ガンマ線で誘発されたイネ半矮性突然変異体の特性

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作成： 1997/12/16 長谷川　博データ番号　　　：020078 ガンマ線で誘発されたイネ半矮性突然変異体の特性目的　　　　　　：ガンマ線照射により誘発された多様なイネの有用半矮性遺伝子の解析放射線の種別　　：ガンマ線放射線源　　　　：⁶⁰Co線源利用施設名　　　：京都大学農学部、農業生物資源研究所放射線育種場ほか照射条件　　　　：空気中応用分野　　　　：育種概要　　　　　　：　ガンマ線照射等により誘発されたイネの半矮性突然変異体を収集し、自然突然変異により生じたと考えられる半矮性品種とともに、ダイアレル分析や主成分分析等の統計学手法を用いて半矮性遺伝子が形態・遺伝学的特性に及ぼす効果が調べられた。その結果、ガンマ線照射により多様な半矮性突然変異遺伝子が誘発可能なことが明らかになり、放射線照射利用による突然変異育種法のイネ育種における実用的価値が明らかになった。詳細説明　　　　：　　イネ、コムギ、オオムギなどの作物における半矮性品種の導入は完熟期の倒伏を防止するとともに、耐肥性を増すことにもなり、作物生産の飛躍的向上をもたらした。しかしながら、現在利用されている半矮性遺伝子は各作物とも限られた数しかなく、将来の環境変化に対処するためには多様な半矮性遺伝子を獲得する必要がある。1980年代にIAEA/FAOのプロジェクトとして、穀類の半矮性突然変異体の利用が取り上げられ、作物の半矮性遺伝子の解析、利用法が進展した。本データベースはこのプロジェクトの一環として行われたイネの半矮性突然変異体に関する報告である。統計的手法を用いて半矮性突然変異体の形質の解析を行い、ガンマ線による同突然変異誘発の有用性を示している。表1 は半矮性突然変異体と原品種との形質の比較を示したものである。　　原論文1ではわが国の半矮性水稲品種の来歴とその意義が述べられるとともに、稈長突然変異体の遺伝子作用に関する報告がなされている。ガンマ線により誘発された長稈3系統、短稈3系統と原品種(銀坊主)について稈長に関するダイアレル分析の結果は稈長に関与する突然変異遺伝子は相加的かつ優性効果をもち、長稈が優性になる傾向を明らかにした。草型に関する31突然変異系統を用い、稈長を含む9種類の農業形質について主成分分析を行ったところ、第1主成分は長稈・上位節間伸長を表すことが認められた。　　原論文2はガンマ線や化学物質処理により誘発された82系統におよぶ半矮性突然変異体(原品種は銀坊主、農林8号、ニホンマサリの3品種)を用いて、稈長だけでなく、伸長節間の数と位置、稈の太さ、その他農業形質の比較を行った結果を報告したものである。半矮性突然変異体は上位節間伸長・太稈タイプ、下位節間伸長・細稈タイプ、全節間の平均した伸長抑制のタイプに分類できるが、ガンマ線照射により生じた突然変異体にはすべてのタイプが生じることが明らかになった。さらに上位節間伸長・太稈タイプが収量性などの実用価値が高いこと、半矮性には2遺伝子が関与する場合もあることが示されている。　　原論文3では原論文2で供試した突然変異系統中の69系統に加えて、他の半矮性突然変異系統、半矮性品種、比較品種等39品種・系統を加えて半矮性形質と他の農業形質の関連性を検討している。半矮性突然変異系統の形質は親品種の遺伝的背景に依存すること、節間伸長のタイプに関わらず収量性の高い系統が存在することなどが明らかになった。半矮性突然変異系統(表1 に示した系統について)の遺伝子分析も引き続き行われ、半矮性形質は単一劣性遺伝子に支配されている場合だけでなく、2つ以上の遺伝子が関与している場合があることも明らかになった。表1　Semi-dwarf mutants analyzed and their original varieties.（原論文3より引用） ---------------------------------------------------- Mutant or Culm Original Mutagen length Heading variety ［cm］ date ---------------------------------------------------- HS90 γ- rays 50(64) 9.03 X82 γ- rays 66(85) 9.06 IM222 γ- rays 72(92) 8.30 Gimbozu 　 78 9.01 M686 γ- rays 61(74) 9.03 M700 γ- rays 69(84) 9.03 M803 γ- rays 59(72) 9.03 M1007 γ- rays 56(68) 9.02 Norin 8 　 82 9.01 W12 　 EI 61(81) 8.20 W12 　 EI 63(84) 8.22 Wakaba 　 75 8.26 ---------------------------------------------------- ( ): Perecent of the original variety. 　なお、半矮性形質の遺伝子分析を行うにあたってはF2の分離だけでなく、F3における分離まで調査する必要性が示されている。イネの半矮性突然変異研究は米国においても優れた成果があり、放射線照射により多くの半矮性突然変異体が選抜されている。ことに、Calrose 76は多くの半矮性品種の交配母本としても利用され、カリフォルニアのイネ作に貢献をしている(参考資料1)。コメント　　　　：　矮性は最も生じやすい突然変異形質のひとつであり、それらのなかには本文で紹介したような有用な半矮性突然変異も含まれる。突然変異体の直接利用だけでなく、誘発された半矮性遺伝子を交配により導入することにより、半矮性突然変異体はわが国の多くのイネ品種の育成に貢献している。突然変異による矮性化はイネ科作物だけでなく、矮性が育種目標となるすべての栽培植物に有効な手段である。原論文１ Data source 1： Semi-dwarf rice breeding in Japan and genetic study of semi-swarf rice mutants. H.Yamagata, T.Tanisaka, K.Yonezawa and M.Fujimoto Faculty of Agriculture, Kyoto University Semi-dwarf cereal mutants and their use in cross-breeding. IAEA-TECDOC-268, 119-126, IAEA/FAO, Vienna, 1982. 原論文２ Data source 2： Agronomic characteristics of semi-dwarf mutant lines and gene analysis of semi-dwarfness in rice. H.Yamagata, T.Tanisaka, Y.Okumoto and M.Nishimura Faculty of Agriculture, Kyoto University Semi-dwarf cereal mutants and their use in cross-breeding. Ⅱ IAEA-TECDOC-307, 149-163, IAEA/FAO, Vienna, 1984. 原論文３ Data source 3： Genetic analysis of induced semi-dwarf mutants in rice. H.Yamagata, T.Tanisaka, M.Tomita and K.Shiraishi Faculty of Agriculture, Kyoto University Semi-dwarf cereal mutants and their use in cross-breeding. Ⅲ. IAEA-TECDOC-455, 149-162, IAEA/FAO, Vienna, 1988. 参考資料１ Reference 1： Use of induced and spontaneous mutants in rice genetics and breeding. J.Neil Rutger Agronomy Department, USDA-SEA-AR, University of California, USA Semi-dwarf cereal mutants and their use in cross-breeding. IAEA-TECDOC-268, 105-117, IAEA/FAO, Vienna, 1982. キーワード：イネ、育種、半矮性、突然変異、ガンマ線、遺伝子分析 Rice, Breeding, Semi-dwarf, Mutation, Gamma-ray, Gene analysis 分類コード：020101
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