生体機能を利用する金属の回収 -ミネラルバイオプロセッシング-

放射線利用技術データベースのメインページへ
作成： 1999/01/11 坂口　孝司データ番号　　　：020115 生体機能を利用する金属の回収 -ミネラルバイオプロセッシング- 目的　　　　　　：微生物の生体機能を利用する金属の回収概要　　　　　　：最近、世界各国で、有用金属の回収、先端産業で使用されるレアメタルのリサイクル利用化、環境汚染制御などに、生物が持っている優れた機能を利用しようとする新しい技術がバイオインダストリ-の新しい分野として注目されている。これらのミネラルバイオプロセッシングに関する研究の実状を紹介する。詳細説明　　　　：生体機能を利用する金属の回収 -ミネラルバイオプロセッシング- 1.ミネラルバイオプロセッシング最近、鉱物資源の高度利用化を図るため、採鉱、抽出、精錬などの工程に、また、超電導、半導体、原子力、宇宙工学などの先端産業で使用される種々のレアメタルのリサイクル利用化に、生物が持っている優れた機能を利用しようとする機運が高まり、これらミネラルバイオプロセッシングの技術が世界各国で注目を集めるようになってきた。また一方、われわれの生活が高度化するにつれて、種々の有害物質による環境の汚染は地球上の生態系に大きな変化をもたらしている。これら環境汚染の制御にバイオプロセッシングの手法を使おうとする新しい試みが台頭してきた。 2.ミネラルバイオプロセッシングの応用例種々の鉱物の製造処理工程や、金属の湿式冶金、未利用金属資源の回収、また一方、鉱工業で排出される廃水、鉱山水の処理に、微生物や藻類などの生物体、または生物が産出する細胞外物質(多糖、有機酸など)を利用しようとするバイオプロセッシングの手法が、バイオインダストリ-の新しい技術として広く利用されている。生体機能を利用する湿式冶金法(Biohydrometallurgy)には、微生物を利用する金属の溶出(Bioleaching)や、鉱石から目的成分を抽出するとき、その抽出操作に妨害を与える物質を微生物で分解除去することなどが含まれる。現在までに実用化された、または近く実用化されようとしているミネラルバイオプロセッシングの応用例をいくつか挙げてみよう。 ①微生物を利用する鉱石からの金属の溶出(バイオリ-チング) ─硫化物鉱からの銅、ウランなどの有用金属の溶出など─ ②難溶性金鉱石の生物酸化 ③生物を利用する未利用金属資源の回収 ─生体機能を利用する水圏中ウラン回収など─ ④生物法によるスクラップ金属からの有用物質(レアメタルなど)のリサイクル利用化 ⑤生物を利用する有害重金属の回収除去 ⑥頁岩からのケロセンの回収　 ⑦石油の微生物脱硫 ⑧鉱工業廃水、鉱山水の微生物による浄化処理 ⑨シアン化物などの有害物質の生物による分解除去 3.核燃料物質のバイオプロセッシングウランの採鉱、抽出、精錬、同位体濃縮、燃料製造成型加工から原子炉での燃焼、使用済み燃料の再利用に及ぶ一連の核燃料サイクル過程には、ウランやプルトニウムの分離回収が必要となる。これらの分離回収法としては、現在、溶媒抽出法、イオン交換法、沈殿法、などの手法が開発利用されている。坂口らは、微生物や生体系物質を利用する核燃料物質の回収資源化、放射性核種の除染処理について、生化学、錯体化学、生態学、資源工学、生物工学などの学際的観点から総合的解析を試みているが、その研究過程で、生物が核燃料物質に対して強い親和性を示すことを見出した。微生物のなかには、Bacillus subtilis, Micrococcus luteus, Zooglea ramigera などの細菌、Streptomyces levoris, S. viridochromogenes, S. olivaceusなどのように、大量のウランを自分の体内に濃縮する能力をもつものが存在する。坂口らが、北米、オ-ストラリアのウラン鉱床で発見したBacillus属、Arthrobacter属の細菌は、菌体1 g当たり600 mgにも及ぶ多量のウランを濃縮することができ、そのウラン濃縮容量(5 mgEq / g)は実に市販キレ-ト樹脂の2倍にも達する。また、これらの微生物のウラン取り込みは、速度がきわめて速く(1～2分程度)、しかも他の重金属イオンが溶液中に共存していても、より選択的にウランを取り込むことができるという特徴を示す。これらの微生物は、ウランだけでなくトリウムもよく濃縮するが、pH 3.5の条件では、ウランよりもトリウムに対して高い選択濃縮能を示す。これらの高性能ウラン濃縮菌は、生菌体そのものだけでなく、ポリアクリルアミドゲルに包括固定化した菌体でもウランに対し強い親和性を示す。この固定化菌体は、固液接触性、安定性などの点で生菌体よりも優れており、ウラン精錬廃水などの含核燃料物質廃水の処理に適用できる（図１）。 Bacillus.subtilis、Arthrobacter sp.などの微生物は、また、プルトニウムに対しても強い親和性を示す。これらの微生物は、pH 4～8の領域で最もよくウランを取り込むが、0～3の酸性溶液からは全く取り込むことができない。しかし、これらの微生物は、pH 0～1.5の強酸性溶液からもⅣ価プルトニウムをよく濃縮することができる。とりわけpH 1.5の溶液からは、ほぼ定量的にプルトニウムを体内に取り込む。一方、これらの微生物は、Ⅳ価プルトニウムをⅤ価プルトニウムに還元する能力をもっている。Ⅴ価に還元されたプルトニウムは不均化反応によりⅣ価とⅥ価に変わるが、微生物はⅣ価プルトニウムを最も高い濃縮率で体内によく取り込む。しかし、Ⅵ価およびⅢ価のプルトニウムは少量しか取り込むことができない。以上のように、Bacillus などの微生物のウラン、トリウム、プルトニウムのアクチノイド元素に対する挙動は、元素の種類の違いによって異なっている。ウランは、通常、Ⅲ、Ⅳ、Ⅴ、Ⅵの酸化数をとるが、Ⅵ価が最も安定で、次いでⅣ価が安定である。最近、水に可溶態のⅥ価ウランを水に不溶態のⅣ価ウランに還元する微生物が、Lovleyらによって発見された。廃水中に溶存しているⅥ価ウランをこれらの還元菌を使ってⅣ価ウランに還元し、黒色のuraniniteとして沈殿除去する方法が、新しいバイオレメディエ-ションの手法として注目されている。一方、鉱石からのウランのバイオリ-チングに利用されているThiobacillus ferroxidansなどの微生物は、水に不溶態のⅣ価ウランを、可溶態Ⅵ価ウランに酸化する能力をもっている。以上のように、微生物のなかには、アクチノイド元素に対する濃縮能、酸化能、還元能などの優れた生体機能を持ったものが存在する。この生体機能を利用すれば、ウラン、トリウム、プルトニウムなどのアクチノイドの分離回収、廃水処理などの過程に利用する新しいバイオシステムが構築できるのではないかと期待される。図1　ウランとプルトニウムに対する微生物の挙動（原論文1より引用）原論文１ Data source 1：ウラン、プルトニウムを濃縮する微生物坂口　孝司東和大学工学部化学と生物、３５巻、１１号、p.752-754 (1997). キーワード：金属の回収、ミネラルバイオプロセッシング、ウラン、生体濃縮、プルトニウム、トリウム、ウラン濃縮微生物、微生物の還元能、金属回収バイオシステム collection of metal, mineral-bioprocessing, Uranium, bio-concentration, Plutonium, Thorium, Uranium concentrating microorganismus, reductive ability of microorganismus, biological metal collection systems 分類コード：010504
放射線利用技術データベースのメインページへ