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作成: 1997/10/10 河村 葉子

データ番号   :020051
バッグインボックス無菌包装システムにおけるバッグの殺菌方法
目的      :無菌包装システム用バッグインボックス内袋の殺菌方法の検討
放射線の種別  :ガンマ線
放射線源    :60Co線源(6000 Ci)
線量(率)   :1.8-11 kGy, 5.6kGy/hr
利用施設名   :食品総合研究所ガンマーセル
照射条件    :大気中、室温
応用分野    :食品工業、殺菌、食品衛生

概要      :
 バッグインボックスの無菌包装システムの開発における、バッグの殺菌方法について検討した。ガンマ線殺菌における殺菌線量は15 kGyが適当であり、物性変化、揮発性物質の生成においても問題はなかった。一方、エチレンオキサイドガス殺菌では、ガスバリアー性の低い材質ほど適しており、殺菌後高温保存することにより残留量を減少できることを明らかにした。

詳細説明    :
 
 バッグインボックス(B.I.B.)とは、外装が段ボール箱で、内装がプラスチックの袋からなる液体輸送用のワンウェイ容器である。B.I.B.では内容物に対する耐水性、ガスバリアー性をプラスチックフィルムで行い、輸送や使用時に必要なハンドリング性を段ボール箱にもたせている。B.I.B.の特長は、空容器の保管スペースが小さい、廃棄処理が容易、コストが安いなどである。とくに業務用食品容器として無菌包装システムのニーズが高かったことから、DN-ABシステムとして実用化した。
 
 このシステムの概要は図1に示すように、DN-AB無菌充填工程と無菌バッグ製造工程に分けられる。バッグはポリエチレン(PE)、エチレン-酢酸ビニル共重合(EVA)などのフィルムをヒートシールして製袋するが、この工程中にキャッピングし密封する。その後ガンマ線照射またはエチレンオキサイドで殺菌し、充填工程に送られる。


図1 Flow chart of DN-AB system(原論文1より引用)

 バッグの殺菌方法として、紫外線照射、蒸気滅菌、過酸化水素処理等が検討されたが、透過性が大きく密封したバッグの中まで殺菌可能なガンマ線照射と、ガス体のためフィルムを透過でき、プラスチックの物性に及ぼす影響が小さいエチレンオキサイド処理が適当と考えられた。そこで、それらの殺菌条件やフィルムの変化等の検討を行った。
殺菌前のバッグの菌数を測定したところ、36%からは菌が検出されず、検出されても73%は10個以下、最大でも100個以下であり、最高初菌数は1×102個と推定した。バッグにBacillus pulmilusを107個入れ、各線量でガンマ線照射を行い、死滅曲線を求めた(図2)。


図2 Destruction of Bacillus pumilus spore by gamma-ray irradiation(原論文1より引用)

 この傾きから、バッグ(EVA-PE)のD値は空気中で1.6 kGy、窒素中で3.6 kGyであった。滅菌成立確立10-6として殺菌線量を算出すると、空気中で13 kGy、窒素中で29 kGyであった。実際上バラツキ等を考え、空気中で15 kGyで照射することとした。バッグのヒートシール強度に及ぼす照射影響を検討したところ、照射後ヒートシールを行うと60 kGyで強度の低下がみられたが、ヒートシール後の照射では低下はみられなかった。PEおよびEVA各層のシール強度に対する照射影響を図3に示したが、いずれの層間でも60 kGyの照射を行ってもシール強度に変化はみられなかった。


図3 Heat seal strength of irradiated bags(原論文1より引用)

 バッグに使用するPEについて、ガンマ線照射による揮発性物質の生成を調べたところ、炭化水素、アルデヒド、ケトン、カルボン酸などが検出された。これらは、電子線照射や熱分解においても見られる化合物であり、特に問題はないと考えられた。EVAについては、多量の酢酸が発生したが、他のカルボン酸類は少なかった。照射後の臭気はカルボン酸の発生が原因と推定されるが、発生を抑えるため、照射量を出来るだけ低くし、また、同種フィルムでも発生量が少ないものを選択することにより解決された。
 
 一方、エチレンオキサイド殺菌では、EVA-PEバッグのD値は12分で、殺菌時間は96分であった。ガスバリアー性の高い材質では、バッグ内にエチレンオキサイドが侵入しにくいため、殺菌時間はさらに長くなった。また、殺菌後、バッグ内にエチレンオキサイドが残存するが、これを減少させるためバッグを高温で保存すると効果があった。実際には、PE-EVAで2時間以上殺菌し、その後20℃3日間エージングを行う。
 DN-ABシステムでは、ガンマ線照射とエチレンオキサイドガスの2つの殺菌方法を目的により使い分け、食品のバッグインボックスへの無菌充填を実用化している。

コメント    :
 ガンマ線照射により容器包装の殺菌を行い、食品の無菌充填を行うという本システムは、食品用容器包装に照射滅菌を用いた我が国における先駆的な技術である。

原論文1 Data source 1:
バッグインボックス無菌包装システムの内袋殺菌方法について
角田裕孝、稲田潤二、東 敬子*
大日本印刷(株)包装研究所、*農林水産省食品総合研究所
包装研究, Vol. 5, No. 1, 19-28 (1984)

参考資料1 Reference 1:
バッグインボックス用無菌充填機の現況
松本 肇
大日本印刷(株)
食品と科学, No. 8, 108-111 (1987)

キーワード:無菌包装、バッグインボックス、殺菌、ガンマ線照射、エチレンオキサイド、ポリエチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合
aseptic package, bag-in box, sterilization, gamma-irradiation, ethylene oxide, polyethylene, ethylene-vinylacetate copolymer

分類コード:020406, 010401

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