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作成: 1998/09/23 小山 重郎

データ番号   :020088
不妊虫放飼法による中米のラセンウジバエ根絶防除
目的      :中米のラセンウジバエを不妊虫放飼法により根絶防除する
放射線の種別  :ガンマ線
放射線源    :137Cs線源
線量(率)   :75Gy
利用施設名   :メキシコのラセンウジバエ不妊虫生産施設
照射条件    :空気中、室温
応用分野    :不妊虫放飼法、害虫防除

概要      :
不妊虫放飼法は害虫を大量増殖し、放射線を照射して不妊化したのち、野外に放飼して野生虫と交尾させ、その子孫を絶やす方法である。ラセンウジバエは牛や馬の傷口に卵を産み、幼虫がその肉を食う害虫であり、中米に分布し畜産業の重大な障害となるとともに、米国南西部の侵入源となっていたが、これを不妊虫放飼法によって根絶する事業がメキシコで成功し、ひきつづき中米で進められている。

詳細説明    :
ラセンウジバエCochliomyia hominivoraxは、牛や馬などの家畜の傷に卵を産み、これから孵った幼虫が家畜の肉に食い込んで、家畜を弱らせたり、殺したりする害虫で、中米に古くから分布していた。この害虫がメキシコ国境を越えて米国に侵入し、畜産業に対して大きい損害を与えたため、Knipling(1995)はこれを不妊虫放飼法によって根絶することを提案し、これを南米ベネズエラ沖のキュラソー島で実証した(Baumhover et al.,1955)。不妊虫放飼法とは、害虫を大量増殖し、放射線を照射して不妊化したのち、野外に放飼して野生虫と交尾させ、その子孫を絶やす方法である。
米国ではこの方法で、フロリダ州とテキサス州など南西部でラセンウジバエの根絶に成功したが、メキシコから絶えず侵入するこのハエの源を断ち、メキシコでの家畜の被害を無くすために、1972年にメキシコと米国の共同根絶事業が発足した。この事業では、まずメキシコのテアンテペク地峡までの根絶を目的とした。そのため、熱帯地方でも不妊虫放飼法によってラセンウジバエが根絶できるかどうか、不妊虫の長距離輸送が可能かどうかについての試験が、プエルトリコの島で1971年に行われ、成功した。また、1976年にはメキシコ南部のツクストラグチエレスに週産6億頭のラセンウジバエ不妊虫生産施設が完成した。
その後、メキシコ国内の根絶事業は順調に進み、1984年にはメキシコのテアンテペク地峡までの根絶に成功し、ここに南からのハエの侵入を防ぐための緩衝地帯をもうけ、不妊虫の放飼と家畜の移動検疫を行った(図1)。 


図1 Chronological summary of the NWS eradication and future plans in the Americas.(原論文3より引用。  Reproduced from Data source 3 with kind permission from the Food and Agriculture Organization of the United Nations.)

メキシコは1991年にラセンウジバエの根絶宣言を行ったが、1992年に再び発生が認められ、その被害はメキシコ南部3州に急速に広がった。そのため、メキシコの発生地では緊急防除が行われるとともに、中米において、ひきつずき不妊虫放飼事業が進められることになった(図1)。
そのため1992年から、メキシコの不妊虫生産施設では週に3億頭の不妊虫を生産し、メキシコの発生地とグアテマラ、ベリーズ、ホンジュラス、エルサルバドルで放飼を行っている。また、この施設では、はじめメキシコ国内のラセンウジバエを親とする飼育系統が飼育されていたが、放飼対象地域が南に移るにしたがって、1987年にはベリーズ、1988年にはグアテマラ、1991年にはコスタリカで、それぞれ採集されたハエを親とする新系統が導入され、放飼地域の野生虫と良く交尾するように図られている。

コメント    :
畜産害虫のラセンウジバエが不妊虫放飼法によって米国で根絶されたことは画期的なことであるが、その侵入源として、メキシコ以南の中米に分布するラセンウジバエにまで、根絶事業を拡大することによって、米国のみならず、中米のラセンウジバエ問題を根本的に解決しようとする試みは特筆すべきものである。もし、パナマ地峡までの根絶が成功すれば、この狭い地域で緩衝地帯を維持し、南米からのハエの侵入を防ぐための不妊虫放飼の費用は、米国と全中米のラセンウジバエの損害額を償って余りあるものとなるであろう。

原論文1 Data source 1:
Possibility of insect control or eradication through the use of sexually sterile males
Knipling,E.F.
Entomology Researach Branch,Agr.Res.Serv.,U.S.D.A.
Jour.Econ.Ent.48(4):459-462(1955)

原論文2 Data source 2:
Screrw-worm control through release of sterilized flies
Baumhover,A.H.,Graham,A.J.,Bitter,B.A.*,Hopkins,D.E.,New,W.D.,Dudley,F.H. and Bushland,R.C.
Emtomology Research Branch,Agr.Res.Serv.,U.S.D.A.,*Veterinary Service,Government of Netherlands Antilles.
Jour.Econ.Ent.48(4):462-466(1955)

原論文3 Data source 3:
The New World Screwworm Erradication Programme, North Africa 1988-1992
Gillman,H.,Cunningham,E.P. and Sidahmed,A.E.*
FAO Animal Production and Health Division,*FAO Screwworm Emergency Center for North Africa
The New World Screwworm Eradication Programme, North Africa 1988-1992, FAO Rome,192p.:14-41

キーワード:不妊虫放飼法、ラセンウジバエ、根絶防除、中米
sterile insect technique, screwworm, eradication, Central America
分類コード:020201,040204

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