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作成: 1998/08/25 林 徹

データ番号   :020099
電気インピーダンス測定による照射馬鈴薯の検知
目的      :放射線照射した馬鈴薯の識別
放射線の種別  :ガンマ線
放射線源    :60Co線源
線量(率)   :0-200Gy
利用施設名   :食品総合研究所ガンマセル
照射条件    :室温、大気中
応用分野    :食品照射、食品流通

概要      :
馬鈴薯に針状のステンレススチール製の電極を2本挿入して、5kHzと50kHzにおける電気インピーダンスを測定することにより、馬鈴薯の品種や産地にかかわらず、照射馬鈴薯と非照射馬鈴薯とを識別することができた。また本法により、市販の照射馬鈴薯も判別できた。

詳細説明    :
馬鈴薯の低周波領域における電気インピーダンスはガンマ線照射により増加するが、高周波領域における電気インピーダンスは照射の影響を受けなかった。低周波(5kHz)におけるインピーダンスの値と比較して、低周波(5kHz)と高周波(50kHz)のインピーダンスの比の方が、同じ線量のガンマ線を照射した馬鈴薯におけるデータのバラツキが小さかった。また、このインピーダンスの比は線量が大きくなるのに伴い大きくなった。このことを利用すると、低周波(5kHz)と高周波(50kHz)における電気インピーダンスの比(Z5k/Z50k)を指標とすることにより、照射馬鈴薯の検知が可能になる。この電気インピーダンスの比は、電流値や電極の材質、形状、サイズの影響は受けなかったが、馬鈴薯の温度の影響を受けた。図1に示すように、照射馬鈴薯の検知に最も適した温度は20-25℃であった。さらに、正確な測定を行うためには、電気測定を行う2-3日前から馬鈴薯を測定温度で貯蔵して馬鈴薯の生理を整える必要があった。


図1 Z5k/Z50k measured at various temperatures(原論文1より引用)

馬鈴薯の部位もインピーダンスに影響を及ぼし、底部や中間部と比べて、先端部における電気インピーダンスの比が最もバラツキが小さく、照射試料と非照射試料の差が大きかった。このような傾向は品種の影響は受けずにすべての品種で認められ、電極挿入位置としては先端部が最適であることが明らかになった。男爵、出島、ベニマル、ホッカイコガネ、メークイーン、トヨシロ、エゾアカリ、キタアカリ、農林1号、ワセシロの各品種の馬鈴薯に対して、非照射馬鈴薯と100Gy照射した馬鈴薯のインピーダンス比を測定したところ、いずれの品種においても非照射馬鈴薯と照射馬鈴薯の間に違いが認められた。ただし、品種が異なればインピーダンス比の値は異なった値を示した。図2に示すように、インピーダンス比は同一品種であれば産地の影響をほとんど受けなかった。すなわち、インピーダンス比を指標とすることにより、産地が不明であっても品種が既知の場合には、非照射馬鈴薯と照射馬鈴薯の識別が可能であった。


図2 Impedance ratios of potatoes of cv.Dejima at different planting localities(原論文2より引用)

照射馬鈴薯、非照射馬鈴薯のいずれにおいても、インピーダンス比は長期間貯蔵しても変化しなかった。またインピーダンス比は貯蔵温度の影響を受けることもなかった。
士幌町農業協同組合の馬鈴薯照射施設でガンマ線照射されて市販されている馬鈴薯(男爵)及び非照射の馬鈴薯(男爵)のインピーダンス比を求めたところ、図3のようになり、照射した日時にかかわらず、市販の照射馬鈴薯と非照射馬鈴薯とを識別することができた。ただし、非照射馬鈴薯と照射馬鈴薯の間で、一部インピーダンス比の重なりが認められた。


図3 Impedance ratios of the potatoes commercially irradiated at Shihoro Potato Irradiation Center(原論文2より引用)



コメント    :
照射馬鈴薯のインピーダンス比と非照射馬鈴薯のインピーダンス比が完全に分かれているわけではないので、本法は、実用的には箱あるいは袋について照射、非照射の判別が可能になる技術である。

原論文1 Data source 1:
Impedance Measuring Technique for Identifying Irradiated Potatoes
T.Hayashi, S.Todoriki, K.Otobe and J.Sugiyama
農林水産省食品総合研究所、茨城県つくば市観音台2-1-2
Bioscience, Biotechnology and Biochemistry, 56(12), 1929-1932 (1992)

原論文2 Data source 2:
Applicability of Impedance Measuring Method to the Detection of Irradiation Treatment of Potatoes
T.Hayashi, S.Todoriki, K.Otobe and J.Sugiyama
農林水産省食品総合研究所、茨城県つくば市観音台2-1-2
日本食品工業学会誌, 40(5), 378-384 (1993)

原論文3 Data source 3:
Identification of Irradiated potatoes by Impedance Measurements
T.Hayashi, M.Iwamoto and K.Kawashima
農林水産省食品総合研究所、茨城県つくば市観音台2-1-2
Agricultural and Biological Chemistry, 46(4), 905-912 (1982)

参考資料1 Reference 1:
Impedance Measurement of Irradiated Potatoes
T.Hayashi and K.Kawashima
農林水産省食品総合研究所、茨城県つくば市観音台2-1-2
日本食品工業学会誌, 30(1), 51-54 (1983)

キーワード:馬鈴薯、検知、インピーダンス、ガンマ線、照射馬鈴薯、じゃがいも
potato, detection, impedance, gamma-ray, irradiated potato, potato
分類コード:020404, 020403

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