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作成: 1997/10/31 古田 雅一

データ番号   :020047
飼料の放射線殺菌(関西での研究)
目的      :実験動物飼料の放射線滅菌における無菌性の標準化と飼料製造業者間における相互比較における滅菌線量の妥当性の検証
放射線の種別  :ガンマ線
放射線源    :60Co線源(20350TBq)
線量(率)   :3.6-50kGy, 15 kGy/h
利用施設名   :(社) 日本アイソトープ協会甲賀研究所
照射条件    :空気中、室温、
応用分野    :滅菌、飼料の衛生化

概要      :
 実験動物技術者協会関西支部において結成された照射飼料検討会において放射線滅菌に関する勉強会が行なわれ、無菌試験法の精度、ピンホールの形成が少ない高分子包装材の選定を行った結果、日本薬局方に記載されている無菌試験法の有効性を確認し、ナイロン、ポリエチレン、接着層から成る三層フィルムがピンホールの防止に有効であることが明らかになった。

詳細説明    :
 
 実験動物の滅菌方法には、高圧蒸気(オートクレーブ)滅菌法、エチレンオキサイドガスなどによるガス滅菌法と放射線滅菌法の3種があり、いずれも医療用具の滅菌から応用されたのが始まりであると考えられる。高圧蒸気滅菌は最も早くから行なわれ、設備も簡単であるためよく普及しているが、ペレット状や粉末状の飼料を処理すると硬化・粘結しやすく、嗜好性や成分に変化を生ずる可能性があり、発育などへの影響が論じられてきた。ガス滅菌はペレット内部へのガス浸透の保証や、ガス残留の可能性および処理後の排ガスの安全性などに問題があるとされている。これらに対して放射線滅菌法は、温度上昇が軽微であること、有害残留物の心配がないこと、成分劣化が少ないこと、最終包装状態での処理が可能なこと、など、多くの利点を有する。照射飼料はオートクレーブ飼料に比べてビタミン類の劣化が少なく、また動物の嗜好性に影響を及ぼす硬化や粘結の恐れもない。
 
 照射飼料の普及に当たっての問題点は、残存菌検査の方法が生産者間で異なり、相互比較が難しく、放射線滅菌の信頼性に誤解を生じる源となっていること、照射手数料が割高であることがあることが上げられる。実験動物飼料に対する滅菌線量としては従来30ないし50 kGyが採用されてきたが、滅菌実験動物飼料のうち、完全無菌が求められる無菌動物向けの飼料は全体の一割以下であり、多くはSPF(Specific pathogen free)動物用の飼料として供給されているのが現状である。SPF動物向けの飼料の放射線照射に関しては10〜20 kGy程度の線量に減らすことができれば経済的には大きなメリットとなる。
 
 照射飼料検討会は、1982年12月に日本アイソトープ協会甲賀研究所が設立された際、実験動物技術者協会関西支部の主催で行われた「実験動物飼料の放射線照射に関する見学と意見交換会」における意見交換をもとに放射線照射飼料の普及をはかることを目的に同協会会員を中心に発足した。
 
 参加者の所属は、飼料製造販売業、実験動物飼育管理部門、実験動物生産供給業、大線量照射事業などさまざまで、国内外の関係文献の勉強会を開始し、さらに1984年からは、信頼できる標準的な無菌検査の方法を選抜し、10〜20 kGy照射の場合の滅菌達成度を試験し、得られた結果を比較的小線量照射の、つまり照射手数料が低額な飼料の流通につなげようと、共同試験が実施された。これには、大阪府立放射線中央研究所(現大阪府立大学先端科学研究所)、(株)大塚製薬工業、オリエンタル酵母工業(株)、京都大学医学部付属動物実験施設、(株)ケアリー、塩野義製薬(株)油日ラボラトリーズ、武田薬品工業(株)中央研究所、東レ(株)開発部、(社)日本アイソトープ協会甲賀研究所、日本クレア(株)、日本農産工業(株)、(株)船橋農場、(株)ラビトン研究所の13機関が参加した。
 
 メンバーは、(社)日本アイソトープ協会甲賀研究所で種々の線量を照射された飼料サンプルの配付を受け、TGC培地を用いた決められた同一の方法で無菌試験を前後3シリーズ行い、集約された試験結果について会合を開いて、討議してまとめるといった形で進められた。その結果、マウス・ラット及びウサギ・モルモット用固形飼料については20 kGyでほとんど無菌になること、粉末飼料では15 kGyで十分無菌化できることが明らかになった。また照射後の再汚染の原因となる包材のピンホールの形成をできるだけ防ぐためにもっとも有望な材料としてはナイロン、ポリエチレン、接着層から成る三層フィルムが選抜された。

コメント    :
 上記検討会で行なわれた相互比較は、現在、ISOに記載されているおける滅菌のバリデーションの概念に準拠した先駆的な検討である。実験動物飼料の放射線滅菌をバリデートするうえで、本検討での無菌試験法の選抜や得られたデータは国際的に通用する滅菌工程のマニュアル化、基準化を進めるためには不十分であると思われるが、今後より詳細な検討を進めるうえで十分参考になる基礎データになると考えられる。

原論文1 Data source 1:
関西支部における照射飼料検討会報告(第1報)
橋本 和男、武田 篤彦*、竹之下 洋司**、野内 工***、中尾 博之****
京都大学医学部付属動物実験施設、*大阪府立放射線中央研究所(現大阪府立大学先端科学研究所)**(株)ケアリー、***武田薬品工業(株)中央研究所、****塩野義製薬(株)油日ラボラトリーズ
実験動物技術 Vol.19(2) pp.114-122 (1984)

原論文2 Data source 2:
関西支部における照射飼料検討会報告(第2報)
中尾 博之、橋本 和男*、武田 篤彦**、竹之下 洋司***、野内 工****
塩野義製薬(株)油日ラボラトリーズ、*京都大学医学部付属動物実験施設、**大阪府立放射線中央研究所(現大阪府立大学先端科学研究所)***(株)ケアリー、****武田薬品工業(株)中央研究所、
実験動物技術 Vol.22(1) pp.12-18 (1987)

原論文3 Data source 3:
関西支部における照射飼料検討会報告(第3報)
武田 篤彦、橋本 和男*、竹之下 洋司**、野内工***、中尾 博之****
大阪府立放射線中央研究所(現大阪府立大学先端科学研究所)、*京都大学医学部付属動物実験施設、**(株)ケアリー、***武田薬品工業(株)中央研究所、****塩野義製薬(株)油日ラボラトリーズ
実験動物技術 Vol.20(2) pp.131-138 (1985)

原論文4 Data source 4:
関西支部における照射飼料検討会報告(第4報)
武田 篤彦、橋本 和男*、竹之下 洋司**、中尾 博之***
大阪府立放射線中央研究所(現大阪府立大学先端科学研究所)、*京都大学医学部付属動物実験施設、**(株)ケアリー、 ***塩野義製薬(株)油日ラボラトリーズ
実験動物技術 Vol.21(2) pp.225-232(1986)

原論文5 Data source 5:
関西支部における照射飼料検討会報告(第5報)
武田 篤彦、橋本 和男*、竹之下 洋司**、中尾 博之***
大阪府立放射線中央研究所(現大阪府立大学先端科学研究所)、*京都大学医学部付属動物実験施設、**(株)ケアリー、***塩野義製薬(株)油日ラボラトリーズ
実験動物技術 Vol.22(2) pp.121-128 (1987)

キーワード:実験動物飼料、滅菌、ガンマ線照射、無菌試験、相互比較
animal feed, sterilization, gamma-irradiation, pasteurization test, mutual comparison
分類コード:020402

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