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作成: 2003/12/24 出花 幸之介

データ番号   :020150
パイナップルの誘発突然変異
目的      :パイナップルの放射線育種法の開発と突然変異品種の育成
放射線の種別  :ガンマ線
放射線源    :60Co線源(88.8TBq),60Co線源(44.4TBq),137Cs線源(130Ci),
線量(率)   :45-500Gy、0.01-160Gy/hr
利用施設名   :独立行政法人農業生物資源研究所放射線育種場ガンマーフィールド、ガンマールーム、ガンマーグリーンハウス
照射条件    :生体緩照射、急照射、半急照射
応用分野    :農業、植物育種、果樹、熱帯果樹

概要      :
パイナップルの植物体に対して、線量率0.01〜160Gy/hrの範囲で照射時間を変えて、45〜500Gyの線量でガンマ線を照射した。照射株から腋芽の着生した葉を取り葉挿しし、腋芽の発芽に対する適正線量を判定した。また照射株の茎頂部を組織培養してカルスを誘導し、カルス誘導の適正線量を求めた。これらの処理による変異誘発効果から、パイナップルの放射線育種法を提案した。また鑑賞・生食兼用の斑入り突然変異品種などを育成した。

詳細説明    :
パイナップル(Ananas comsus(L) Meer)は、世界の主要果実5品目のうちの一つである。パイナップルでは多くの自然突然変異品種が知られているが、より効率的な突然変異育種法の開発が求められている。放射線により誘発された体細胞突然変異は遺伝子、染色体、ゲノムレベルで同時に発生し、その90%は欠失突然変異であると言われている。高線量の放射線では突然変異頻度が高く、セクターが大きくなり、完全周縁キメラが多くなり、周縁キメラの再配列の頻度も上がる。しかし放射線障害により致死率が高くなり、照射当代や栄養繁殖次世代以降において成長が緩慢となることが多い。逆に低線量ではDNAへの影響が小さいため、放射線障害による枯死や生育障害などは起こらない。しかし突然変異頻度が低く、突然変異セクターも小さく、周縁キメラの再配列はあまり起こらない。また高い線量率(急照射)は低い線量率(緩照射)に比べて障害度が大きいと言われている。特にパイナップルなど栄養繁殖作物では、放射線育種の開始に当たって適正線量や線量率の見極めが重要である。そこでパイナップル品種smooth cayenneの冠芽苗に対して、線量率0.01〜160Gy/hrの範囲で照射時間を変えて、ガンマ線を照射した。ガンマーグリンハウスでは225日間で45〜225Gy照射し、ガンマーフィールドでは40〜600時間で50〜500Gy照射、ガンマールームにおいては18分〜35時間で50〜500Gy照射した。照射株から腋芽の着生した葉を取って葉挿しし、腋芽の発芽における半致死線量(LD50)と致死線量(LD100)を判定した。腋芽のLD50とLD100は、線量率に明瞭に依存し線量率が高まると共に急速に低下した。また0.5〜5.0Gy/hrにおいて、側芽内の成長点の軽度の障害により誘起されたと思われる複芽の発生が観察された。これらを考慮して総合的に判断すると、腋芽の適正線量は5Gy/hr以下の線量率でかつLD50〜1/2LD50の線量であると思われた(図1)。また照射株の茎頂部組織を外植片として、MS基本培地にNAAとBAを各10mg/l添加した培地でカルスを誘導した。カルスの形成も線量率に依存し、線量率が10Gy/hrの場合に線量350Gyまで、20Gy/hrでは線量300Gyまで、40Gy/hrでは線量100Gyまで、80Gy/hrでは50Gyまでカルスが形成された。


図1 パイナップルの腋芽における線量率と致死線量との関係 (原論文2より引用)

葉刺しやカルスから再生した幼植物には葉縁の刺、葉裏の毛茸、葉色(条斑やアントシアン着色)などの変異が観察された。原品種(無刺)の遺伝子型はSsで、自然界でも高頻度で葉縁に刺を持つ遺伝子型ssの植物が出現する。ss型は、カルスからの培養変異としても発生しやすいものと思われた。無毛茸変異や葉色変異は照射培養処理で多く出現し、線量率が高いほど出現頻度が高い傾向があった。


図2 パイナップルにおける個体および培養レベルの放射線育種の流れ(原論文3,4より引用)

パイナップルにおける個体レベルと培養レベルの放射線育種法を図2に示した。個体レベルでは放射線照射後vM2代で区分キメラが観察され、vM3で変異個体が分離される。vM4代以降で周縁キメラの安定化を図りながら変異系統の特性を確認し有望系統が選抜される。一方、培養系を用いる場合、原品種の頂芽や頂芽付近の幼葉、腋芽などから外植片を取り、脱分化、再分化などの経路を経て再生植物が得られる。放射線照射と培養系の組み合わせとしては、培養前から培養中の期間において、照射時期と線量率、照射時間のさまざまな組み合わせが可能である。変異の拡大効果から見ると、生体緩照射後のカルス培養法は効果的である。


図3 パイナップルの斑入り突然変異体

これまでの研究から、斑入り突然変異体が2系統育成された(図3)。smooth cayenneの変異体は果実を賞味した後に斑入りの冠芽をインテリアプラントとする鑑賞・生食兼用品種として、また、A.ananasoidesの斑入り変異体は切り花用として期待されている。このほか、無毛茸変異体も選抜され注目される(参考資料2)。

コメント    :
生体照射では、同一の線量の場合でも一般に高い線量率(急照射)は低い線量率(緩照射)に比べて障害度が大きい。ところがこのことはあまり知られておらず、各種の報告では線量のみで線量率が記載されていないことが多い。また世界の照射施設において、植物材料への照射線量率はまちまちであるといわれている。低線量率では高線量率の数十倍の線量に耐えることもあるので、ここに示されたデータは生体照射の適正線量を考える上で参考になる。また、放射線と組織培養の組み合わせでは変異スペクトルが広がる利点もあるが、off type(異常型)など組織培養を原因とする問題も発生するので、今後さらに検討するべき課題も多い。

原論文1 Data source 1:
The Pineapple, botany, cultivation and utilization.
Collins,J.L.
Pineapple Research Institute, Honolulu, Hawaii
World Crop Books. Interscience Publishers INC. New York 1960

原論文2 Data source 2:
放射線による突然変異体作出技術の開発 (2)パイナップル(Ananas comosus (L) MEER.)の放射線感受性
永冨 成紀
独立行政法人農業生物資源研究所 放射線育種場
国立原子力研究試験研究成果報告書(平成2年度)、 31: 第36項: pp4-7, 1991  

原論文3 Data source 3:
熱帯作物の放射線育種とバイオテクノロジー
永冨 成紀
独立行政法人農業生物資源研究所 放射線育種場
育種学最近の進歩、 32:pp129-146, 1991

原論文4 Data source 4:
放射線による突然変異体作出技術の開発 (2)パイナップルの突然変異誘発における放射線照射法の比較
永冨 成紀
独立行政法人農業生物資源研究所 放射線育種場
国立原子力研究試験研究成果報告書(平成3年度)、 32: 第40項: pp4-6, 1992

参考資料1 Reference 1:
パイナップルの葉挿、培養個体における各種照射法の変異誘発効果
永冨 成紀
独)農業生物資源研究所 放射線育種場
テクニカルニュース、No.41、 放射線育種場、 1992

参考資料2 Reference 2:
パイナップルの放射線照射による無毛茸突然変異体の選抜と構造解析
永冨 成紀
独)農業生物資源研究所 放射線育種場
テクニカルニュース、No.46、 放射線育種場、 1993

キーワード:パイナップル,pineapple, 誘発突然変異,induced mutation, ガンマ線,gamma ray, 放射線,ionizing radiation, 急照射,acute irradiation, 緩照射,chronic irradiation,半致死線量,median lethal dose, 組織培養,tissue culture, 線量,dose, 線量率,dose rate,
分類コード:020101,020105,020201

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