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作成: 1998/01/06 天野 悦夫

データ番号   :020079
大麦のウイルス病抵抗性育種
目的      :ウイルス病抵抗性大麦の突然変異による育成
放射線の種別  :ガンマ線
放射線源    :60Co線源(2600Ci)
線量(率)   :50 R/day(0.5Gy/day)
利用施設名   :農業技術研究所 放射線育種場 ガンマーフィールド
照射条件    :生育中の植物体に250R(2.5Gy)を5日にわたって照射した
応用分野    :作物育種、植物病理学研究、植物生理学研究

概要      :
 オオムギ縞萎縮病は土壌伝染性であり、広く各地の麦作に被害を与えている。病原ウイルスが土壌中にあるために、有効な防除法が無く、抵抗性品種の育成が望まれる。遺伝子資源としては既存の優性遺伝子Ym1とYm2が知られているが、同様に強い抵抗性を示し劣性遺伝するym3がガンマ線照射で誘発された。

詳細説明    :
 
 大麦縞萎縮病は東アジアのみならず欧州の秋まき大麦にとっても重要病害である。この病害は土壌伝染性ウイルス(Barley yellow mosaic virus, BaYMV)によるものであり土壌細菌のPolymysa graminis によって媒介される。そのため有効な経済的防除法が無く、抵抗性遺伝子を持つ品種を育成して栽培する以外に病害を回避する対策がない。
 
 この目的で使える遺伝子資源としては我が国では「木石港3」(Ym1)と「御堀裸3号」(Ym2)、欧州では「Ragusa」があるにすぎない。これらは優性遺伝するが、育種利用には交配による導入となり、交配親の特性が失われてしまう。突然変異法によりウイルス病抵抗性の育種を行うことができるならば、親の優れた特性をそのまま残した、抵抗性品種が育成できる。本研究はその可能性が十分に高いことを示し、ウイルス病抵抗性の誘発という画期的な成果を得たものである。
 
 この変異体は竹林茨城1号からガンマ線生体照射で得られた早生突然変異体系統を、BaYMV によって汚染された圃場で栽培していて見出されたもので、単因子劣性の遺伝子によることが判り、その遺伝子はym3と命名された。


図1 オオムギ縞萎縮病の抵抗性突然変異体(中央)(原論文3より引用)

 このウイルス病に対する抵抗性変異体の選抜には、汚染された圃場での栽培以外に便利な良い方法がない。しかし同様の選抜法で、その他の早生突然変異体系統の内、3系統が中程度の BaYMV 抵抗性であることが判り、さらにこのウイルス汚染圃場を使った選抜で新たに突然変異誘発処理をした次代のM2世代集団から、新たに8系統の抵抗性系統が得られている。
 
 Elisa法や電子顕微鏡による詳細検討から、用いていた親系統は BaYMV に随伴しやすい麦類萎縮病(SBWMV)にも侵されていたが、抵抗性の突然変異系統ではこの SBWMV に対しても抵抗性であることが判った。なお中程度の抵抗性変異として誘発されたものではこれら2種のウイルスのいずれか一方に抵抗性であることも判った。
その後、この抵抗性突然変異遺伝子を持つものとして「まさかどむぎ」が登録公表されている。

コメント    :
 ウイルス病に対する抵抗性が突然変異法で得られたという好例である。当初早生変異体として選抜されたものであったが、ウイルス汚染圃場というマイナス要素を、優れた選抜圃場に使うことにより大きなプラスに変えた研究者の着目に敬意を示しておきたい。

原論文1 Data source 1:
Induced Mutations for Disease Resistance in Barley.
Isao YAMAGUCHI, Yasuo UKAI*, and Atsushi YAMASHITA**
Tohoku National Agricultural Experiment Station, *National Institute of Agro-Environmental Sciences, **National Agricultural Research Center
Gamma Field Symposia No.27, 1988, pp33-48

原論文2 Data source 2:
オオムギにおける縞萎縮病抵抗性の突然変異
鵜飼 保雄、山下 淳
農業技術研究所放射線育種場
育種学雑誌 30(2) pp125-130 (1980)

原論文3 Data source 3:
オオムギの縞萎縮病抵抗性突然変異
鵜飼 保雄、山下 淳
農業技術研究所放射線育種場
放育場テクニカルニュースNo.21

参考資料1 Reference 1:
Genetic Studies on Resistance to Barley Yellow Mosaic Virus (BaYMV)in Barley
Takeo KONISHI
Faculty of Agriculture, Kyushu University
Gamma Field Symposia No.34 1995 pp105-121

キーワード:オオムギ、ウィルス、耐病性、突然変異、ガンマ線、劣性遺伝子、育種
barley, virus, desease resistance, mutation, gamma-ray, recessive gene, breeding
分類コード:020101,020501

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