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作成: 1999/10/29 中村 俊夫

データ番号   :020161
C-14年代測定
目的      :農学、考古学、地質学、文化財科学など始めとする幅広い学際的研究試料の高精度放射性炭素年代測定法の確立
放射線の種別  :軽イオン,重イオン
放射線源    :天然放射性同位体
線量(率)   :天然レベル
利用施設名   :名古屋大学年代測定資料研究センター・タンデトロン加速器年代測定施設
応用分野    :年代決定、高精度編年、真贋判定、環境中の炭素循環

概要      :
 宇宙線の作用により大気中で生成される半減期5730年の放射性炭素14Cの放射壊変現象を正確な時計として利用する。安定な炭素からなる12CO2, 13CO2と共に大気中に存在する14CO2を動植物が光合成や食物連鎖により固定したのち、それらが枯死・死亡してから現在までの経過時間を高精度で測定する。また、大気圏内核実験で生成された14Cを化学トレーサとして、大気中CO2の特徴的な14C濃度経年変動を検出することにより、生物関連物質の生成年代が決定できる。

詳細説明    :

 放射性炭素14Cは、地球大気中で宇宙線の作用により絶えず生成され、直ちに酸化されて二酸化炭素14CO2として、安定な炭素からなる12CO2, 13CO2と共に大気中に存在する。14Cはベータ崩壊により半減期5730±40年で窒素14Nに壊変して減少するため、大気中CO2に含まれる14Cの濃度(安定な炭素12Cに対する14Cの存在割合)は、生成量と壊変量が釣り合って長い期間ほぼ一定であったとされる。大気中CO2を光合成により有機態炭素として固定した植物やそれを食することにより炭素を取り込んだ動物が枯死・死亡してから現在までの経過年代が、これらの生物由来の炭素試料中に残存している14Cの濃度を正確に定量することにより推定できる。これが14C年代測定法の原理であり、樹木、木炭、泥炭、腐植土、種子類、紙片、骨・牙・歯化石、貝・サンゴ化石などの生物遺骸試料に適用できる。貝やサンゴでは、海水中の溶存無機炭酸を炭酸カルシウムCaCO3として固定したものを用いる。
 
 14Cの測定方法として、14Cの壊変で放出されるベータ線を計測するガス比例計数管法や液体シンチレーション計数法、さらに14Cをタンデム加速器、質量分析装置及び重イオン検出器を用いて直接検出し計数する加速器質量分析(accelerator mass spectrometry: AMS)法が用いられる。AMS法は試料に含まれる炭素の同位体比(14C/12C, 13C/12C比)が直接測定可能であり、ベータ線計測法に比較して測定に必要とする炭素の量が千分の一以下の0.2〜1mgですみ、低い14C濃度(14C/12C比で10-16オーダ)まで測定可能な超高感度分析である。1試料あたり30分程度の測定で、数千年前程度の比較的若い試料では±30〜±50年程度の誤差で、5〜6万年前まで遡って測定できる。このようなAMSの特徴から、これまで測定不可能とされてきた様々な試料に適用され、利用分野において新知見を提供している(図1)。


図1 名古屋大学に設置されているタンデトロン加速器質量分析計の構成図(原論文1,2より引用)

 炭素は、様々な物質に吸収・固定される一方で、分解・放出され地球上を循環している。この循環は均一ではなく、かつ循環速度が異なるため、それらの炭素含有物質の14C濃度は一様ではなく地域差が検出されている。また、経年変化についても、地磁気変動や太陽活動変動によって過去の14C生成率が変動し14C濃度が変化したことが知られている。全世界的には、樹木年輪を用いて現在から11,800年前(西暦1950年から遡った暦年代)まで、さらにサンゴ年輪や年縞堆積物などを用いて24,000年前までの大気中CO214C濃度が詳細に調べられ、古地磁気変動に起因するとされる数千年周期変動や太陽活動に起因するとされる数百年から数十年周期の変動(ウイグルと称される)が検出されている。これらの年輪年代と14C濃度(14C年代)との関係を調べた成果を用いて、14C年代から暦年代(年輪年代)へ換算する暦年代較正法が実用化されており、最近の14C年代測定結果の報告は、較正した暦年代を用いて試料の年代の意味・意義を議論することが多くなっている(図2)。また、14C濃度のウイグルを年輪年代学における年輪幅に見立てて、年代未知の樹木年輪について14C濃度ウイグルを測定して、それを基準ウイグルと比較して絵合わせし数年の誤差幅で樹木の年代を決定する14C濃度ウイグルマッチによる高精度年代決定も試みられている。


図2 14C年代と暦年代の関係。樹木年輪を用いて現在から11,800年前(西暦1950年から遡った暦年代)まで、さらにサンゴ年輪や年縞堆積物などを用いて24,000年前まで14C年代と暦年代の関係が調べられている。(原論文3を基に作図)

 大気圏内の核実験により大気CO214C濃度は大きく変動したことが知られている(図3)。この変動は全地球的規模の変動であり当時生育した樹木の年輪や植物の種子、またビンテージワインなどに記録されている。この14C濃度変動を利用して、単年性の植物の14C濃度を測定することにより、生育年を1年ないし数年の誤差で推定することができる。


図3 核実験起源の14C。1945年以降に実施された大気圏内核実験により生成された人為起源14Cにより、大気中CO2や海水中の炭酸の14C濃度が大きく変動したことが樹木年輪や造礁サンゴに記録されている。(原論文4,5,6のデータを基に作図)



コメント    :
 今後の発展には2つの方向がる。14C測定に関しては、高精度化と共に微量試料による測定法が開発されるであろう。例えば、現在主流となっているグラファイトを用いる固体試料イオン源ではなく、試料調製の途中段階であるCO2ガスを用いるガス試料イオン源の普及である。現在、英国オックスフォード大学などで14C測定に部分的に用いられているが、まだ完成された技術ではない。しかし、環境中の有機化合物を液体クロマトグラフで単離し、カラムで燃焼して生成したCO2をガスクロマトグラフで精製してガスイオン源に導入して14C濃度を測定する方法を用いると、数十マイクログラム程度の炭素試料で14C測定が可能となるため、今後開発が急がれるであろう。また、AMSを用いると、14C以外にも天然の極微量宇宙線生成放射性同位体の定量が可能である。例えば、10Be(T1/2:1.5x106年), 26Al(7.1x105年), 32Si(101-172年), 36Cl(3.0x105年), 41Ca(1.0x105年), 53Mn(3.7x106年), 129I(1.57x107年)などが測定可能であり、農学・生物学、地質学、環境科学の研究に今後ますます利用されるものと期待される。

原論文1 Data source 1:
加速器質量分析(AMS)による宇宙線生成放射性同位体の測定と若い地質資料年代測定への応用
中村 俊夫
名古屋大学年代測定資料研究センター
地質学論集、No.49, p.121 (1998)

原論文2 Data source 2:
加速器質量分析による高精度14C年代測定
中村 俊夫・丹生 越子・小田 寛貴
名古屋大学年代測定資料研究センター
月刊地球、Vol.26、p.14 (1999)

原論文3 Data source 3:
INTCAL98 Radiocarbon age calibration, 24,000-0cal BP
Stuiver, M., Reimer, P.J., Bard,E., Beck, J.W., Burr, G.S., Hughen, K.A.,
Kromer, B., McCormac, F.G., v.d. Plicht, J., and Spurk, M.
Quaternary Isotope Laboratory, University of Washington, Seattle,
Washington 98195-1360 USA
Radiocarbon, vol.40, p.1041 (1998)

原論文4 Data source 4:
樹木年輪 (1945-1983)の14C濃度変動
中村 俊夫、中井 信之、木村 雅也、大石 昭二、服部 芳明、木方 洋二
名古屋大学年代測定資料研究センター
地球化学、vol.21, p.7 (1987)

原論文5 Data source 5:
Applications of environmental 14C measured by AMS as a carbon tracer
T. Nakamura, N.Nakai and S. Ohishi
Dating and Materials Research Center, Nagoya University
Nuclear Instruments and Methods in Physics Research, B29, p.355 (1987)

原論文6 Data source 6:
Radiocarbon in annual coral rings of Florida
E.M. Druffel and T.W. Linick
Department of Earth System Sciences, Univ. of California at Irvine, Irvine,
California, 92697-3100 USA
Gephys. Res. Lett., Vo.5, p.913 (1978)

参考資料1 Reference 1:
放射性炭素年代測定法の基礎一加速器質量分析法に重点をおいて
中村 俊夫, 中井 信之
名古屋大学年代測定資料研究センター
地質学論集、no.29, p.83 (1988)

参考資料2 Reference 2:
放射性炭素年代測定法
中村 俊夫
名古屋大学年代測定資料研究センター
考古学のための年代測定学入門(長友恒人、編)、古今書院、p.1 (1999)

参考資料3 Reference 3:
最古の土器をめぐって-加速器14C年代測定の利用
中村 俊夫
名古屋大学年代測定資料研究センター
Isotope News, no.9, p.10 (1999)

参考資料4 Reference 4:
Atmospheric radiocarbon calibration to 45,000 yr B.P.:Late glacial fluctuations
and cosmogenic isotope production
H. Kitagawa and J. van der Plicht
Institute for Hydrospheric- Atmospheric Science, Nagoya University
Science, vol.279, p.1187 (1998)

参考資料5 Reference 5:
Techniques of tandem accelerator mass spectrometry and their applications
to 14C measurements.
T. Nakamura, N. Nakai and M. Furukawa
Dating and Materials Research Center, Nagoya University
Proc. of 2nd Int. Symp. on Advanced Nuclear Energy Res. -evolution by
accelerators-., Jan. 24-26, Mito, Ibaragi, p.596 (1990)

参考資料6 Reference 6:
Seasonal variations in 14C concentrations of stratospheric CO2 measured with
accelerator mass spectrometry
Nakamura, T., Nakazawa, T., Honda, H., Kitagawa, H., Machida, T., Ikeda.A
and Matsumoto E.
名古屋大学年代測定資料研究センター
Nucl. Instr. and Methods in Physics Res., B29, p.413 (1994)

参考資料7 Reference 7:
加速器質量分析法による極微量放射性同位体測定―生物科学・医学試料への応用―
中村 俊夫
名古屋大学年代測定資料研究センター
蛋白質・核酸・酵母、vol.39, no.11, p.2011 (1994)

キーワード:放射性炭素、年代測定、放射能測定、ガス比例計数法、液体シンチレーション計数法、加速器質量分析、暦年代較正、14Cトレーサー
radiocarbon, dating, radioactivity measurement, gas proportional counting method, liquid scintillation counting method, accelerator mass spectrometry (AMS), calibration of 14C date to calendar date, 14C tracer
分類コード:020303

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