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作成: 1999/11/07 久米 民和

データ番号   :020154
低線量放射線照射処理による絹の増収
目的      :低線量放射線照射の蚕に対する効果と絹の増収
放射線の種別  :最大3個まで、半角で) 04,中性子
放射線源    :60Co線源、Ra-Be中性子照射装置
フルエンス(率):6.84 x 105/s, 3.9-4.7 MeV
線量(率)   :2.5 Gy
利用施設名   :Beijing Normal University, Office for Atomic Energy for Peaceガンマ線照射装置
応用分野    :昆虫生理研究、低線量照射効果

概要      :
 低線量の放射線を照射することにより、絹の増収を図ることができる。従来、放射線は突然変異の手段として用いられているが、放射線ホルミシス効果についても古くから検討されている。しかし、放射線の刺激効果は明確でなく、再現性に乏しい場合が多いが、絹の増収効果は、研究室のみならず実際の栽培農家でも実施された数少ない研究例である。

詳細説明    :
 
 蚕に対する放射線照射利用の研究は、1950年代の後半から試みられている。これらの研究は、主として突然変異やウィルスの殺滅を目的としたガンマ線や電子線の照射であった。1960年代になって、品質向上や繭の増収を目的とした研究が行われ、養蚕農家での実証試験も行われている。

(1) 中国での検討
 
 Ra-Be中性子からの放出ガンマ線を用いて、蚕の卵に低線量を照射したときの効果が検討されている。
 中性子のフルエンスの効果を検討した結果、蚕のメタボリズムや機能向上に適したフルエンスが明らかになった。高すぎると障害が生じ、低すぎると生育が悪くなった。最適のフルエンスは、105-107cm2で、良好な効果が認められ、最適のフルエンスは106であった。
 線量率については、低い線量率で絹の増収が得られるというよい結果が得られた。卵の孵化率は、94.5%から96.6%に増加した。強健な蚕、速い生育速度、耐病性に優れ、全齢期間は、0.5 〜 2.5日短縮された。さらに、大きな繭(層が厚い)が得られ、しかも品質も向上した。これらの結果に基づき、34ヶ所で実地試験を行い、平均30%の増収効果が得られた。農家で歓迎されている。


(2) タイでの実施例
 
 タイでは、ガンマ線やレーザーを使った実験が行われている。ガンマ線の場合、3日目の卵に、2.5Gy照射したときに最もよい効果が得られた。繭の量が49%、糸の長さが56%(250-280mが400-600mになる)、糸の重量が43%増加した。また、全齢期間を0.5-1日短縮でき、かま糸として53%増大した。しかし、これらの結果は、31世代後でも継続されると報告されており、刺激効果と突然変異の区別が不明確である。
 一方、He-Neレーザーの照射で、同様の効果が認められている。波長652.8nm、強度0.17mW/inch2のレーザーを3日目の卵に20分間照射した場合に、最もよい効果が得られた。100個の卵を用いた平均値で、孵化率は8%減少したが、生存率10%、サナギ重量3%、繭形成2%、繭厚さ4%、繭重量28%の増加が認められている。

コメント    :
 放射線の刺激効果、放射線ホルミシスは、古くからその効果が指摘されている。農作物の増収への試みも多く、増収をもたらすとの報告もあるが、その効果が不明確な点も多い。動物や昆虫、微生物に関しても不明確な点が多い。蚕に対する効果は、数少ない研究例の1つであり、実地試験も行われているが、さらに多くの実施例が得られることが期待される。 なお、絹増収への照射は、ガンマ線照射からレーザー照射へと主流が変わっているようである。

原論文1 Data source 1:
A Study on Increasing Production of Natural Silk by Using Low Dose Irradiation
Zhou Ruiying, Zhang Yinfen, Cui Dingzhu and Rong Jinxian
Institute of low energy nuclear physics, Beijing Normal University, Beijing Chinese Silkworm Species Farm
Transaction American Nuclear Society, 49, Supplement 1, 407-410 (1985)

原論文2 Data source 2:
Improvement of Thai Silk Production by Gamma Radiation
Boonya Sudatis, Prateep Meesilpa, Suchada Segsarnviriya and Uraiwan Ungprasertporn
Office of Atomic Energy For Peace, Srisaket Sericultural Research Centre
Proceedings of the International Conference on LASERS in Life Sciences, Guangzhou, China, June 20-23, 1990.

参考資料1 Reference 1:
Effect of He-Ne Laser on Growth Rate and Production of Thai Silk Race
B. Sudatis, S. Segsarnviriya, L. Luangpichankul and S. Srihawong*
Office of Atomic Energy For Peace, Bangkok, 10900, Thailand, *Department of Agriculture, Bangkok, 10900, Thailand
Proceedings of the 2nd Asia-Pacific Conference of Entomology, Okinawa, Japan, June 27-July 3, 1993.

キーワード:低線量照射、蚕、絹の増収、繭、成長促進、
Low dose irradiation, silkworm, silk yield increase, cocoons, growth promotion
分類コード:で)
020301

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