放射線利用技術データベースのメインページへ

作成: 1999/11/18 天野 悦夫

データ番号   :020143
糯米品種「みゆきもち」その他の育成
目的      :水稲の遺伝形質の改変・改良
放射線の種別  :ガンマ線
放射線源    :60Co
線量(率)   :20 kR, 30 kR (200Gy, 300Gy相当)
利用施設名   :放射線育種場ガンマールーム
照射条件    :風乾種子を大気中で照射
応用分野    :農作物の育種改良、突然変異機構の研究

概要      :
 突然変異法によって育成された水稲品種の内、長野県農業試験場でいわゆる県単独育成の成果である「みゆきもち」ほかの計4品種について抄録した。また水稲などの変異体の選抜法や品種の登録についても触れた。

詳細説明    :
 
 従来糯米の育種は既存のモチ性遺伝子を使って行われてきたが、主要食糧米であるウルチ米に比べるとやや日陰の様な扱いであった。しかし、突然変異法を使えばウルチ遺伝子から1段階でモチ変異遺伝子が作り出せることから、優れた栽培特性を持つ最新鋭のウルチ米から新しいモチ品種を育成することは当然考えられて良い方法である。しかし実際には、それに着手し、成果を出すには育種家の相当の努力が必要となる。原論文1と2はその努力によって得られた新しいモチ品種についての報告である。なお原論文2ではさらに、平行して行われた他の試験の成果、3品種についても述べてある。
 
 日本では永く稲の育種は国または公的機関の事業として進められてきた。育成された稲の品種には国の育成の場合は「カタカナ」で品種名が表記され、都道府県の試験場で育成されたいわゆる地方品種の場合は「ひらがな」または漢字で表記されてきた。このデータレコードではその表記法にしたがっている。
 
 まず「みゆきもち」の場合であるが、昭和48年に放射線育種場にガンマ線20kR(200Gy相当)照射を依頼した「トヨニシキ」の乾燥種子100gから長野県農業試験場で照射当代植物を育成し、その種子の中から二つのモチ性変異体を選抜した。種子に放射線照射をすると、その種子胚には細胞単位で変異が起こるが、その細胞核の中でも染色体・遺伝子単位で突然変異が起こるため、変化していない方の遺伝子が表現されてくる。従って通常は照射当代は照射による障害が現れるだけである。しかし、その植物に実った種子は既に次の世代であるために、モチ性などは種子(玄米)で判別が可能なのである。その後、その1系統を選んで、育成を続け、昭和51年からは「信放糯3号」の系統名で、生産力・適応性、その他の試験を開始し、昭和54年、R7世代で長野県の奨励品種に採用され、その玄米と白い餅の美しさから「みゆきもち」と命名された(図1,表1)。


図1 原品種「トヨニシキ」と白い糯米の誘発変異品種「みゆきもち」


表1 Procedures of breeding of the new waxy mutant variety " Miyuki-Mochi " 新糯米品種「ミユキモチ」の育成経過(原論文2より引用)
------------------------------------------------------------------------
 Original var.    " TOYONISHIKI "
 Irradiation      20 kR to 3,800 seeds in May 1973
 M1               2,940 transplanted plants(1,470 transplanted hills)
                  19,698 harvested panicles
                  2 selected panicles
 M2               2 raised strains(panicle-to-row method)
 M3               Preliminary yielding test as strain no. 15-1
 M4, M5, and M6   Yielding test as strain name " Shinho-Mochi No.3 "
 Register         Commercial variety " MIYUKI-MOCHI " in Feb.1979
------------------------------------------------------------------------
 水稲などの品種の登録は、最近では特異性で十分とされているが、当時はいわゆる地方品種でも色々な基礎試験を経て優秀性が実証された後、実際に都道府県が「奨励品種」に取り上げることで成り立ってきた。このような厳しい育成・審査を経て、長野県農業試験場ではさらに酒米「美山錦」、「しらかば錦」、エサ米用多収品種「しなのさきがけ」を育成している。いずれも20kRまたは30kRの照射材料から1500本以上の照射当代植物を育成し、数千本以上の後代から選抜された物である。突然変異法では交配育種と同様あるいはさらに多くの個体を扱う必要があるが、一旦出た変異は安定である(表2)。

表2 長野県農業試験場育成の突然変異法による品種
---------------------------------------------------------------------------------
  品種名      用途・特性       原品種         照射線量
---------------------------------------------------------------------------------
「みゆきもち」    糯米、モチ性      トヨニシキ(ウルチ米) 20kR
「美山錦」      酒米、高心白率・大粒  たかね錦(小粒)    30kR
「しらかば錦」    酒米、高心白率・耐冷性 レイメイ        20kR
「しなのさきがけ」  えさ米、大粒・腹白多  トヨニシキ       20kR
---------------------------------------------------------------------------------


コメント    :
 ウルチとモチは遺伝子1個の違いなので、育種の進んだウルチ品種から突然変異法でワンステップで形質を変えてしまうというちょっとずるいながら、優れた方法であることを実証した好例である。エサ米についてはまだ国内で成熟した分類基準にはなっていないが、信濃地方での先駆けとしての意気込みが感じられる。

原論文1 Data source 1:
水稲新品種「みゆきもち」について
戸田 正行、酒井 忠久、羽田 丈夫、村松 幸夫、堀内 寿郎
長野県農事試験場
長野県農事試験場報告 1984年 7-12頁

原論文2 Data source 2:
The breeding of four new mutant varieties by gamma-rays in rice.
Masayuki Toda
Nagano Agricultural Experiment Station
Gamma Field Symposia No. 21 : 7-17 (1982)

キーワード:イネ、放射線、ガンマ線、突然変異、選抜例、モチ米、酒米、エサ米、品質改善
rice, irradiation, gamma-ray, mutation, selection method, waxy rice, brewing rice, feeding rice, quality improvement
分類コード:020101, 020301, 020501

放射線利用技術データベースのメインページへ