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作成: 1997/10/09 小山 重郎

データ番号   :020065
不妊虫放飼法によるウリミバエ根絶における放飼法
目的      :不妊虫放飼法におけるウリミバエ不妊虫の放飼法の開発
放射線の種別  :ガンマ線
放射線源    :60Co線源
線量(率)   :70Gy
利用施設名   :沖縄県ミバエ対策事業所、鹿児島県大島支庁ウリミバエ対策室
照射条件    :空気中、室温
応用分野    :不妊虫放飼法、害虫防除

概要      :
不妊虫放飼法によるウリミバエの根絶のためには、不妊化されたウリミバエを野外に放飼する方法の開発が不可欠であった。蛹を現地に輸送する方法、蛹をバケツにいれて羽化させる方法、蛹を紙袋のなかで羽化させたのち空から投下する方法、羽化した成虫を冷却麻酔して空から放す方法などが開発され、対象地域の条件に応じて使い分けることにより、根絶が達成された。

詳細説明    :
わが国の南西諸島で不妊虫放飼法を用いてウリミバエを根絶しようとする事業は、 1972年に沖縄県で、また1974年から鹿児島県奄美諸島で開始されたが、大量増殖して不妊化されたウリミバエを大量に野外に放飼するためには、不妊虫を放飼場所にすみやかに輸送し、これを効率よく野外に放飼する方法の開発が必要であった。この方法は事業の進行と拡大と平行してつぎのように開発されていった。
 1)不妊虫の輸送:沖縄県では、はじめ石垣島で増殖された蛹を照射施設のある沖縄本島那覇市に輸送し、不妊化したのち、防除対象地の久米島に輸送した。そのため、蛹の照射容器を兼ねた輸送容器が開発され、これをさらに冷却して運ぶための箱がつくられた。蛹は呼吸し代謝熱を発するため、輸送容器は薄い網ばりのものとし、冷却箱には保冷剤をいれた。事業が沖縄県全域に拡大してからは、蛹を密閉容器にいれ、低酸素圧条件下において、呼吸を止め、代謝熱の発生も押さえた状態で、冷却せずに輸送する方法が開発され、輸送の能率は大幅に増大した。のちに後述の成虫冷却放飼法が開発されてからは、冷却して麻酔した成虫をそのまま輸送する方法もとりいれられた。
 2)不妊虫の放飼:沖縄県の久米島と奄美諸島においては、不妊虫の蛹を野外に吊るしたバケツにいれて成虫を自然に羽化させる方法が用いられた。この方法は費用が少なく、久米島のように島内に道路が整備されている環境には適していたが、バケツの管理に労力を要する難点があった。つぎに開発された方法は、袋放飼法である。これは紙袋に蛹をいれ、成虫が羽化したのち、ヘリコプターによって、空中から袋の口をあけて投下するものである。この方法は能率的であるが、費用が多くかかり、市街地では袋が環境を汚すという欠点があった。そこで、山林の多い離島などで利用された。事業が沖縄県全域に拡大してからは、冷却成虫放飼法が開発された。これは蛹を羽化箱にいれて成虫にしたのち、これを3℃に冷却して、成虫を麻酔してから、特別な放飼装置にいれ、ヘリコプターによって、空中から成虫だけを放飼する方法である。この羽化箱や放飼装置には逐次改良がほどこされた。この方法は極めて能率的であり、費用もかからないため、沖縄県の以後の放飼方法は全てこの方法によった。ただし、沖縄県南北大東島では、ヘリコプターの輸送が困難であったため、冷却した成虫をそのまま空輸して、地上から人力で野外に放すという方法がとられた。また、鹿児島県奄美諸島では前述のバケツ放飼のほかに、山間部や離島・無人島では蛹を専用の航空放飼容器にいれて、その2個を糸でつないでヘリコプターから投下し、糸が木の枝にひっかかり、蛹から成虫が羽化するという方法もとられた。
 以上のように、対象地域の条件に応じて、さまざまな不妊虫の放飼方法を用いることによって、沖縄県と鹿児島県奄美諸島のウリミバエ根絶は達成された。

コメント    :
 不妊虫放飼法による南西諸島のウリミバエの根絶は画期的なものであり、国際的にも高く評価されてきたが、これは適切な不妊虫の放飼方法が開発されたことによっている。この方法は諸外国の不妊虫放飼法によるミバエ防除にも参考とされている。

原論文1 Data source 1:
不妊虫の輸送 1.蛹輸送
一戸 文彦
農林水産省横浜植物防疫所
沖縄県ミバエ根絶記念誌、沖縄県農林水産部:91-94(1994)

原論文2 Data source 2:
不妊虫の輸送 2.アノキシア(低酸素圧)輸送 
棚原 朗
琉球大学
沖縄県ミバエ根絶記念誌、沖縄県農林水産部:94-96(1994)

原論文3 Data source 3:
不妊虫の輸送 3.成虫輸送
棚原 朗
琉球大学
沖縄県ミバエ根絶記念誌、沖縄県農林水産部:96-100(1994)

原論文4 Data source 4:
不妊虫放飼 1.蛹(バケツ)放飼
棚原 朗
琉球大学
沖縄県ミバエ根絶記念誌、沖縄県農林水産部:101-102(1994)

原論文5 Data source 5:
久米島および久米島周辺諸島への不妊虫放飼
久場 洋之
沖縄県農業試験場
沖縄県特殊害虫防除事業報告5:119-126

原論文6 Data source 6:
不妊虫放飼 2.冷却放飼の開発
仲盛 広明
沖縄県農業試験場
沖縄県ミバエ根絶記念誌、沖縄県農林水産部:102-109(1994)

キーワード:不妊虫放飼法、ウリミバエ、根絶、放飼
sterile insect technique, melon fly, eradication, release
分類コード:020201,040204

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