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作成: 1998/10/29 洞 尚文

データ番号   :020122
イメージングプレートとそのバイオサイエンス(農業)分野への応用
目的      :イメージングプレートとそのバイオサイエンス分野への応用
放射線の種別  :ベータ線
放射線源    :32P, 14C
照射条件    :常温
応用分野    :バイオサイエンス、分子生物学、育種

概要      :
 イメージングプレートは放射線画像センサーである。輝尽性蛍光体と呼ばれる特殊な蛍光体をフィルム上に塗布した形状である。オートラジオグラフィへ応用することで、従来の写真フィルムに比べ数十倍以上の検出感度を得ることができる。また、オートラジオグラフィを実際に植物の研究に利用している例を紹介している。植物の発生時に特異的な遺伝子を見いだすのに、オートラジオグラフィを利用している。

詳細説明    :
1.イメージングプレート
1)イメージングプレート(IP)とは
 イメージングプレートは1983年に医療X線画像診断分野のコンピューテッドラジオグラフィ(computed radiography, CR)システムに初めて用いられた放射線画像センサーである。IPには輝尽発光現象(photo-stimulated luminescence, PSL)を示す特殊な蛍光体がフィルム上に塗布されている。この特殊な蛍光体を、輝尽性蛍光体と呼ぶ。組成式はBaFX:EU2+(X=Cl, Br, I)である。放射線露光されたIPの蛍光体塗布面を精密にレーザで光走査し、放射線量に比例して発生した輝尽発光をデジタル信号化し、目的とする情報処理を行うことで画像を形成する。IPに残存する放射線情報は可視光により消去され、IPは繰り返し使用される。
2)イメージングプレートのメカニズム
 放射線情報の記録メカニズム: 輝尽性蛍光体に放射線を照射すると、電子と正孔が発生する。電子はあらかじめ作られた結晶中のXイオン空孔に捕獲され、Fセンターを形成する。正孔は発光センターである結晶中のEu2+イオンに捕獲されEu3+となる。
 放射線情報の読み出し: Fセンターに吸収される赤い光により、捕獲されていた電子は導帯に解放され、Eu3+に捕獲されていた正孔と再結合し、そのエネルギーにより発光センターのEu2+が励起され、基底状態に戻るときに青い光の輝尽発光を生じる。
3)オートラジオグラフィへの応用
 最大検出感度: オートラジオグラフィのような数日、数カ月にわたる露光を行う場合、試料からの放射線の他に、「フェーディング」、「核種の放射能の減衰」、「環境放射線ノイズ」等の複合した影響が生じる。この為、核種によって限界露光時間や最大検出感度が存在する。環境放射線を防ぐシールドボックス中において、室温での最大検出感度は以下のとおりである。
   RI     限界露光時間     最大検出感度
   32P      4週間      9.8x10-6 (Bq/mm2)
   14C      3カ月      7.7x10-5 (Bq/mm2)
 フェーディング: IPに記録された情報が時間とともに非線形に減少する現象である。
 核種の放射能の減衰と露光時間: 半減期の短い32P等を用いた場合、オートラジオグラフィにおける露光時間は長くても半減期の2倍が限度である。従って高感度のIPが不可欠となる。
 環境放射線ノイズ: 環境放射線ノイズは写真フィルムのカブリとなり、高感度化を妨げてきた。IPは蓄積されたこのノイズを露光直前に光で消去することにより、この問題を解決した。
4)IPを使ったオートラジオグラフィの利点
 IPは写真フィルムと比べ数十から数百倍の感度がある。また、定量精度が高いとか、デジタルデータである事などが利点である。つまり、実験解析期間の大幅な短縮、定量精度の向上、実験動物や放射性廃棄物の低減が可能になった。分子生物学的手法で頻繁に利用されるRIラベルの核酸やタンパクの電気泳動、ブロッティングや野菜や食肉のオートラジオグラフィも可能になる(参考資料1参照)。

2.バイオサイエンス(農業)研究への応用例
 萱野ら(原論文2)は、「ナス」を用い、不定胚誘導条件下に発現する遺伝子の解析を行っている。カルス誘導後の形態的な変化を遺伝子発現の変化と予測し、特異的に発現する遺伝子をクローニングするための手法として、ディファレンシャル・ディスプレイ法(DD法)を用いている。32PラベルのdCTPを用いPCRを行い、その産物を変性PAGE、ゲルを乾燥後、オートラジオグラフィを行い、特異的な遺伝子(バンドとして可視化される)を見つけている。つまりDD法が量的変化の少ない発現遺伝子の解析方法に有効である事を示している。

コメント    :
 IPを使ったオートラジオグラフィは、遺伝子研究の発展に大きく寄与した技術である。しかしその原理の理解や定量精度を上げるために必要な事を理解せずに利用されている人も少なくないと思われる。原理を理解し、更に有効な利用方法を見つけだすことが、バイオサイエンスの発展にも繋がるだろう。
 また、輝尽性蛍光体についても改良や新規組成が発見され、従来、可視化できなかったものを可視化する技術に広がって行くものと思われる。

原論文1 Data source 1:
オートラジオグラフィとラジオグラフィ -イメージングプレートとその応用-
宮原 諄二
富士写真フイルム(株) 106-8620 東京都港区西麻布2-26-30 (当時)
RADIOISOTOPES , 47, 143-154 (1998)

原論文2 Data source 2:
ディファレンシャル・ディスプレイ法による植物の不定胚誘導時に発生する遺伝子の解析
萱野 暁明、樅山 貴浩、田部井 豊、高岩 文雄、西尾 剛
農林水産省農業生物資源研究所 305 茨城県つくば市観音台2-1-2
蛋白質核酸酵素 Vol.41, 721-726 (1996)

参考資料1 Reference 1:
自然放射能の花 イメージングプレートによる測定
森千 鶴夫、小井土 伸吾、鈴木 智博; 宮原 諄二、高橋 健治
名古屋大学 工学部 464-01 名古屋市 千種区 不老町; 富士写真フイルム(株) 258 神奈川県 足柄上郡 開成町 宮台798
RADIOISOTOPES , 44, 433-439 (1995)

キーワード:イメージングプレート、オートラジオグラフィ、放射性同位体、輝尽性発光、バイオサイエンス、ディファレンシャル・ディスプレイ法、バイオテクノロジー、クローニング
Imaging Plate, autoradiography, radioisotope, photo-stimulated luminescence, bioscience, differential display method, biotechnology, cloning
分類コード:020501,020502

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