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作成: 1997/10/24 古田 雅一

データ番号   :020036
柑橘類の放射線殺虫
目的      :地中海ミバエの殺虫を目的とした放射線照射による柑橘類の検疫処理
放射線の種別  :ガンマ線
放射線源    :60Co線源(9000MBq),
線量(率)   :3.3 kGy/h, 0.3-1 kGy, 7.41 kGy/h,0.5-3 kGy
利用施設名   :A Co-60 gamma irradiator of the National Brook Haven Laboratory, 農林水産省食品総合研究所ガンマセル 220
照射条件    :空気中、室温、
応用分野    :食品照射、検疫処理

概要      :
 従来の薬剤処理に変わる柑橘類の殺虫及び保存法としての放射線照射の有効性を検討するためにバレンシアオレンジ(カリフォルニア産)とグレープフルーツに対して照射後の品質変化について検討した。その結果、オレンジでは照射後摂氏7度で7週間保存の場合は0.75 kGy、摂氏21度保存では0.5 kGyの照射で品質に変化が見られなかった。グレープフルーツの場合には3 kGyにおいてもビタミンCに変化は見られなかった。

詳細説明    :
 
 亜熱帯地域を産地とするバレンシアオレンジやグレープフルーツはしばしば地中海ミバエに汚染されており、植物防疫上非常に大きな問題となっている。地中海ミバエの殺虫処理は従来二臭化エチレン(EDB)により行われてきたが、果実に残留する薬剤の毒性や発ガン性のために米国では1984年に使用禁止となった。その代替法として一部の果実に対しては温熱処理が行われているが、品質劣化を引き起こすため、より有効な方法の開発が望まれてきた。
 
 薬剤を用いない物理的な処理である放射線照射は上記の欠点を補う有効な殺虫法として期待されるが、従来の研究では防カビを目的とした2〜5 kGyの線量範囲で検討が行われていたが、本研究においては地中海ミバエの殺虫線量として米国食品医薬品局(FDA)から提案された1 kGyまでの線量域において、照射後の色、形状、テクスチャー、香り、風味について官能試験を行うと同時に色、テクスチャー、ビタミンC含量、酸性度について機器分析を行った。
 
 その結果、内果皮の色、形状について1 kGyまでの照射では、照射後7.2 ℃、21.2℃の各温度条件で最大7週間まで保存しても、品質変化はごくわずかであった。果実表面のテクスチャーについては、照射後21.2℃の保存では線量の増加にともない柔らかさが増したが、7.2℃では7週間保存後も目立った変化は見られなかった。香りについては0.5 kGy照射後、7.2℃で4週間保存したのち21.2℃でさらに2週間保存した場合には照射の影響は見られなかったが、1 kGy照射の場合には同じ条件で香りの劣化が見られた。しかし、7.2℃では7週間の保存においても香りの劣化は見られなかった。風味については、0.75 kGy, 1.0 kGy照射では、7.2℃の保存では7週間保存しても劣化が見られなかったのに対し、21.2℃の温度条件が少しでも入ると、相当の劣化が見られた。しかしながら0.5 kGy以下での風味劣化は生じなかった。
 
 機器分析による果実の色変化を検討した結果、官能試験と矛盾しないことが明らかになった。テクスチャーの分析結果については、保存温度を高めたり、保存期間が長くなるほど果実表面が柔らかくなっており、官能試験、機器分析の両方で、線量と保存温度を高めると果実表面の柔らかさが増加した。ビタミンC含量、酸性度などの生化学的指標は照射の有無、保存温度、保存期間に関係なくほぼ一定であり、ビタミンCは58.5-89 mg/100g(w/w)、酸性度はクエン酸換算で0.66-0.84%、pHは3.72-4.00、総可溶性固形分は10.2-12.2 であった。以上の結果より、6週間保存で品質劣化が無視できる最大線量は7.2℃で保存した場合については0.75 kGyであるが、より実用に近い7.2℃、4週間、その後21.2℃、2週間保存の条件では0.5 kGyであった。
 
 一方、わが国においては、米国フロリダ州産の輸入グレープフルーツについて米国での許可線量1 kGyを含む3 kGyまで照射された果実の保存中のビタミンC含量に及ぼす影響が検討された。照射直後の試料および照射後4℃、15℃でそれぞれ一カ月保存した試料のビタミンC含量は3 kGy照射した場合にも顕著な変化が見られず、対照として行った湿熱処理におけるビタミンC含量と比較しても測定値に有意な変化が見られなかった。以上の結果より放射線殺虫における品質劣化の影響は無視できるものと考えられる。

コメント    :
 上に述べたように柑橘類に寄生する地中海ミバエの駆除には、安全性の点で放射線照射が薬剤(EDB)処理よりも有利であり、照射された柑橘類の品質に問題のないことが上のデータから明らかである。これらの結果を受けて米国ではすでに1kGyまでの放射線照射が許可されているが、日本では許可されていないため、現在でも薬剤燻蒸が続けられるていることは非常に残念である。わが国においても、正しい照射食品の知識普及をさらに推進し、パブリックアクセプタンスを得る努力が引き続き必要である。

原論文1 Data source 1:
殺虫のためのガンマ線照射処理あるいは加熱処理を施したグレープフルーツのビタミンC量
田島 眞、L.ブランコ*、等々力 節子
農林水産省食品総合研究所、*フィリッピン原子力委員会
食品照射Vol.23(2), pp.63-65 (1988).

原論文2 Data source 2:
Quality of Gamma Irradiated California Valencia Oranges
N. Y. Nagai, J. H. Moy*
Honolulu Poi Co., Ltd., *Dept. of Food Science and Human Nutrition, Univ. of Hawaii
J. Food Sci. Vol. 50, pp. 215-219 (1985).

キーワード:バレンシアオレンジ、照射、ガンマ線、検疫処理、グレープフルーツ、ビタミンC
Valencia orange, irradiation, gamma-rays, quarantine treatment, grape fruits, vitamin C
分類コード:020402、020202

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