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作成: 1999/10/14 小山 重郎

データ番号   :020166
アリモドキゾウムシ、イモゾウムシのガンマ線による不妊化線量
目的      :アリモドキゾウムシとイモゾウムシを不妊虫放飼法により根絶防除するために、ガンマ線による不妊化線量を決定する
放射線の種別  :ガンマ線
放射線源    :60Co線源
線量(率)   :20-300Gy
利用施設名   :鹿児島県ウリミバエ防除対策室照射施設、沖縄県ミバエ対策事業所ウリミバエ不妊化施設
照射条件    :空気中、常温
応用分野    :不妊虫放飼法、害虫防除

概要      :
南西諸島ではサツマイモの害虫であるアリモドキゾウムシとイモゾウムシが侵入したため、植物防疫法によりサツマイモの出荷が制限されている。この制限を解除するため不妊虫放飼法による根絶防除がおこなわれているが、現在の不妊化線量は蛹または成虫にたいして、50-150Gyである。

詳細説明    :
 
 アリモドキゾウムシとイモゾウムシはともにサツマイモの害虫で、成虫が茎や塊茎に産卵し、幼虫が内部を食い荒らして蛹となり、羽化した成虫が茎や塊茎から脱出する。この害虫に少しでも食われたサツマイモは特有の悪臭と苦味をもつようになるため食用に適さなくなる。アリモドキゾウムシは熱帯アジア、インド、アフリカ、オーストラリア、北米南部、中南米に分布するが、1903年に沖縄県で発見されてから南西諸島を北上し、現在の北限は鹿児島県の屋久島である。またイモゾウムシは西インド諸島、南米、太平洋諸島、東南アジア、ハワイに分布するが、1947年に沖縄本島で発見され南西諸島に侵入し、やはり屋久島を北限としている。この2種のゾウムシの分布する南西諸島からは植物防疫法によりサツマイモなどヒルガオ科の寄主植物の持ち出しが制限され、サツマイモ生産に重大な障害となっているため、鹿児島県と沖縄県は不妊虫放飼法によって、これらの害虫の根絶防除事業を実施中である。
 
 根絶防除技術として不妊虫放飼法を採用するには、ガンマ線を照射しても体細胞にあまり悪影響を与えることなく、生殖細胞を選択的に破壊する照射線量を求める必要がある。アリモドキゾウムシの場合には卵、幼虫、蛹、成虫と発育段階がすすむほど、体細胞への障害が大きいため、蛹および成虫に対する照射線量がもとめられた。
 アリモドキゾウムシでははじめ羽化2-3日前(蛹化5-6日齢)の蛹に50,70,100Gyのガンマ線を照射した。その結果70Gy以上の照射によって雄雌ともに不妊化されることがわかったが、成虫の平均寿命は50Gyで1/2,100Gyでは1/3に減少した(原論文1)。

表1 Number of offsprintg produced by irradiated adult sweet potato weevils*(原論文2より引用)
Ages Combinations** Dose (Gy)
0 100 200 300
2-day-old N♂ x N♀ 3122
I♂ x N♀ 0 0 0
N♂ x I♀ 0 0 0
7-day-old N♂ x N♀ 3870
I♂ x N♀ 34 0 4
N♂ x I♀ 65 4 0
15-day-old N♂ x N♀ 3449
I♂ x N♀ 18 0 2
N♂ x I♀ 65 6 0
*After gamma irradiation, a group of twenty pairs of the sweet potato weevil was reared on a sweet potato in a polystyrene container and allowed to mate in each combination until all females had died but non-irradiated control paris were allowed to mate for 50 days. Roots as food and a place for oviposition were exchanged for new roots every five days and then stored separately for a month. After the storage roots were dissected to count the offspring. Date are the total of three replications. **I,irradiated ; N,non-irradiated
表1説明:
 照射されたアリモドキゾウムシ成虫の次世代数(Xは交尾の組み合わせ、Iは照射虫、Nは非照射虫、♂は雄、♀は雌をあらわす)。
 表1は羽化後2,7,15日のアリモドキゾウムシ成虫に0,100,200,300Gyのγ線を照射した場合の妊性(次世代を生産する能力)への影響をみたものであるが、2日齢では100Gyで完全に不妊化され、7,15日齢では300Gyでも一部妊性がある。成虫寿命は照射によって1/5ー1/4に短縮するが、交尾能力は非照射虫とくらべて劣らない(原論文2)。

表2 Fecundity of sweet potato weevil irradiated five days after pupation*(原論文3より引用)
Dose
(Gy)
Combination**   eggs***  Females laid****
fertile eggs(%)
0 N♂ x N♀ 247(98.8) 100.0(40/40)
20 I♂ x N♀ 387(26.4) 38.7(29/75)
N♂ x I♀ 200(76.0) 90.2(55/61)
30 I♂ x N♀ 302(9.9) 21.5(14/65)
N♂ x I♀ 12(58.3) 60.0(3/5)
40 I♂ x N♀ 304(1.6) 6.6(4/61)
N♂ x I♀ 0(-) -
50 I♂ x N♀ 238(0.4) 1.8(1/55)
N♂ x I♀ 0(-) -
60 I♂ x N♀ 206(0.0) 0.0(0/49)
N♂ x I♀ 0(-) -
*Test insects were irradiated five days after pupation. Twenty paris were separately reared for five weeks in polystyrene container(0.35 l) at 27℃ and 70%r.h. under the photoperiod of 12L : 12D. Ten paris of non- irradiated control were reared for 50 days. **N,non-irradiated ; I, irradiated ***Value in parenthesis is hatchability. ****Value in parenthesis is (the cumulative number of females laid fertile eggs)/ (the cumulative number of females laid eggs).
表2説明:
 照射されたアリモドキゾウムシ蛹の妊性(***( )内の値は卵の孵化率、****( )内の値は(孵化する卵をうんだ雌の数)/(卵を生んだ雌の総数))。                           
 表2は蛹化後5日目のアリモドキゾウムシ蛹に0,20,30,40,50,60Gyのγ線を照射した場合の妊性への影響をみたものであるが、雌は40Gyの照射で完全に不妊化され、雄は40Gy照射で孵化率1.6%という高い不妊化程度をしめし60Gyで完全に不妊化された。照射虫の生存日数は短縮し、非照射虫と比べて、40Gy照射では雄が1/3、雌が1/2になった。したがって、防除の初期の段階では蛹を40Gyの低線量で照射することによって、成虫を完全不妊化線量で照射するよりも成虫の生存率をたかめ、高い抑圧効果が期待された(原論文3)。産卵後23-26日目のサツマイモ塊根内に寄生するアリモドキゾウムシはその大半が4-6日齢の蛹であり、4日および6日齢の蛹も40Gyで雌雄ともに不妊化できることがわかったので、この時期のサツマイモ塊茎を照射することによって内部の蛹を効率よく不妊化できるものと思われた(原論文4)。

表3 日齢の異なるイモゾウムシ成虫にγ線を照射した場合の妊性に及ぼす影響(原論文5より引用)
1.雄成虫の妊性
照射日齢 子孫数(頭/日/雌)
0 50 100 200 300Gy
3.233
0 0.317 0 0 0
3 0.060 0.020 0 0
6 0.708 0.067 0 0
9 1.551 0.697 0.053 0
12 1.833 0.386 0.007 0
20 1.496 0.367 0.033 0

2.雌成虫の妊性
照射日齢 子孫数(頭/日/雌)
0 50 70 100 150Gy
  3.233
0 0.336 0.016 0 0
3 0.193 0.007 0 0
6 0.048 0.006 0 0
9 0.309 0.077 0.007 0
12 0.740 0.190 0.087 0
20 0.448 0.057 0.007 0
照射日齢は羽化後の日齢を示し、羽化当日を0日齢とした。  表3はイモゾウムシの異なる日齢の成虫に、ガンマ線を照射したときの妊性への影響をみたもので、完全に不妊化するには100Gyが必要であるが、70Gyでもほぼ目的を達せられることを示している。雌成虫は雄成虫よりも放射線感受性が高く、雄の不妊化線量で照射した場合には雌が繁殖する可能性は低い。70Gy以下の線量では、雌雄ともに非照射虫と生存率は同等か多少低下する(雄)程度である。90Gy以上の照射では3週以後の生存率が極端に低下する(原論文4)。

コメント    :
 鹿児島県と沖縄県の資料によれば、以上の実験結果をもとに、鹿児島県の根絶事業ではアリモドキゾウムシをサツマイモにはいっている蛹の状態で50-80Gyで照射し, また沖縄県の根絶事業ではサツマイモから脱出後の成熟成虫に対してアリモドキゾウムシでは100Gy,イモゾウムシでは150Gyの照射がおこなわれている。なお、この事業は現在進行中であり、根絶には至っていない。ここでは不妊化線量のみについて述べたが、不妊虫放飼法には、これらの害虫の大量増殖法、放飼法、効果判定法などおおくの関連技術の開発が必要であり、その成功までにはなお長い年月が必要と考えられる。

原論文1 Data source 1:
アリモドキゾウムシCylas formicarius (FABRICIUS)蛹のγ線照射による不妊化についてー成虫の妊性、寿命及び交尾能力に与える照射の影響ー
岩元 順二・伊藤 俊介・真野 勝・山崎 英明
農林水産省門司植物防疫所名瀬支所
植物防疫所調査研究報告26:69-72(1990)

原論文2 Data source 2:
アリモドキゾウムシCylas formicarius (FABRICIUS)成虫のγ線照射による不妊化についてー成虫寿命、交尾能力、内部生殖器官および次世代数への影響ー
伊藤 俊介・永山 才朗・後藤 誠太郎・浜砂 武久・東正 裕
農林水産省門司植物防疫所名瀬支所
植物防疫所調査研究報告27:69-73(1991)

原論文3 Data source 3:
アリモドキゾウムシCylas formicarius (FABRICIUS)蛹の低線量γ線照射による不妊化についてー妊性、性的競争力、生存率および奇形の発生に与える照射の影響ー
伊藤 俊介・東 正裕・吉田 隆・永山 才朗・亀田 尚司・徳永 太蔵*・押川幹夫*・前田力*
農林水産省門司植物防疫所、*鹿児島県大島支庁ウリミバエ防除対策室
植物防疫所調査研究報告29:45-48(1993)

原論文4 Data source 4:
アリモドキゾウムシCylas formicarius (FABRICIUS)蛹の低線量γ線照射による不妊化について II.最適な照射条件の検討
林 義則・吉田 隆・木場 文博・山下 文男・伊藤 俊介
農林水産省門司植物防疫所名瀬支所
植物防疫所調査研究報告30:111-114(1994)

原論文5 Data source 5:
不妊虫放飼法のための放射線によるイモゾウムシの不妊化技術開発
垣花 広幸・小浜 継雄・久場 洋之・仲本 寛・祖慶 良尚・山岸 正明
沖縄県ミバエ対策事業所
放射線と産業No.71:42-44(1996)

キーワード:不妊虫放飼法、アリモドキゾウムシ、イモゾウムシ、ゾウムシ類、根絶防除、不妊化線量
sterile insect technique, sweetpotate weevil, West Indian sweet potato weevil, weevils, eradication,sterilization dose
分類コード:020201,040204

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