放射線利用技術データベースのメインページへ

作成: 1998/10/26 泰松 明子

データ番号   :020112
乾燥食品(香辛料種実、穀粒など)に付着するカビ類の放射線殺菌効果
目的      :乾燥食品に付着するカビ類のγ線殺菌
放射線の種別  :ガンマ線
放射線源    :60Co、ガンマ線
線量(率)   :1-10kGy,0-13kGy(6.15kGy/hr),0.5-3.5kGy(0.040kGy/min)
照射条件    :大気雰囲気、室温
応用分野    :食品照射、食品衛生

概要      :
保存期間の延長を目的として、乾燥食品(小麦、とうもろこし、大豆、香辛料、ヤシ中果皮)に付着するカビ類をガンマ線によって殺菌する。品目毎に付着する菌数及び菌種が異なるため、殺菌線量に差が生じるが、約5kGy程度の線量を照射することによってカビ類の殺菌が可能であった。また、この線量条件下では化学的な成分変化は認められなかった。

詳細説明    :
食品の保存期間を延長するためには、保存中の湿度を低く保つことなども重要な因子であるが、13-14%の湿度を保っていてもカビの種類(Aspergillus and Penicillium)によっては増殖する可能性があると報告されている。そこで、γ線によって殺菌処理を行い、乾燥食品の保存期間を延長することが試みられている。γ線による処理効果として、乾燥食品の大豆、とうもろこし及び小麦ではそれぞれ、2.5kGy、5kGy及び10kGyの線量を照射することによって、カビ類の発育は計測されなかった。付着菌のγ線感受性を比較検討したところ、上記の3種類中、小麦の菌種が最も低く、また、栽培中と貯蔵中の付着菌では、栽培中の菌種の方が低かった。殺菌線量は、初期菌数、菌のγ線感受性及び菌数コントロ-ルの目標値によって決定されるので、品目毎に差が生じてくるが、大豆、トウモロコシ、小麦ではほとんどのカビ類の殺菌が、5kGyの線量で可能であったと報告されている。

表1 Counts of Surived Fungi and Yeast in Spices After the Irradiation (Counts/G Spice)(原論文2より引用)
-------------------------------------------------
  Irrad.Dose    0     1     2     4     7    10
Spices
-------------------------------------------------
Cardamon        14    20     0     0     0   −
Celery         326   680   140     0     0    0
Cinnamon       106     0     0     0     0   −
Clove            0     0     0     0    −   −
Coriander     3340  1086    74     6     0    0
Cumin           66    34     6     6     0   −
Fennel         220   126   194    34     0   −
Fenugreek      214    86    60    60     0   −
Mace             6    −     0     0     0   −
Oregano          0    14     0     0    −   −
Paprika        100   132    80    26     0    0
Red pepper      60     6     0     0    −   −
White pepper  1160  1020    26     0     0    0
Sage             0     0     0     0    −   −
Thyme          274   134     6     0    −   −
-------------------------------------------------
他の乾燥食品の例として、15種類の輸入香辛料の結果を表1に示す。品目によって初期菌数に差が見られ、多いものでは103/gであった。カビ類に対するγ線処理効果としては、4kGyの線量によってほぼ、7kGyによって完全に殺菌されている。一方、この図には示されていないが、細菌についても調べられており、細菌数は多いものでは106/gであった。細菌を対象とした場合の殺菌線量は、4kGyから13kGyとなる。一般に、細菌の方がカビ類よりもγ線感受性は低く、放射線感受性を示す指標であるD値(菌数を1桁下げるのに必要な線量)も大きい。香辛料の細菌のD値は0.3kGyから4.3kGyであった。香辛料は、諸外国で最も照射処理が実用化されている品目である。この理由として、含有成分が熱により変性しやすいこと、加工食品の原料として広く用いられるため、香辛料の微生物汚染が食品を腐らせる原因となることなどが挙げられる。さらに、他の品目として、ヤシ油も液体状態ではγ線照射に適さないという報告結果があるが、乾燥したヤシ中果皮でのγ線処理が実験検討されている。その結果、未処理の熟した果物の場合、保存期間は平均3日であるのに対し、乾燥したヤシ中果皮に1kGyの線量を照射すると、カビ類が減少し、少なくとも2ヶ月間保存できると報告されている。この場合の具体的な菌数は、未照射では40000/g、1kGyの処理を行ったものでは2ヶ月後において7000/gであった。照射前後の重量変化を測定したところ、それらの変化は見られないが、抽出物のOD(458nm)は、貯蔵期間(〜8週)と線量(〜3.5kGy)の増加に伴い減少した。この傾向は6週目と1kGyの線量を境に見られる。この理由として、光の存在下では脂肪中のカロチノイド含量に何等かの影響があるのではないかと述べられており、この対策として、光を通さない容器の使用などが提案されている。また、食品の劣化を示す尺度の一つである不飽和脂肪酸と脂肪酸の差は、未照射、照射物(1.0kGy)を比較した場合、ほとんど見られず、測定したスペクトルもすべて同じ形であったと述べられている。また、モニタ-による食味に与える影響も調べられているが、生、乾燥及び照射物との間に有意差は認められなかった。つまり、現在、研究で用いられている分析手法では、食味変化及び著しい化学変化は認められず、γ線照射は保存期間を延長するための有益な方法であると結ばれている。

コメント    :
照射物の化学的な成分変化は、慎重に検討すべき事項であるが、有機化合物の分解には水から発生するラジカルの間接効果による影響が大きいため、乾燥食品を対象とするならば、比較的問題が少ないと考えられる。

原論文1 Data source 1:
Effect of gamma irradiation on field and storage fungi of wheat, maize and soybean.
Amal Badshah*, C.F.Klopfenstein**, R.Burroughs** and A.Sattar**
*Nuclear Institute for Food and Agriculture, Tarnab Peshawar, Pakistan, **Department of Grain Science and Industry Shellenberger Hall, kansas State University, Manhattan KS.66506 USA
Chemie Mikrobiologie Technologie der Lebensmittel, 14, 1/2, 57-61(1992)

原論文2 Data source 2:
Reduction of microbial population in spices by gamma-irradiation.
Toshio Sugimoto, Toru Hayashi, Koji Kawashima and Shohei Aoki
食品総合研究所
食品総合研究所研究報告, 48, 82-85(1986)

原論文3 Data source 3:
Preservation of oil palm fruit and oil palm fruit mesocarp by gamma irradiation
Etor E.K. Takyi
Ghana Atomic Energy Commission, PO Box80, Legon, Ghana
Journal of the Science of Food and Agriculture, 32(9), 941-947(1981)

キーワード:乾燥食品、保存期間、貯蔵、放射線殺菌、放射線感受性, γ線, カビ, 真菌, 放射線照射, 水分量
dry food, shelf-life, storage, radiation sterilization, radiation sensitivity, gamma-ray, mold, fungi, irradiation, moisture content
分類コード:020403,010409

放射線利用技術データベースのメインページへ