アクチバブルトレーサー：畜産研究への利用開発と応用

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作成： 1998/10/30 宮本　進データ番号　　　：020118 アクチバブルトレーサー：畜産研究への利用開発と応用目的　　　　　　：アクチバブルトレーサー法の畜産研究分野における利用法の開発とその応用放射線の種別　　：中性子,ガンマ線放射線源　　　　：原子炉フルエンス（率）：熱中性子束密度　1.9×10¹³n/(cm²・sec) (JRR-3M)、 4.0×10¹³n/(cm²・sec) (JRR-4M) 利用施設名　　　：日本原子力研究所東海研究所JRR-3M、日本原子力研究所東海研究所JRR-4M、武蔵工業大学原子力研究所TRIGA-Ⅱ 照射条件　　　　：空気気流中応用分野　　　　：家畜飼育の改善、飼料の有効利用、家畜産業からの廃棄物の低減化概要　　　　　　：　アクチバブルトレーサー法は、家畜における飼料の消化率及びミネラルの出納、飼料の消化管通過速度の測定、土壌摂食量の把握等について、高感度に安全に追跡する手法として開発・利用されている。　応用事例として以下の3例を示した。1)土壌中に多く牧草中にはほとんど存在しないスカンジウム(Sc)を指標とし、肉牛における土壌摂食量を調べた。2)育成牛4頭を供試し従来の全糞採取法とディスプロシウム(Dy)を指標とした部分糞採取法による消化試験の結果、有意な差はなかった。3)イッテルビウム(Yb)で標識した飼料を牛に給与し、飼料の消化管通過速度を測定した。詳細説明　　　　：家畜における土壌摂食量、飼料の利用(消化率、ミネラルの出納、消化管通過速度等)等の解析のための手法として、種々のアクチバブルトレーサー法(後放射化法)が開発・利用されている。実際には、非放射性の元素(ディスプロシウム(Dy)、イッテルビウム(Yb)、スカンジウム(Sc)、サマリウム(Sm)、ランタン(La)等)をトレーサー(追跡子)として利用し、これらで標識した飼料を家畜に給与し、採取した試料(糞が主)中に含まれるトレーサー元素を、高感度・高確度分析法として知られる放射化分析により定量し、対象とする事項の解析を行う。実験的にはラジオアイソトープではなく、通常の元素であるので安全面でも優れた方法である。以下に畜産分野におけるアクチバブルトレーサー法の応用例を示す。 1)放牧牛における土壌摂食量の推定：スカンジウム(Sc)が土壌中に多く、牧草中にほとんど存在せず、家畜の消化管からも消化されずに、しかも放射化分析すると著しく高感度な分析ができる点に着目して、このScを指標とする家畜の土壌摂食量の新しい測定法を検討した。(1)牛糞中に既知量の土壌を段階的に添加した疑似糞土壌を用いて、Scを指標として糞中の土壌含有量が正確に測定できることを明らかにした。(2)Scを指標とするヤギの土壌摂食量が従来のチタン(Ti)を指標とする方法よりも高い精度で測定できることを明らかにした。(3)このSc法を用い放牧牛の土壌摂食量を推定した。推定値は放牧末期で106±120g/日、舎飼末期で129±171g/日であった(表1)。表1　スカンジウム(Sc)を指標とした肉牛の土壌摂食量（原論文1より引用） --------------------------------------------------------------------------------------- 放牧末期（9月）舎飼末期（3月）牧場頭数 ----------------------------------- ----------------------------------- 糞中のSc 糞中土壌土壌摂食量糞中のSc 糞中土壌土壌摂食量 (ppm) 含有率(%) (g/日) (ppm) 含有率(%) (g/日) --------------------------------------------------------------------------------------- 十和田 11 0.60±0.77 4.48±5.72 183±268 0.19±0.08 1.01±0.45 37±17 外山 10 0.43±0.14 2.20±0.72 81±27 0.26±0.09 1.27±0.38 46±14 沼尻 11 0.30±0.10 1.49±0.48 55±18 0.12±0.11 0.58±0.53 21±19 阿武隈 10 0.29±0.06 2.62±0.59 97±23 0.65±0.58 5.91±5.59 240±250 六原 10 0.26±0.07 1.69±0.46 62±17 0.32±0.13 2.07±0.87 76±33 大郷 10 0.31±0.11 4.06±1.19 154±46 0.71±0.24 9.36±3.20 376±143 総平均 62 0.37±0.34 2.76±2.64 106±120 0.37±0.35 3.28±4.02 129±171 --------------------------------------------------------------------------------------- 2)牛における飼料の消化率およびミネラルの出納の測定：育成牛4頭を供試し、全糞採取法とディスプロシウム(Dy)をイナートマーカーとした部分糞採取法による消化試験を実施し比較した。大麦ホールクロップサイレージ12㎏(朝夕6㎏給与)と共にイナートマーカーとしてDy2O3 200㎎添加配合飼料1.4㎏を給与し、7日間予備飼育後にA牛C牛は5日間全糞採取、B牛D牛は最初3日間は8時間毎に1日3回の部分糞を、後の2日間は4時間毎に1日6回の部分糞を採取した。消化試験における全糞採取法とイナートマーカーを用いた部分採取法の比較の結果(表2)、部分糞採取法で求めた飼料の乾物消化率は全糞採取法による乾物消化率と有意な差がなかった。また、Dyをイナートマーカーとしたミネラルの出納についても、測定が可能であった。表2　ディスプロシウム(Dy)をイナートマーカーとした消化試験結果-飼料の乾物消化率の比較-（原論文2より引用） ----------------------------------- 全糞採取による乾物消化率(%) ----------------------------------- A牛 61.6±2.24 CV.3.6 C牛 59.7±1.55 CV.2.6 ----------------------------------- 全糞中Dy濃度による乾物消化率(%) ----------------------------------- A牛 59.6±2.24 CV.3.8 C牛 58.5±2.17 CV.3.7 ----------------------------------- 部分糞Dy濃度による乾物消化率(%) ----------------------------------- (1)6回/日 2日間採取 B牛 59.2±4.52 CV.7.6 D牛 58.9±2.97 CV.5.0 (2)3回/日 3日間採取 B牛 58.9±6.13 CV.10.5 D牛 59.9±3.12 CV.5.2 ----------------------------------- 3)家畜における飼料の消化管通過速度の測定：飼料の消化管通過速度の指標物質として希土類元素の利用がなされており、測定は主に原子吸光法や発光分析法で行われている。しかしながら、これらの方法は破壊的分析法であり分析試料の調製が煩雑であるとともに、分析する元素の損失や混入が避けられない。それに対し、放射化分析法は非破壊的分析法である上、複数の元素を同時に測定できることから、飼料の消化管通過速度の測定には有用であると考えられる。浸漬法によりイッテルビウム(0.5g)で標識した乾草を含む飼料を牛3頭(平均体重195㎏)に給与して経時的に糞を採取した。糞試料を乾燥・粉砕後、元素量を放射化分析法で測定し、その濃度から通過速度パラメータが求められた。コメント　　　　：畜産分野におけるアクチバブルトレーサー法は、家畜における土壌の摂食量の推定、飼料の消化率の測定ならびに飼料中のミネラルの消化管内における吸収・排泄動態の解析、飼料の消化管通過速度の測定等、広範囲にわたり利用価値がある。トレーサーの分析については、非破壊分析が可能であること、また、同時多元素定量が可能であることの長所を備えている放射化分析が最も適すると思われる。しかし、放射化分析を実施するためには、原子炉を備えた施設で照射し、特殊な機器を用い測定することが必要であり、さらに普及を高めるためには、測定技術の指導をも含む支援体制の整備、あるいは安価に依頼分析が可能であること等が望まれる。実際面では、これらの理由により試料を酸等で分解し、高周波プラズマ発光分析法等で測定することも行われている。原論文１ Data source 1：スカンジウム(Sc)を指標とする放牧牛の土壌摂食量の推定小山　雄生、宮本　進、須藤　まどか、菊池　武昭、高橋　政義、久馬　忠農林水産省　畜産試験場　東北農業試験場畜産研究成果情報1,37-38(1988) 原論文２ Data source 2：アクチバブルトレーサー利用による新飼料の評価と肉用牛のミネラル代謝異常の解析久馬　忠、米内　美晴、高橋　政義、田中　彰治農林水産省　東北農業試験場国立機関原子力試験研究成果報告書,第27集,106-1～4(1988) 参考資料１ Reference 1：アクチバブルトレーサー利用による新飼料の評価と肉用牛のミネラル代謝異常の解析(希土類元素による飼料ミネラルのウシ消化管における吸収・動態の解析) 久馬　忠、米内　美晴、高橋　政義、田中　彰治農林水産省　東北農業試験場国立機関原子力試験研究成果報告書,第26集,104-1～3(1986) 参考資料２ Reference 2：消化管通過速度測定に用いる希土類元素の放射化分析と通過速度の測定西口　靖彦、佐藤　博、須藤　まどか、宮本　進、西田　武弘農林水産省　畜産試験場日本畜産学会報,67,787-793(1996) キーワード：アクチバブルトレーサー、スカンジウム、ディスプロシウム、イッテルビウム、家畜、非破壊放射化分析、飼料、ミネラル出納、消化率、消化管通過速度 activable tracer,scandium,dysprosium,ytterbium,farm animal,non-destrnctive neutron activation analysis,feed,mineral balance,digestibility,passage rates 分類コード：020303,020301,040404
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