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作成: 2000/01/12 古田 雅一

データ番号   :020097
変換エックス線に対するBacillus属細菌芽胞の感受性
目的      :変換エックス線の殺菌効果のガンマ線との比較
放射線の種別  :ガンマ線,電子
放射線源    :ダイナミトロン電子加速器(3MeV,1mA)、60Co線源(5920TBq)
線量(率)   :1-10kGy, 226kGy/h
利用施設名   :日本原子力研究所高崎研究所ガンマ線照射施設2号加速器
照射条件    :空気中
応用分野    :放射線滅菌、食品照射

概要      :
 放射線滅菌の指標菌4種のBacillus属芽胞をそれぞれを含む生物インジケータを作成し、変換エックス線に対する殺菌効果をγ線や電子線と比較した。その結果、各種放射線に対する芽胞の感受性に顕著な差は認められなかったが、生物インジケータにガラス濾紙を使用した場合、添加物による保護効果がみられた。セルロース濾紙を用いた場合、B. megateriumとB. brevisの場合にのみ保護効果が見られた。

詳細説明    :
 
 近年,食品照射や医療用具の滅菌に電子加速器を利用しようという動きが世界各国で活発となってきている。しかし電子線はガンマ線と比べて透過力が著しく低いため厚い梱包物の滅菌は困難である。電子線がタングステンまたはタンタルなどの重金属に照射されるとエックス線に変換してガンマ線源と同じように利用できることが知られており、すでに実用化も始まっている。変換エックス線を滅菌に用いる場合、微生物に対する殺菌効果がガンマ線や電子線と同等であることを確認しておく必要があるが、これに関する研究報告はまだまだ少ないのが現状である。ここでは日本原子力研究所高崎研究所で行われた研究成果を紹介する。 
 
 本研究においては放射線滅菌の指標菌として広く用いられているBacillus pumilus E601をはじめ、60Coガンマ線や電子線による放射線感受性の研究がすでに行われているB. subtiIis IAM1069, B. megaterium S31,B. brevis S5などBacillus属芽胞を用いて生物インジケータを作成し、変換エックス線に対する感受性をガンマ線や電子線と比較するとともに,担体及び共存物の影響について検討し,変換エックス線滅菌の実用性について考察した。
 
 変換エックス線照射には,高崎研究所所有のRDI社製カスケード型ダイナミトロン電子加速器に0.5mmのタングステン板を設置し,3MeV,20mAで変換して得られるエックス線を用いた。電子線及び変換エックス線の線量測定はCTA(三酢酸セルロース)フィルム線量計を用い、ガンマ線の測定にははFricke鉄線量計を用いた。なお変換X線の場合は,散乱する電子を遮蔽するために1cm厚のアクリル板で覆った。またエックス線のCTAによる線量測定は,幅広い線量率分布を持つため真空下で行った。


図1 Comparative sensitivities of B. pumilus spores dried on glass fiber filter with non additives to gamma-rays, electron beams and X-rays (◇)gamma-rays (◆)electron beams (○) X-rays(原論文1より引用)

 ガラス繊維濾紙にB. pumi1us芽胞を添加し、乾燥させた生物インジケータを照射した場合、図 1に示すようにガンマ線,電子線,変換エックス線での感受性の差はほどんど認められなかった。電子線では,生残曲線は小さな肩を有するシグモイド型となった。


図2 Comparative sensitivities of B. megaterium spores dried on glass fiber filter with non additives to gamma-rays, electron beams and X-rays (◇)gamma-rays (◆)electron beams (○) X-rays(原論文1より引用)

 B. megaterium芽胞の場合は図 2に示すように大きな肩を有するシグモイド型の生残曲線を示した。D値はγ線で1.9kGy、電子線と変換エックス線で2.0kGyとなり各種放射線による差はほとんど認められなかった。B. subtilisやB. brevis芽胞の場合も類似した感受性を示していた。
 
 生物インジケータの作成時にペプトンとグリセリン(いずれも2%)を含む芽胞液をガラス繊維濾紙に添加した場合、ガンマ線,電子線,エックス線ともに供試した芽胞すべてのD値が大きくなり添加物の影響が認められた。中でも電子線の効果は一番顕著で変換X線はガンマ線と電子線の中間型か電子線に近い型となった。B. pumilusとB. subti1is芽胞に関してはガラス繊維濾紙の代わりにセルロース濾紙を用いた場合には上記の添加物効果はほとんど認められなかった(表1)。

表1 D values on B. pumilus and B. subtilis at different condition of test pieces(原論文1より引用)
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               dry condition                      B.pumilus  B.subtilis
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        glass fiber filter with non additives        1.5        1.4
γ-rays glass fiber filter with pepton + glycerin    1.9        1.8
        cellulose filter with pepton + glycerin      1.6        1.5
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        glass fiber filter with non additives        1.6        1.5
  EB    glass fiber filter with pepton + glycerin    2.1        2.0
        cellulose filter with pepton + glycerin      1.7        1.6
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        glass fiber filter with non additives        1.6        1.5
X-rays  glass fiber filter with pepton + glycerin    2.1        2.0
        cellulose filter with pepton + glycerin      1.7        1.6
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 一方、B. megateriumとB. brevisの場合にはセルロース濾紙の場合もガラス繊維濾紙と同様に放射線抵抗性は高まった。特にB. megaterium芽胞の場合は,電子線の低線量照射領域に観察される生残曲線の肩が著しく大きくなることが特徴であった。
以上の結果から、変換エックス線での滅菌に必要な規格基準は,電子線と同等であることが示唆されるが、変換エックス線の照射野における線量率は電子線と同じような高線量率からガンマ線に近い低線量率までが混在していると考えられるため,このような条件に適した照射技術が必要であると思われる。

コメント    :
詳細説明にも示されているとおり、Bacillus属細菌芽胞に対する変換エックス線の滅菌効果は既存の放射線と大きくはかけ離れていないと思われる。しかしながら、このような検討はまだまだ少なく、詳細説明において指摘されているように変換エックス線に適したルーチン線量計や測定技術の開発を行った上で各種の汚染菌に対するデータの蓄積がさらに必要であろう。 

原論文1 Data source 1:
乾燥Baci11us属細菌芽胞のγ線,電子線,変換X線に対する感受性の比較
大木 由美、伊藤 均、渡辺 祐平、須永 博美、石垣 功
日本原子力研究所高崎研究所
食品照射25巻第1,2号、71-74(1990)

原論文2 Data source 2:
STERILIZATION OF BACILLUS SPORES BY CONVERTED X RAYS
Hitoshi ITO, Yumi OHKI, Yuhei WATANABE, Hiromi SUNAGA and Isao ISHIGAKI
Takasaki Radiation Chemistry Research Establishment Japan Atomic Energy Research Institute
Radiat. Phys, Chem. 42, Nos 4-6, pp. 597-600, 1993

キーワード:殺菌、変換X線、電子線、放射線感受性,線量率効果
Sterilization, converted X-ray, electron beam, radiation sensitivity, dose rate effect
分類コード:020403

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