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作成: 1998/01/09 河村 葉子

データ番号   :020057
揮発性炭化水素による照射食品の検知
目的      :揮発性炭化水素を指標とした脂肪含有食品の照射検知法の開発
放射線の種別  :ガンマ線
放射線源    :60Co線源
線量(率)   :1-20 kGy
応用分野    :食品照射、食品衛生、流通管理

概要      :
γ線照射による脂肪酸の分解により、hexadecadiene、heptadecene、tetradecene等の特徴的な揮発性炭化水素が生成する。これらの化合物は非照射試料中には存在しないか微量であり、照射線量の増加に伴って生成量も増加した。牛・豚・鶏肉、ナツメグ・ウイキョウ等の香辛料、カマンベールチーズ、アボガド等の照射検知に適用できる。

詳細説明    :
γ線照射により、脂肪酸は分解して、それぞれの脂肪酸に特徴的な化合物を生成する。その中でも、2種類の炭化水素が主に生成する。1つはもとの脂肪酸より炭素数が1個少ない化合物、もう1つは炭素数が2個少なく二重結合が1個多い化合物である。これらの揮発性炭化水素を用いた脂肪含有食品の照射検知法の開発を試みた。その概要は、食品から溶媒を用いて脂肪を抽出し、脂肪から揮発性物質を精製した後、GC/FIDまたはGC/MSにより測定するという方法である。
牛・豚・鶏肉では、オレイン酸(18:1)、パルミチン酸(16:0)、ステアリン酸(18:0)が主な脂肪酸であるため、キーとなる炭化水素として、heptadecene(17:1)、hexadecadiene(16:2)、pentadecane(15:0)、tetradecene(14:1)、heptadecane(17:0)及びhexadecane(16:0)の6種類の化合物が検出される(図1)。


図1 Radiation-induced volatile hydrocarbons from the fat fraction of irradiated chicken carcass, pork, and beef. Hydrocarbons were separated on an HP Ultra 2 capillary column (5% diphenyl-95% dimethyl polysiloxane, 12 m×0.20 mm id, 0.33μm film thickness) and registered as total ion chromatograms in a mass spectrometer.(原論文3より引用)

いずれの化合物も照射線量と生成量に直線的な相関がみられたが、特にheptadecene、hexadecadiene、tetradeceneが照射の指標として適していた。すなわち、これらの化合物は非照射試料中に存在しないか微量であり、照射に対して高感度であった。また、試料を-20℃で16週間保存したところ、いくつかの揮発性物質でわずかな減少傾向はみられたが、照射の検知には差し支えなかった。
抽出した脂肪から揮発性炭化水素を精製する方法として、フロリジルカラムと"cold finger"と呼ばれる高真空蒸留を比較したところ、測定結果にはほとんど差はみられなかったが、フロリジルカラムの方が標準偏差がやや小さかった。また、両者の所要時間はフロリジルカラムが30分間と約1/4であり、全体としてフロリジルカラム法の方が適していた。
香辛料では、ナツメグ、ウイキョウ、赤トウガラシ、クミンにおいては、照射により同様の炭化水素が検出され、照射の有無の判別が可能であった(図2)。一方、バジル、黒コショウ、オレガノでは、常在成分として存在する多くの香気成分のためガスクロマトグラムが非常に複雑になり、照射分解物の検出が困難であった。


図2 Volatile analysis of non-irradiated and irradiated (20 kGy) fennel. Supelcowex 10 capillary column, 30 m x 0.32 mm i.d., 0.5μm film thickness, temperature programme: 40-245℃, 2.5℃/min. IS: C13:1 as internal standard. 16:2, 17:1: radiolytic hydrocarbons(原論文1より引用。 Reproduced from data source 1 with kind permission of The Royal Society of Chemistry)

魚においては、魚の種類による特異性などいくつかの問題がある。ガスクロマトグラムは非常に大きいプリスタンが存在し、肉類とは異なっていた。pentadecaneは照射由来ではない脱炭酸反応により生成することが知られているが、非照射試料中にも存在していた。長鎖の不飽和脂肪酸から照射により生成した脂肪族炭化水素量はかなり低かった。
揮発性炭化水素法について、多くのcolaborative studyが行われた。マサチューセッツ大学を中心として、鶏肉と卵粉末を0〜2 kGy照射した試料について行ったが、ほぼ良好な結果が得られた。図3に照射卵末のガスクロマトグラムと検量線を示した。


図3 Gas chromatograms and calibration curves for the radiolytic hydrocarbons (HC) in egg powder.(原論文1より引用。 Reproduced from data source 1 with kind permission of The Royal Society of Chemistry)

ドイツBGRを中心とする試験では、カマンベールチーズ、アボガド、パパイヤを0.35〜1 kGy照射した試料について行ったが、やはり良好な結果が得られた。このように、本法は脂肪を含有する様々な食品の検知法として有用である。

コメント    :
揮発性炭化水素法は、脂肪酸の分解物であるheptadecene、hexadecadiene、pentadecaneを指標とすることから、広範な脂肪含有食品に適用できる照射検知法である。本法は、1996年にヨーロッパ標準試験法に採用されている。

原論文1 Data source 1:
Progress in the Detection of Irradiated Foods by Measurement of Lipid-derived Volatiles
W.W.Nawar, Z.Zhu, H.Wan, E.DeGroote, Y.Chen, T.Aciukewicz
University of Massachusetts
Detection Methods for Irradiated Foods Current Status (C.H.McMurray, E.M.Stewart, R.Gray, J.Pearce eds), The Royal Society of Chemistry (1996):241-248

原論文2 Data source 2:
Methods for Routine Control of Irradiated Food: Optimization of a Method for Detection of Radiation-induced Hydrocarbons and its Application to Various Foods
A.Spiegelberg, G.Schulzki, N.Helle, K.W.Bogl, G.A.Schreiber
Institute for Social Medicine and Epidemiology, Federal Health Office(BGA)
Radiat.Phys.Chem., Vol.43, 433-444 (1994)

原論文3 Data source 3:
Evaluation of a Gas Chromatographic Method to Identify Irradiated Chicken, Pork, and Beef by Detection of Volatile Hydrocarbons
G.A.Schreiber, G.Schulzki, A.Spiegelberg, N.Helle, K.W.Bogl
Federal Institute for Health Protection of Consumers and Veterinary Medicine
Journal of AOAC International, Vol.77, 1202-1217 (1994)

参考資料1 Reference 1:
Foodstuffs-Detection of Irradiated Food Containing Fat- Gas Chromatographic Analysis of hydrocarbons
European Committee for Standardization
European Standard EN 1784 (1996)

キーワード:照射、検知、揮発性炭化水素、脂肪、ガスクロマトグラフィー、ヘキサデカディエン、ヘプタデセン、テトラデセン
irradiation, detection, volatile hydrocarbones, fat, gaschromatography(GC), hexadecadiene, heptadecene, tetradecene
分類コード:020404,020403

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