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作成: 2000/11/29 天野 悦夫

データ番号   :020198
燐鉱石の直接施肥の効果の研究
目的      :りん鉱石の直接施肥の効率の研究
放射線の種別  :中性子,ベータ線
放射線源    :原子炉中性子
利用施設名   :原研東海研究所JRR-2
照射条件    :ポリエチレン袋に封入し、気送管にて1分間の照射
応用分野    :りん酸質肥料の施肥効果の実験・研究等

概要      :
 近年りん酸資源の枯渇が話題に上るようになり、低品位りん鉱石の様な南洋性りん酸塩の利用技術の開発が望まれている。中性子照射による放射化でりんの肥料効果を調べる技術を検討した。一方では農作物の栽培に重要な肥料成分の一つであるりんは最近の日本では農耕地土壌に多量に蓄積されてきている。施肥方法の見直しのための野外実験では、より長寿命で使用量を低くできる33Pの利用についても検討した。

詳細説明    :
 
 窒素、りん酸、加里は家庭園芸も含めて植物を育てる3大要素であるが、特にりん酸は大切なDNAの主要成分や、ATPなどの生理代謝系の主要要素であることもあって、植物の活発な成長には不可欠なものである。そのりん酸をたとえば生のりん鉱石の直接施肥などではどのように利用されるか、またそのようなりん酸利用の追跡はどのようにすればよいかは、基礎農学の分野では非常に重要な問題である。原論文1ではいろいろな化学形態のりん酸資材について、原子炉中性子の照射による放射化効率を調べ、原論文2では実際に32P及びより長寿命の33Pを用いた圃場試験について報告している。また原論文3はこのような研究について、主要メンバーであった加藤氏が、オーストリアのIAEA所属ザイベルスドルフ研究所に留学してさらに検討した結果を国際的連名でとりまとめたものである。
 
 まず表1で示されている各種のりん酸資材各0.1gをポリエチレン袋に封入したものを日本原子力研究所東海研究所の研究用原子炉の2号炉(JRR-2)の気送管で1分間中性子照射した。これらについて、まずGe検出器で夾雑・混合物によるガンマ線を調べたところ、24Na,56Mn,87mSr, 152mEu,140La等のいろいろなものが検出された。目的とするりん鉱石は難溶性であるため、このようなものの妨害ノイズを減らすために、まず32Pの生成量の推定を行った。その結果、化学形態が異なっても同じような効率で放射化されることが確認された。

表1 供試リン酸資材 (原論文1より引用)
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   名 称         種 別     略記号    りん酸合量
                                        (P%)
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りん酸           合成品     AIP         16.3
  アルミニウム                                   
                                                 
りん酸鉄         合成品     FeP         17.9
                                                 
りん酸二         特級試薬   DAP         23.6
  アンモニウム                                   
                                                 
りん酸二水素     特級試藥   MCP         26.6
  カルシウム                                     
                                                 
りん酸水素       特級試薬   DCP         18.4
  カルシウム                                     
                                                 
りん酸三         特級試薬   TCP         20.4
  カルシウム (β)                                
                                                 
ヒドロキシ       ー級試薬    HP          19.2
  アパタイト                                     
                                                 
過りん酸石灰      肥  料    SP           8.7
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 原論文2の野外圃場実験は宮崎県都城市にある九州農業試験場畑地利用部のイタリアンライグラスを栽培している無底コンクリート枠圃場(2x2x0.7(d)、4基) で、同位元素希釈法で行っている。実験はまず一般的なりんの同位元素32Pを用いて、低りん酸土壌と高りん酸土壌について、土壌中の吸着・移動を検討し、野外試験ではRIトレーサーとしては33Pを用いた。その結果を表2に示す。

表2 イタリアンライグラスによる32Pの吸収と土壌のA値 (原論文2より引用)
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   土壌  標識液の区別33P吸収量  植物体中のりんの比放射能   吸収利用率 土壌のA値
               (MBqha-1)         (MBqkgP-1)                (%)      (kgPha-1)
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低りん酸土壌  キャリアー  1727       259                    2.04       300
低りん酸土壌  キャリアー・フリー  508  69.6                 0.63       1170
高りん酸土壌  キャリアー  515    58.5                      0.61       1420
高りん酸土壌  キャリアー・フリー  462  58.9                 0.57       1380
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 A値はこの場合土壌に施用された標識りん酸肥量と同等の効果を持つ土壌中のりん酸量を示している。原論文2では実際には実行に多くの制限のある野外実験の例として、実験中の空間線量率や野外試験終了後の汚染検査結果についても報告している。その結果、33Pがこのような実験には32Pよりも適していると述べている。試験終了後には汚染土壌を深さ30cmまですべて掘り取り、特殊不燃物用ドラム缶に充填し、日本アイソトープ協会に輸送して廃棄処分にしている。この作業の後の測定では33Pの残存は認められていない。

コメント    :
 貴重な野外RI実験の例でもある。33Pの半減期は25.3日と32Pの14.26日より長く、またベーター線エネルギーも32Pの1.71MeVより低い0.249MeVなので、実験中の放射線安全、時間的余裕など好ましい結果となっている。しかし、このような実験の場合でも、すべての土壌の廃棄が必要なのであろうか?半減期の十倍以上の時間をかけて十分に減衰させれば、測定不可能なレベルにまでなる場合に、空間的にも予算的にも余分な負担をかけるのはいろいろと無駄になるのではないだろうか。担当官庁の配慮を求めたい。

原論文1 Data source 1:
農業環境研究における原子炉利用新技術の開発と利用の拡大に関する研究-原子炉による農業資材の直接標識化技術の開発とその利用
加藤直人、尾和尚人
農業環境技術研究所資材動態部


原論文2 Data source 2:
32Pアイソトープ希釈法によるイタリアンライグラス作付け圃場のリン酸肥沃度の評価
加藤直人、小山雄生、渡辺浩一郎、小林義之、新美 洋
農業環境技術研究所、九州農業試験場
日本土壌肥料学雑誌 66巻 4号 331-336 (1995)

原論文3 Data source 3:
Evaluation of the residual effect of P fertilizers on plant P nutrition using isotopic techniques.
N. Kato, J.-C. Fardeau, F. Zapata
Nat'l Inst. Agro-Environm. Sci., CEA, and Seibersdorf Lab. of IAEA (respectively)
IAEA Symposium on Soil/Plant studies, held in 1995 pp189-196

キーワード:肥料、施肥法、燐鉱石、直接施肥、放射化分析、標識化、中性子照射、圃場試験
fertilizer, application, phosphate rock, direct application, activation analysis, activated marker, neutron irradiation, growth test
分類コード:020304, 040103, 040202, 040404

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