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作成: 2000/12/09 久米民和

データ番号   :020199
放射線利用の経済規模(農業利用)
目的      :日本の農業利用分野における放射線利用の経済規模
放射線の種別  :ガンマ線,中性子
放射線源    :60Co線源、電子加速器
線量(率)   :10Gy-2000kGy
利用施設名   :士幌馬鈴薯照射装置、沖縄県ミバエ対策事業所照射装置、放射線育種場ガンマ
フィールド
照射条件    :自然環境下
応用分野    :食品照射、害虫駆除、殺菌・滅菌、品種改良、分析

概要      :
 科学技術庁の委託により、日本原子力研究所の放射線利用経済効果専門部会においてまとめられた放射線利用の経済規模について、農業利用(含むアイソトープ用)分野における平成9年度(1997年度)時点での経済規模が、公開データ等に基づいて調査分析された。農業利用に係わる放射線利用経済規模は1,167億円であり、内訳は、照射利用が165億円、突然変異育種が973億円そしてアイソトープ利用が29億円であった。

詳細説明    :
 
 農業分野での放射線の利用は、1)照射利用、2)突然変異育種、3)アイソトープ利用に3区分される。これらの分野で、放射線を利用して生み出された結果の経済性を評価した。即ち、食品照射や殺菌・滅菌では照射によって生産された有価産物の総出荷価格で評価し、突然変異育種は、誘発された突然変異系統の実際に栽培されている全品種の総生産額で評価し、アイソトープについては医薬関係で利用されているアイソトープを除いた全ての販売額をもって評価した。農業利用分野全体における経済効果は、図1に示すように総額1179億円である。内訳は、照射利用165億円、突然変異育種973億円、アイソトープ利用29億円である。


図1 農業利用における分野ごとの経済規模

 照射利用の内訳は、食品照射19.2億円(12%)、害虫駆除84億円(50%)、その他(実験動物用飼料及び食品包装材の殺菌)62億円(38%)である(図2)。


図2 照射利用分野の内訳

 馬鈴薯の発芽防止だけが許可されている食品照射は、北海道士幌農協で毎年15,000トン程度の照射が続けられており、128円/kgとして算定された金額である。不妊虫放飼法による害虫駆除は、沖縄のウリミバエ根絶によって寄主植物を県外に出荷できるようになった県外出荷分40億円、検査・くん蒸処理費用軽減分1億3千万、県内出荷の被害軽減による増収分35億円の計76億3千万円と、奄美群島の7億8千万円の合計である。その他(実験動物用飼料及び食品包装材の殺菌)は、実験動物用飼料の放射線殺菌が約1.5億円(市場規模10億円の約15%)と、食品包装材のBIB(バッグ・イン・ボックス)の放射線殺菌60億円(市場380億円の16%)の合計である。突然変異育種は、イネ(17品種)が最も多く937億円(96.3%)、ゴールド20世紀などの梨が30億円(3.1%)、ダイズ(4品種)が5億円(0.5%)、その他(モモ、キクなど)が1億円(0.1%)である(図3)。


図3 突然変異育種分野の内訳

 世界では、放射線突然変異により1,700以上の品種が育種されている。我が国は世界第6位であり、直接利用29作物種で88品種、間接利用では5作物種で全56品種の合計144品種に達している。とくに水稲は、直接利用と間接利用をあわせると973億円に達しており、黒斑病耐性の「ゴールド20世紀」も鳥取県を中心に普及が拡大している。
 
 アイソトープ利用は、研究用が7億円(24%)、環境放射能分析などの依頼分析事業が21億円(72%)、C-14年代測定が1億円(4%)、全体で約29億円と見積もられた。ラジオアイソトープそのものを用いる研究では、同位体の出荷額5億円、非密封アイソトープを利用する際に発生する放射性廃棄物の処理額2億円の合計である。依頼分析事業に関しては、環境放射能等の分析が21億円、14Cを用いた地質分析及び埋蔵文化財等の年代測定1億円である。 これら農業分野の経済効果は、工業利用(85%)や医学利用(14%)に比べ小さく、全体のわずか1%である。しかし、最近、香辛料の放射線処理や生薬の殺菌が世界各国で拡大しており、日本でも業界を中心に要望が高まっている。香辛料の輸入量は年間273億円(11万トン)、生薬は550億円(1000トン)と推定されており、地球環境に有害なメチルブロマイド使用に代替できる安全な技術としての照射が実用化されれば食品照射分野の経済規模は飛躍的に拡大することになる。
 
 さらに、放射線による突然変異品種育成は、バイオテクノロジーとの併用やイオンビームの突然変異誘発など新しい手法の開発により急速に対象品目が増大しており、新品種育成が将来大きな経済効果を生み出すものと期待される。また、我が国ではラジオアイソトープの使用制限が諸外国に比較して厳しいために、バイオテクノロジーの発展における国際的な競争において不利となっており、規制が諸外国並に合理的になればラジオアイソトープの利用も大きく伸びるものと期待される。
 
 以上、農業分野での放射線利用の国民生活に与える影響は極めて大きいことから、社会受容の動向を見つめながら、ゆっくりながら今後大きく成長するものと期待されている。

コメント    :
 放射線利用は、エネルギー利用とともに原子力利用の両輪であるといわれてきた。しかし、これまでに経済効果を数値化された例が無く直接比較することができなかったため、一般にはエネルギー利用の方が放射線利用よりもはるかに大きいと考えられていた。本調査結果により、エネルギー利用46%、放射線利用54%という数値が示され、放射線利用の経済規模はエネルギー規模と同等あるいはそれ以上の規模を有することが明らかにされた意義は大きい。別の項で、工業利用、医学利用それぞれの分野における経済効果の詳細が紹介されることを期待する。

原論文1 Data source 1:
わが国における放射線利用の経済効果
柳澤和章、久米民和、幕内恵三、竹下英文
日本原子力研究所、高崎研究所
原子力eye, 46, No. 8, pp.62-68 (2000)

参考資料1 Reference 1:
放射線利用の国民生活に与える影響に関する研究
放射線フロンティア研究委員会 放射線利用経済評価専門部会
日本原子力研究所
平成11年度「放射線利用の国民生活に与える影響に関する研究」報告書
(科学技術庁委託事業)

キーワード:放射線利用、経済規模、農業、食品照射、不妊虫放飼法、殺菌、突然変異育種、
イネ、ナシ、ダイズ、アイソトープ、14C
Radiation application, Economic Impact, Agriculture, Food Irradiation,
Sterile Insect technique, Mutation breeding, Radioisotopes, Rice, Pear,
Soybean, 14C
分類コード:020301, 020501, 010504

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