放射線利用技術データベースのメインページへ

作成: 1999/11/07 久米 民和

データ番号   :020156
ビスコースレ-ヨン製造への放射線照射の応用
目的      :放射線処理によるセルロースの低分子化を利用した環境にやさしいビスコースレーヨン製造法
放射線の種別  :最大3個まで、半角で) 05
放射線源    :電子加速器(10MeV)
利用施設名   :AECL IMPELA
応用分野    :ビスコースレーヨン製造、環境保全

概要      :
 放射線によるセルロースの低分子化を応用することにより、ビスコースレーヨン製造工程における薬品使用量を減少させ、製造工程の簡略化が可能な処理法である。本処理法により、薬品の使用量を減少させ、環境汚染の防止に役立てることができる。

詳細説明    :
 
 ビスコースレーヨンの製造は、世界で130以上の工場が稼動している数十億ドルに達する産業であり、日本以外の国では増加している。
 ビスコースレーヨンの従来の製造法は、まず薄膜状のパルプをアルカリ溶液中でCS2と反応させて液化する(ビスコース)。このビスコース液中のセルロースを固化することにより、繊維、フィラメント、コード、ケーシング、フィルムなどを製造する。その主要な工程は、次の5つである。

(1) アルカリ化
 18-20%のNaOHで処理することにより、アルカリ化セルロースを得る。
Cell-OH + NaOH ---> Cell-O-Na+ + H2
 
(2) エージング
 空気中40-60℃で数時間エージングを行うことにより、重合度(DP)700-1200を250-300に低下させる。
 
(3) キサンテーション
 低分子化したアルカリセルロース液の酸素を窒素で置換して除いた後、28-36%のCS2を添加してエステル化する。本処理により、セルロースを容易に可溶化できる。
Cell-O-Na+ + CS2 ---> Cell-O-C(=S)-S-Na+
 
(4) ライプニング
 上記工程によって得られた6-10%セルロース - 5-8%アルカリ含有化合物は、C(2), C(3)がC(6)へ移行することにより安定な状態となり、低粘度化する。
 
(5) 紡糸
 本溶液をろ過した後、酸溶液(高濃度硫酸、硫酸ナトリウム、硫酸亜鉛)中へ紡糸する。
 
 本処理工程では、紡糸時のCS2, H2Sの発生による環境汚染、Znの毒性などが問題となっており、ビスコース製造業会は深刻な環境問題対策に直面している。
 一方、放射線はセルロースのDPを減少させることができ、またセルロースの反応性が増大する。このため、アルカリ化のためのNaOH濃度を低下させ、エージング工程の省略など処理工程が簡略化できる。また、アルカリの使用量を16%、CS2を25-50%減少させることができ、紡糸時に必要な中和のための酸の使用量も減少させることができる(図1、図2)。さらに、ろ過性が向上するといったメリットも得られる。これらの結果、プラント建設費大幅な削減、運転費の節減が可能となる。


図1  Conventional Viscose Process 従来のビスコース製造工程



図2  Viscose Process - Electron Processing 電子線照射処理によるビスコース製造工程

 セルロースの放射線分解はすでに1952年に報告されており、ビスコース製造への応用は日本でも1971年に上野、村上、今村らによって検討されている。最近になって、環境汚染対策の重要性が高まるとともに、電子加速器の製造技術が発展し、ビスコールレーヨンへの放射線利用がドイツで初めて実用化された。

コメント    :
 セルロースの放射線分解は古くから知られており、数多くの研究報告がある。ビスコースレーヨン製造への利用も、1970年代に検討されている。しかし、コスト面や電子加速器の技術面の理由により実用化には至らなかった。近年、環境汚染に対する社会的関心が高まり、大量の化学薬品を使用するビスコースレーヨン製造業会は環境対策に直面している。さらに、電子加速器の進歩はめざましく、大幅なコスト減が見込まれる状況となっている。このような状況変化により、電子加速器を用いたビスコースレーヨン製造法が実用化の段階に入った。

原論文1 Data source 1:
Electron-Processing Technology: A Promising Application for the Viscose Industry
T. M. Stepanik, S. Rajagopal, D. Ewing and R. Whitehouse
Whiteshell Laboratories, Atomic Energy of Canada Limited. Pinawa, Manitoba, Canada ROE 1L0
Radiat. Phys. Chem., 52, 505 (1998).

原論文2 Data source 2:
Status of Electron Processing Technology for the Viscose Industry
S. Rajagopal and T. Stepanik
Whiteshell Laboratories, Atomic Energy of Canada Limited. Pinawa, Manitoba, Canada ROE 1L0
Proceedings of the Lenzing Sponsored Congress on "Imagine the Future of Viscose, Technology" in Gmunden, Austria, June 12, 1996.

キーワード:セルロース、放射線分解、環境保全、低分量子化
cellulose, radiation degradation, environmental conservation, molecular weight reduction
分類コード:で)
020301,010106,010502

放射線利用技術データベースのメインページへ