(ICGFI), 25 - 27 October 1999, Antarya, Turkey (Room Document No.4) 原論文３ Data source 3： Genotoxicity of 2-alkylcyclobutanones, markers for an irradiation treatment in fat-containing food Henry Delincee, Christiane Solika and Eric Marchioni Federal Research Centre for Nutrition ⅩⅡ. IMRP, March 25 - 30, 2001, Avignon, France 参考資料１ Reference 1：照射食品の安全性と栄養適性世界保健機関コープ出版、1996年参考資料２ Reference 2： Volatiles from food irradiation Wassef W. Nawar University of Massachusetts, Amherst, Massachusetts Food Reviews International, vol.3(1), p.45 - 78(1986). キーワード：食品照射、健全性、放射線特有の分解生成物、２－アルキル・シクロブタノン類、遺伝毒性、変異原性、四員環化合物、脂質、コメットアッセイ、エームス試験、検知法 food irradiation, wholesomeness, unique radiolytic products, 2-alkylcyclobutanones, genotoxic potential, mutagenicity, cyclic compounds, lipid, comet assay, Ames test, detection method 分類コード：020405,020404
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