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作成: 1999/02/21 天野 悦夫

データ番号   :020132
実験動物としての魚類
目的      :水圏生物における放射線・環境変異原評価
放射線の種別  :エックス線,ガンマ線,中性子
線量(率)   :10〜1,000Gy
照射条件    :常温・大気圧条件下での水中照射
応用分野    :基礎生物学研究、放射線生物学研究、環境アセスメント、

概要      :
 放射線生物学や環境変異原の研究は一般にはヒトへの影響を目的に検討していることが多い。そのためにはマウスなどの小型ほ乳動物が多用されているが、環境の影響を直接受ける変温脊椎動物である魚類は、このような分野でも実験用動物として大きな意義を持っている。特にメダカなどでは実験動物として生活環が制御できている為に遺伝実験まで研究拡大が可能である。成果としては、放射線感受性等に多少の差は出ているが、循環器系統を備え、消化器系統も研究対象になる一方で、環境の影響を受けやすい生物としての特性は重要である。

詳細説明    :
 メダカは最近では絶滅危惧種に指定されるなど、少なくなりつつあるが、これも環境変化の影響を受けやすいことを示している。幸い金魚を含むこれらの淡水小型魚は、実験室での飼育が容易であり、産卵・仔魚育成などの生活環が人工飼育下で成り立っている。このことから、遺伝実験を含む各種の基礎生物学的な実験・研究が可能であり、水圏という特殊環境に生きる変温動物ながら、一般哺乳動物に対応した循環系、消化器系を備えた実験動物として多くの研究に用いられている。外国ではグッピーなどの小型魚の他に、 Ameca splendence, Umbra limiなども用いられている。
 
 研究の成果としては、キンギョの速中性子線照射とX線照射の感受性の比較(図1)をはじめ、X線照射メダカの生存時間と水温の関係(図3)などの特異な成果が報告されてきている。


図1 キンギョのLD50(30日)による速中性子照射とX線照射の比較(原論文1より引用)

 図1では200kVp X線に比べ、速中性子線ではほぼ1/3強の線量で同程度の効果が示され、生存率についての生物学的効果比(relative biological effectiveness : RBE)が高いことが示されており、マウスなどの一般の実験用小型哺乳動物の場合に良く対応している。これらの実験用小型魚類での研究成果をマウスとラットという広く用いられている小型実験用哺乳動物と比較した場合を図2に示した。


図2 魚類とほ乳類の線量-生存時間関係曲線(原論文1より引用)

 縦軸に照射後の平均生存時間、横軸に線量を取り、生存期間をプロットすると、従来マウスやラットで知られている線量-生存期間曲線に非常によく似た曲線が得られている。このことは、被験動物の死因についても同じ様な機構が内在していることを示唆している。魚類での特異性としては、水中で生活する変温動物ということから、水温の生存期間への影響が当然考えられる。この点の実験結果を図3に示す。


図3 種々の水温におけるメダカの線量-生存時間関係(原論文1より引用)

 図3では生存日数が低温で延長することが示されている。これは死に至る障害の進行速度が、温度に依存することを示しており、実際にこの線量範囲での問題になる器官の組織学的検索からも、このことは支持された。このような実験では特に飼育温度を厳密に管理することが大切である。
 
 温度や水質等の環境に強く依存して生きている魚類は、放射線以外の一般の環境変異原の研究にも用いられている。これは放射線生物学研究で培われた研究成果の延長でもあり、姉妹染色分体交換(sister chromatid exchange: SCE)を含むいろいろな研究方法で検討を進めうることが報告されている(原論文2)。淡水に生活する魚類が環境の影響を受けやすいことは、最近の環境ホルモン(内分泌腺撹乱原因物質)問題でも浮上してきており、実験用動物としての魚類の重要性が示されている。

コメント    :
 環境の影響を直接受ける水圏生物は、植物・動物ともに、環境影響研究には重要な材料である。農作物等に比べれば、研究は多くはないが、環境ホルモンの研究を含めて、分野的にはこれから重要になる分野であろう。

原論文1 Data source 1:
放射線障害試験法
田口 泰子
放射線医学総合研究所
実験動物としての魚類-基礎実験法と毒性試験- ソフトサイエンス社、東京 (1981) pp 525-550

原論文2 Data source 2:
変異原性試験法
江藤 久美
実験動物としての魚類-基礎実験法と毒性試験- ソフトサイエンス社、東京 (1981) pp 471-493

キーワード:メダカ、金魚、淡水魚、魚類、放射線生物学、放射線障害、環境変異原、
Oryzias latipes, goldfish, freshwater fish, fishes, radiation bioloogy, radiation damage, environmental mutagen
分類コード:020502, 020303

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