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作成: 1998/09/06 伊藤 均

データ番号   :020048
飼料の放射線殺菌(原研での研究)
目的      :放射線殺菌による飼料の衛生化処理
放射線の種別  :エックス線,ガンマ線,電子
放射線源    :60Co線源
線量(率)   :5 - 8kGy
利用施設名   :日本原子力研究所高崎研究所食品照射ガンマ棟
照射条件    :室温照射
応用分野    :家畜飼料の衛生化、乾燥食糧の殺菌、食品照射

概要      :
配合飼料には大腸菌群が1g当たり5 x 103 - 7 x 105 個検出されたが、腸内由来の大腸菌群は1%以下であった。配合飼料を夏期と同じ高湿度下で貯蔵すると糸状菌が急速に増殖し、飼料の栄養価が低減した。また、増殖してくる糸状菌にはカビ毒を産生する仲間も検出された。配合飼料の糸状菌発生は5kGyのγ線照射で著しく抑制され、照射した配合飼料による鶏の雛による飼育試験では栄養価への悪影響は認められなかった。飼料原料として用いられる魚粉にはサルモネラ菌が多く検出されたが、5kGyのγ線照射で殺菌された。

詳細説明    :
家畜の病気は飼料が原因で発生することが多い。ことに、鶏の雛や子豚は飼料中のサルモネラ菌が原因での病気が多発している。一方、糸状菌が産生するカビ毒による家畜の病気も無視することはできない。配合飼料中の総細菌数は1g当たり5.3 x 104 - 2.2 x 106個であり、大腸菌群は5.1 x 103 - 6.8 x 105個検出された。大腸菌群の中で腸内由来の大腸菌群は1%以下であった。また、好浸透圧性糸状菌は9.6 x 102 - 3.5 x 105個検出され、その多くはAspergillus属で占められていた。一方、表1に示すように飼料原料の魚粉10試料中の5試料よりサルモネラ菌が検出され、大腸菌群は1g当たり5.6 x 101 - 1.6 x 104個検出され、その10 - 60%が腸内由来の大腸菌群で占められていた。

表1 Distribution of salmonellae in fish meals and mixed meals produced mainly at near coast of Japan(原論文2より引用)
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                   Counts of    Coliforms
Sample             salmonellae  per gram
                   in 250g
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Fish meal A             20       3×103
Fish meal B              0       4×102
Fish meal D              0       3×102
Fish meal E              6       6×101
Fish meal F              1       5×103
Fish meal T             10       2×104
Mixed meal C            15       1×105
Mixed meal G             0       2×103
Mixed meal H             0       1×105
Scraps of waste fishes   0         4
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家畜の病気に関与する可能性があるサルモネラ菌や腸内由来の大腸菌群は5kGyのγ線照射により殺菌された。また、夏期と同じ高湿度下で飼料貯蔵中の変敗やカビ毒産生に関与する糸状菌の急速な発生が認められたが、5kGyのγ線照射により著しく抑制された(図1)。


図1 Survival curve of Salmonella sp. A1-1 irradiated under the dry condition in fish meal A(原論文2より引用)

放射線殺菌した配合飼料を白色レグホンの雄雛に給与して飼育試験を行ったところ、5kGy及び10kGy照射での栄養価への悪影響は認められなかった。一方、配合飼料を30℃・85%の高湿度下で1か月貯蔵すると、非照射の飼料には糸状菌が著しく増殖し、雛の成長及び飼料効率が低減したのに対し、10kGy照射飼料では糸状菌は発生せず、雛の成長及び飼料効率の低減は認められなかった。(原論文4参照)

コメント    :
飼料業界及び畜産業界においては魚粉や骨粉などの飼料原料に由来するサルモネラ菌による家畜の病気が深刻な問題になっている。これらの病原菌を高温で殺菌すると蛋白質成分の化学反応により毒性物質が生成し家畜に被害を及ぼすことがある。また、家畜の病気を防止するために、飼料中に抗生物質が多量に添加されているが、薬剤耐性の細菌が出現して、医療の上で大きな問題になっている。このため、放射線による飼料の殺菌が最も安全で確実な方法であるが、わが国では実用化が行われにくい雰囲気がある。無菌の実験動物用飼料の放射線滅菌はわが国でも30年以上の実用化の実績があり、安全性には全く問題のないことが実証されており、家畜用飼料についても安全性は問題がないと思われる。

原論文1 Data source 1:
配合飼料中の微生物分布と放射線殺菌効果
伊藤 均、久米民和、武久正昭、飯塚 廣
日本原子力研究所高崎研究所
日本農芸化学会誌、55卷(11)、1081 - 1087 (1981)

原論文2 Data source 2:
飼料用魚粉の微生物分布と放射線殺菌効果
伊藤 均、Anwara Begum、久米民和、武久正昭
日本原子力研究所高崎研究所
日本農芸化学会誌、57卷(1)、9 - 16 (1983)

原論文3 Data source 3:
放射線による配合飼料の殺菌と貯蔵効果
久米民和、伊藤 均、武久正昭、飯塚 廣
日本原子力研究所高崎研究所
食品照射、16卷、29 - 32 (1981)

原論文4 Data source 4:
飼料の放射線処理が殺菌効果および雛に対する栄養価に及ぼす影響
土黒定信、武政政明、伊藤 均*、久米民和*
農林水産省畜産試験場、*日本原子力研究所高崎研究所
畜産試験場研究報告、40号、57 - 64 (1983)

キーワード:飼料、放射線処理、殺菌効果、魚粉、サルモネラ菌、栄養価、カビ毒、糸状菌
animal feed, radiation treatment, effect of disinfection, fish meals, salmonellae, nutritive value, micotoxine, fungi
分類コード:020403, 020502, 020301

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